表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/68

第46話 私、帰宅許可おりたが

 若君、話し合いの前に、1つ言っておく!

 またノックしてないのである!

 礼儀は大事である!

 私は疲れているといえども、内心では突っ込みは忘れないのである!

 そう、表には出せない声なのである。無念である。

 しかし私は立場を弁えているのである。

 今日はもう好配の儀を終えただけで、解放して欲しい!

 話し合いは後日父としてくださらないか。

 今日話し合わなければならないことがまだあるのか。

 別れの挨拶なら不要である。

 若君もお忙しい身であろう。

 私に時間を割く必要はないのある!

 そう言いたい!

 しかし相手は本家の次期当主である。

 無下にする訳にはいかないのである。

 私は座っていたソファからさっと立ち上がり、左胸に右手を当てて彼らが来るのを待つ。

 父はというと、若君とその後ろに三弥さんが入って来た瞬間立ち上がり、私と晶露様座るソファの後ろにびしりと控えた。

 いや、父。本来であれば、大人の父が、私の保護者として、若君と話し合わなければならないのである。その行動は間違いである。

 父?なぜに私と目を合わせようとしない?

 私が咎めるように父を眺めている間に、彼らはすでにソファに到着してしまった。

 仕方がない。ここは私が引き受けようではないか。

 父に任せると不安であるのも、悲しいかな、また事実である。

 父、しかしこれの貸しは高くつくぞ。

 後で覚悟をしていて欲しい。

 その願いを込めて父に視線を送るが、前方に視線をやったままだ。

 豆のように小さくなるよりは、堂々としていたほうがいいけれど。

 顔がまた無である。

 ため息をつきたくなるのは致し方ない。

 私が諦めて、前を向くと、若君が座り、その座るソファの後ろに三弥さんが父同様に立った。

 ソファに挟まれたローテーブルには父のカップは下げられ、若君の紅茶が出されていた。

 野衣さん、対応が早い。

「若君、若君につきましては」

 と私が、略式の礼をとって、口上を述べようとしたところ、

「堅苦しい挨拶は不要だ」

 と、遮られてしまった。

 そして、「座れ」とのこと。

 私はその言葉に従い、素直に座る。

 私は今世の礼儀作法がわからぬ身である。

 省略してよいものであるなら、ありがたいことである。

 私は幸か不幸か若君の筆頭許嫁候補になってしまった身である。

 今後今世の礼儀作法を学ばねばならぬと心に留めておくのである。

 そう考えている間に、若君が口を開いた。

「さて、先程の好配の儀、ご苦労であった」

「ありがたく」

 なにこの時代劇調のやりとり。

 とても一桁の年齢同士のやりとりではないのである。

 私はもう少しフランクに生きたい。

 そして若君、父の位置取りに突っ込みはないのであるか?

「最年少であるそなたが一番堂々としていたと、父上も、おじいさまも言っていた」

 ないらしい。それならばままに進めるしかないのである。

「過分なお言葉、痛み入ります」

「もう少しくだけた言い方はできないか?」

 若君もそう思っていたのであるか。

 幸いである。

「お許しいただけるなら、口調を少し改めさせていただきます」

「許す」

「ありがとうございます」

 ここで調子にのってはいけない。油断してはならないのである。

 いくら若君が許すとはいっても、多少だ。

 所詮私は分家序列最下位の家の娘である。若君が許したところで、後ろに控えている三弥さんが許しはしないのである。

 ここ、ポイントである。

 引っかからないよう気をつけて欲しい。

「これからのことだが、なにせ急な変更が多々あったからな。対応はまだはっきりとは決まっていない。それが決まるまで、こちらに滞在して欲しいのだが」

「恐れながら、それはご容赦いただけないでしょうか?」

 自身で戒めて置きながら、咄嗟に拒絶の言葉が飛び出た。

 ぴくりと三弥さんの眉が動く。

 私の背中にぶわっと汗が噴き出た。

 しかし、しかしである。

 私ももう限界である。

 一度家に帰って、冷静に事を受け止めたいのである。

 なので、無礼を承知で、言わせてもらうのである。

「なぜだ?」

「若君が申された通り、私にとっても青天の霹靂のごとく色々なことが起きました。一晩休んだとはいえ、頭が正常には働いてません。一度家に帰って、心を静めたいと存じます」

 何度でも言おう!限界ギリギリなのである。

 であるから、私は今日帰る!帰らせてもらおう!

「うむ」

 若君は顎に手を当て考える。

 私の意見が一考に値すると思ってくれたようである。

 もう一押しか。

「それに幼稚園をあまり休みたくはないのでございます」

 そう、まだ学ぶ未満の場であろうとも、通う身であるなら、できるだけ休みたくはないのである。

 正直に言おう!幼稚園の友、ネイちゃんに会いたい。

 日常に戻りたい。たとえ一時であってもである。

「今後のことに見通しがつきましたら、呼び出していただければ、参上致しますから」

 父が。私はできれば遠慮したい。

 若君とて、まだ7歳である。

 すぐに婚儀を結ぶでもないのある。

 であるなら、時間に余裕があろうものである。

 若君もそう思ったのか、頷いてくれた。

「よかろう。そなたの学業をあまり妨げるのもよくはないだろう。帰宅を許す」

 幼稚園は学業と言える学び舎ではないが、若君がそう思ってくれるのであれば、それでよいのである。

「ありがとうございます!」

 やった!帰るぞ!一刻も早く帰るのだ!

 ちらりと見上げた父の顔も明るい。であるよな。

「これから帰るか?」

 愚問である。

「はい。できれば」

「わかった。今後の事については追って連絡する」

「承知致しました」

 父よ。連絡が来るらしいぞ。よしなにである。

 と、その時、話を黙って聞いていた、晶露様がぽつりと呟いた。

「おおみねえさま、かえってしまうの?」

 ロウも問うような顔をこちらに向けている。晶露様の気持ちを察しているのかもしれない。

「はい。おせわになりました」

 私は帰宅できるうれしさを少し抑えてつつ、お答えした。

 そこで晶露様は震えを押さえるようにぎゅっと唇を噛みしめる。

「またすぐおあいできますか?」

 そうですねと言いたい。けれどもそれは今の段階ではわからない。

 私はまだ5歳。私の一存で返事をする訳にいかない。

 嘘になってしまうから。

 晶露様に嘘はつきたくない。

 だから私からの精一杯の返事は。

「会えるとうれしいですね」

 ああ、なんと曖昧な言葉だ。

 しかしさすが本家のご子息である。

 すぐには会えないと私の言葉と表情で悟ったらしい。

 まだ3歳であるのに、聡明な方である。

 と、そこで晶露様は唇を震わせた。

「いや」

「え?」

「いやです!ねえさま!かえらないでえええええええ!!」

 晶露様はそう叫ぶと、ぶわりと目に大粒の涙をぼろぼろ零し始めた。

「いやああああああああ!」

 ギャン泣きである!

 あわわわわ!

 エマージェンシー! エマージェンシー!

 誰か助けて欲しい!!!

 どうすればよいのか!?

 私は助けを求めて、若君を見る!

 しかし、若君は耳を塞ぎ、またかというような顔をするばかりである。

 若君よ、弟君を抱き上げて、あやして差し上げて欲しい!

 どうか!お早く!

 しかしその願いむなしく、手を差し伸べる気配がない。

 なんてドライな兄弟なのであるか!

 私が口を挟む訳にいかぬだろう!

 最後の望みと三弥さんを見ると、ぴくりと眉を動かすのみで、対処しようとしない。

 父はおろおろとするばかりだ。

 これが本家のご子息でなければ、父は素早く抱き上げてあやしてあげるのであろうが。

 だれか! だれか! 晶露様に救いの手を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ