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第37話 私、のんびりと朝食を食す 

 6時、起床。

 うん。ぐっすり眠れたのである。

 晶露様効果であろうか。

 その晶露様は、隣でまだぐっすり寝ていらっしゃる。

 私はそっとベッドを抜け出す。

 と、エルフ語で話しかけられた。

 <よい朝であるな>

 妖精のロウである。

 くちばしを使って毛繕いをしている。

 <おはよう。調子はどうだ?>

 <うむ。大分安定した。ほら、もう自由に飛べるぞ?>

 フクロウの雛が、賢明に羽をばたつかせている。

 羽に対し、身体の方が重そうだ。丸くぽっちゃりしているからだ。そこが可愛らしいのであるが、羽に多大な負荷がかかっているようである。

 昨日もやっと飛んでますって感じだった。

 無理はしないでいい。疑問形になっているってことは、自分でも自覚があるに違いない。

 風の妖精っぽい。もっと風をうまく使えれば、自由に移動もできるだろう。

 <そうか。だがまだ形を得て、一日も経過していない。無理は禁物だ>

 <わかった、ゆっくり調整する>

 <そうしろ>

 道理を通せば、素直な妖精である。

 次に父はとソファに視線を向ければ、もうすでに起きていたのか、毛布は綺麗にたたまれてソファの上にある。

 肝心の父はというと、部屋の空きスペースで腕立てふせをしていた。

「父、何をしているの?」

「ああ、日課のトレーニングをな。こうしていると心が落ち着くよ」

 脳筋の答え。しかしそれで父が平静でいられるなら、するがいいのである。

「そう。でも程々にして着替えた方がいいよ。いつ若君が部屋に来るかわからないからね」

「うっ。わかった。もう、切り上げるよ」

 父は名残惜しそうに立ち上がると、前日に着ていたスーツ一式を持って、バスルームに向かった。

 とはいっても、まだ6時を少し過ぎたばかりだ。

 流石にこの時間に部屋を訪れるのは、メイドさんくらいだろう。

 それに、万が一、私が許嫁に決定したとしても、いきなりは儀式に即連行はされないだろう。

 きっと、先触れがあるはず。

 それが若君ご本人か、それとも従者の方かはわからないが。

 若君と思って行動したほうが、間違いはないだろう。

 最後のあの口ぶりだと、本人がやってきそうである。

 ちなみにバスルームに向かった父の格好は、本家に借りた灰色のスエット上下である。

 私も同じように灰色のパジャマ姿である。

 家色、徹底している。一事が万事を地でいっていて怖い。

 私は1つ頭を振る。

「着替えよう」

 ちゃんと朝食を頂いて、しっかり心の準備をするのだ。

 私に今できる事はそれしかなかろう。



 その後、父はシャワーを浴びて、スーツに着替え、バスルームから戻って来た。

 私も顔を洗い、一張羅に着替える。

「おはようございます。朝ですよ。晶露様」

 そこで、晶露様を起こす

「おはようございます、ねえさま」

 目をこすりつつ、起き上がった晶露様のパジャマは深紫(こきむらさき)色である。

「顔を洗いましょう」

 と、晶露様の手を引いて、バスルームに連れて行き、顔を洗わせて、いつの間にか、ベッドの近くに寄せられた椅子の上におかれていた服、長袖の白いシャツ、深紫(こきむらさき)の半ズボンとベストをパジャマから着替えさせてやり、髪を整えてやる。

「おはようございます」

 そこへ見計らったように、緑のリボンのメイドさんが、ワゴンを押してやってきた。

 そして、素早くテーブルに朝食を用意してくれる。

 トーストと、スクランブルエッグにベーコン、添え物にレタスとポテトサラダ、飲み物はオレンジジュース。牛乳も用意されている。

 おいしそうである。

 席は父が1人ソファに座り、私と晶露様は父の向かい側のソファに、並んで座っている。

 私たちはいただきますをして、食べ始めた。

 父はこれで足りるかと心配になったが、うん、ちゃんとトーストと牛乳のおかわりを頂いていた。

 遠慮なく食べるがいいよ。

 もしかしたら、次いつ食べられるかわからないからである。

 フィジカルな問題ではなく、メンタルな面でだ。

 私たちが大方おおかた食べ終わったのを見計らったかのように、緑のリボンのメイドさんが告げた。

「まもなく、若君がいらっしゃいます。このままお待ちください」

 ぐっ。胃がきゅっとなったのである。

 私は牛乳を飲んで、胃を落ち着けた。今日は牛乳必須の気がする。できればホットにしてもらえるとありがたい。

 そんな私の願いは知らぬと言うように、メイドさんは手際よく、私たちの食べ終わった皿やコップを片付けて行く。

 私の頼みの綱の、牛乳が入っていたコップも、容赦なく下げられてしまった。

 緑のリボンのメイドさん、厳しい。

 そして、私たちに食後の紅茶を出した後は、一礼して部屋を去っていった。

 きっと若君を、呼びに行くのだろう。

 まだ7時である。

 長い一日になりそうである。


「晶露様は、今日これから保育園ですか?」

 私は紅茶を飲みつつ、日常的な会話を求め、隣に座る晶露様に話しかけた。

 できれば、私は緑茶がよかった。贅沢は言うまい。

「おやすみします」

 晶露様が、きっぱりとお告げになる。

「そうなのです?」

 私は思わず疑問系になってしまった。

 保育園に行くか否か。普段から晶露様の判断に任せられているのだろうか。いや、それはないであろう。まだ私よりもお小さい、幼児である。

 だが、母君はどうやら晶露様をよく思っていないようであるし、となると、ご当主様がお決めになられるのだろうか。

 当主としての仕事が忙しいのを理由にして、お世話係に任せっきりとか。

 ありそう。ありそうである。そしてそのお世話係もいい加減で、晶露様は放置気味でー。

 私が想像の翼を盛大に広げていると、晶露様が付け加えた。

「へいじつは、いつもちゃんと、ほいくえんにいきます。きのうは、にいさまにごむりをいって、おやすみしました。きょうもひきつづき、にいさまにとって、だいじなぎしきがあるので、おやすみします。そう、にいさまにたのみます」

 しっかりした幼児である。

 そして晶露様の保育園を休まれるか否かの判断は、どうやら若君に託されているらしい。

「そうですか」

「それに、ぼくがほいくえんにいっているあいだに、ねえさまがいなくなってしまったら、たいへんですから」

「そ、そうですか」

 晶露様、本家と分家のお話し合いがどうであれ、私は今日、帰りますよ。

 きちんとお別れができるとよいが。また泣かれたらと思うと、不安が募る。

 と、そこに、三弥さんを連れた若君が部屋へと入って来た。

 のんびりできたのも、ここまでであるか。

 さあ、非日常の始まりである。

 ところで、若君、ノックはしたであるか?

嵐の前の静けさかw


いつもお読みいただきありがとうございます!

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