第38話 私、再び若君を迎える
向かい側に座っていた父が、すばやく立ち上がり、さっと私と晶露様が座っているソファの後ろに立つ。それに併せて私も立ち上がった。
そして二人で、若君に朝のご挨拶をする。
「「おはようございます!」」
「ああ、おはよう」
若君は当然のごとく、父がのいたソファに腰をかける。三弥さんは定位置の若君のソファの後ろだ。三弥さんの後ろに従っていた緑のリボンのメイドさんが、テーブルの上をさっと片付ける。そして新たなお茶を出す。
「にいさま、おはようございます!」
晶露様も元気に挨拶をする。
はて?昨日は若君が入ってくると、すぐに駆けだして抱きついていたが。
今日は落ち着いている。どうしたことか。ご気分の赴くままであるか。それもまた良しである。
「ああ、おはよう」
若君が弟君にも挨拶を返す。
「晶露、こちらに来い」
「はい」
晶露様は少し不満な顔をみせたが、素直に若君の隣へと席を移す。
うむうむ。正しき席次である。
そして晶露様は、丁度よいというように、若君にお願いする。
「にいさま、きょうもほいくえんを、おやすみさせてください。にいさまのたいせつなぎしきをみたいのです」
「昨日は自分の部屋でおとなしくしている約束で、休みを許したのだぞ。それを破ったのに、その上で、わがままを言うか」
若君が眉をしかめる。
約束破ったから、お許しがでないか?
「だめですか?ロウといっしょにおとなしくしていますから!ねえさまのおそばにいたいのです!」
若君は少し考えた後に、頷いた。
「いいだろう。妖精の姿を、皆に知らしめる機会にもなろうからな。それにだめとしたところで、聞き入れなさそうだ。儀式に参加できるように、父上に進言してやる」
若君は晶露様の頭を撫でつつ、そうため息をついた。
何のかんの言いつつ、弟君には甘い、若君である。
「ありがとうございます!」
晶露様、自分の願いが通ってニコニコである。
「いい。たいしたことではない」
そう返す若君は、朝からお疲れのご様子だ。
昨夜の疲れがとれていらっしゃらないのか?子どもなら一晩寝れば、疲れなど吹き飛んでしまう筈であるが。昨夜よく眠れなかったのであろうか。若い身空で、それはいけない。夜はぐっすり眠らないと。
まだ7才であるのに。
本家では規律が厳しいのであろう。
気苦労が多そうである。
まだ起きて一時間、頭が働き始めたばかりで、ゆるりと考えていたせいか、つい若君を不憫に思ってしまった私はつい、ぽろっと零してしまった。
「若君、随分とお疲れのご様子ですね」
それが若君の逆鱗に触れたらしい。
瞬間。
若君が、カッと目を見開いた。
「ほう!随分と他人事だな!私がこんなに苦労しているのは、大半はお前のせいなのだぞ!!」
「え!」
心外である!
おそらく昨日、本家と分家での話し合いが、難航したのであろう。
が!
私は晶露様をお救いしたかっただけで、若君の許嫁になりたいとは一言も言っていない!言っていないのである!むしろ、なりたくない!
妖精の一連の出来事は忘れて、予定通りに事を進めてくれて、一向に構わないのである!
言いたい!けれど、言えない!
昨日の繰り返しになってしまうからな!
過重なストレスが私を襲う。誰か私にホットミルクを!
ふう。
これ以上若君の心労を増やすのは良くない。私にとってもである。
ここは一つ灰咲家の為にも、私が大人になろう。
「申し訳ございません」
そう、慎ましやかに、謝罪をしておく。
「お前は、昨夜、よく眠れたようだな」
そういう若君は、目の下に、少し隈が浮かんでいる。
悪いな若君、健やかに寝させてもらったのである!
晶露様の体温効果でな!
寝れる時に寝ておかないと、辛くなるのは、戦地でいやという程、私は学んだのである!
「おかげさまで。晶露様が、隣に居られたので、安らかに眠れたようでございます」
若君もお試しになられると良い。晶露様と一緒にお眠りになってな!
「ねえさま!ぼくもよくねむれました!」
ああ、晶露様の無邪気さに和む。
「はあ。その不動の精神で、今日一日過ごしてもらいたいものだ。過ごせるものならな」
若君、昨日から皮肉が留まるところを知らないのである。
が、それよりも今の台詞。
「若君、そのお言葉、まさか」
「そのまさかである。好配の儀のシナリオは変更された」
ああ、私の願いは聞き届けられなかったようである!
誠に残念である。くう。
主人公、希望打ち砕かれるw
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