第36話 私、悶々とす
もうこの時点で、私にはどうしようもできない。
審議の結果を、待つだけである。
そう無理矢理に頭を切り替えて、くっと頭を上げた。
その時、ふと気がついた晶露様の存在。
若君に付いて行かず、私の隣に座っている。ロウは疲れたのか、またかごに戻って眠っている。まだ身体が不安定なのか。外界の情報を遮断して、内部の安定を図っているのか。寝てる分にはおとなしくてよい。
起きていたら、八つ当たりをしてしまっていたかもしれない。
とりあえず、当座の疑問を解決しよう。
「晶露様は、若君についていかなくてよいのですか?」
「はい!」
きっぱりである。
私は同じく表情を暗くして、呆然と座っていた父に尋ねた。
「父、晶露様は若君とご一緒しなくてよろしいのでしょうか?」
「ああ!!大海が嫁に行ってしまうなんて!俺の可愛い娘が!」
いや、今はそれ聞いてないから!
家でなら、即突っ込むところだが、若君と三弥さんが出て行ったとはいえ、まだ緑のリボンのメイドさんがドアの傍に控えている。
ここはぐっと我慢して、父の太ももをポンポンとたたいて、再度尋ねる。
「父、父、晶露様を若君のところに、お連れしなくていいのですか?」
「あ、ああ。いいんじゃないかな?晶露様、大海が気を失っていた時も、ずっとおそばに居られたから。引き離そうとすると、盛大にお泣きになってしまったし。それを考えて、若君も置いて行かれたのではないかな?」
先程も、そのようなことを聞いたけども、それを理由に今夜もこの部屋に泊まると言うことか?!私と父は、ここに泊まることが確定のようであるがな!
私は晶露様に視線を向ける。
「えへへ、ねえさまといっしょ」
満面の笑顔が可愛い!
が、問題はそこではないのである!
晶露様は本当にここに居てよいのか?
私は問うように、緑のリボンのメイドさんに視線を向けた。
大きく頷いたよ!
晶露様は今夜、ここでお泊まり決定のようである!
ふう。それならそれでいいか。
それよりも、私にはもっと遙かに大きな問題があるからである!
ここで父に尋ねておかねばならない。
「父、もし本家と分家の皆様のお話し合いで、もしだよ?私が若君の許嫁に決まってしまったらどうするつもり?」
本当は断ってくれるよね?と聞きたかった。
だが、メイドさんの目があるため、聞き方を緩和したのだ!
私、この切羽詰まった状態で、そこまで気を使えるなんて、偉い!自分を褒めたいのである!
さあ、父よ!私の望む答えをくれたまえ!
さっきの首振りは見なかったことにする!するったらするのだ!
「え?それは受けるしかないな!」
ああ、無情。やっぱり返事は変わらずか。
「俺としても、可愛い大海を嫁にやりたくはないけどな!」
親馬鹿はいいから!全く!
しかし、この答えではっきりした。
父には本家に逆らうという選択肢はないのだと。
血が薄くなったとはいえ、やはり父の中では、本家の命令は絶対らしい。
そう骨の髄まで染みこんでいるのだろう。
ああ、私の運命は今から行われるだろう、本家と分家の合同の審議にかかっている!
分家序列下位は参加しないのか?
どうか私の加勢になるなら、参加して欲しい!
我が灰咲家は審議に参加しないのであろうか?
灰咲筆頭当主、元々来てないがな!
そんな当主なら、吉助さんが代理で、審議にぜひ参加して欲しい!
そして!どうか私が許嫁になることを反対して欲しい!もし私が若君の許嫁になったら、きっと吉助さんも苦労が絶えなくなるよ!
「あ、当事者の私、それと父が審議に参加したら、少しは違うか?」
私は思い当たり、思わず呟いた。
「大海!何と怖いことを言うんだ!俺は本家と分家の合同審議会になんて、参加したくない!」
「だって、私、当事者だよ?」
大事な事だから、2度言う。
「当事者であっても、審議に参加したところで、大海や俺の意見なんて通る訳もない!話すら振ってくれないさ!そしてただじっと針のむしろ状態で座ってなきゃならないんだ!父はいやだ!」
父、激しく拒絶である。可愛い娘の為であってもである。
しかし、父の言うことも一理ある。そうだ。私が参加したところで、所詮分家序列最下位の灰咲の末の娘、それに5才の幼児。発言をさせてくれる訳がないのである。
そうか。だから、若君、私に参加するか否か、問いもしなかったのであるか。
納得である。
であるなら。
私が今、できることは。
どうか決まっていたシナリオ通りの美少女が、若君の嫁に決まりますように!
切に願うだけである!
私の一生に関わる問題で苦悶しているところに、そんなことなど知らぬとばかりに、壁に控えていた緑のリボンのメイドさんが、すすっと近づいてきた。
「夕食はどちらで召し上がりますか?大食堂がありますので、そこで他の分家の皆様とともになさいますか?」
冗談ではない!ここで食べるよ!
他の分家の方々と一緒に食事などしたら、おいしい料理でも味がしなくなってしまうだろう!
そこでふと気になった。
分家の人、どの位残っているのであるか?
率直に聞いてみた。
「全員残られております。好配の儀が、明日に変更になりましたので」
当然だろうというトーンで言われた!
緑のリボンのメイドさん、厳しい!
「それで、どうされますか?」
メイドさん、淡々と聞いてくる。
「この部屋で取りたいです!取ります!お願いします!」
「父もいいよね?!」
「もちろんだ!」
父も力強く頷いてくれた。
他の分家の方々と食事なんてとんでもない!
隠れていても仕方ないかもしれないが、隠れさせてほしい!
ああ、本家の方々は母屋へ帰られてから召し上がるのだろうな。
私もお家に帰って、ご飯食べたい!
「パパ、ちょっとうちに電話かけてくるな」
父は少し立ち直ったのか、私にそう告げると、部屋の隅に行ってしまった。
父、立ち直り早いな。
と思って、父の顔をみると、無の顔になっていた。
あ、これは考えを放棄したか。
私も放棄したい!
が、そんな切り替えもできない自分が憎いのである。
「あっ!」
そこではっと気づいた!審議している間、あるいは終わった後、他の分家の方々がこの部屋に来て、私たちに変なプレッシャーをかけたりしないだろうか?
灰咲家の代理人である吉助さんとの話し合いならまだしも、他の分家は、我が分家よりも強者である。できれば会いたくない!
父は対抗できないだろう!私ではもっと無理であろう!
吉助さんと相談もありかとも思ったが、下手にこの部屋を出て、他の分家の方々と鉢合わせは絶対避けたい。
ならばである!私は沙汰があるまで、この部屋から出ないぞ!
「ねえさま?おなかがいたいのですか?くるしそうな、おかおをしています」
その時、晶露様の可愛らしいお顔が私をのぞき込んだ。
「救世主!」
私は思わず晶露様を抱きしめてしまった。
そうだ!万が一、他の分家の方々が面会に来たとしてもだ。
ここに若君の弟君であられる晶露様がいらっしゃるかぎり、どうとでも面会を断れるのではないか?
仮に面会したとしても、晶露様がお傍におられたら、私たちがお断りできないような提案もされないのではないだろうか?
「晶露様!どうか今日ずっと、私のお傍に居てくださいませ!」
「はい!」
晶露様が満開の笑顔で、頷いてくれる。
緑のリボンのメイドさんが眉間に皺を寄よせたが、無視である。
晶露様には、私の防波堤になってもらわねばならないのだからな!
小さい子どもを利用するのかと、非難するならするがいい!
私も小さいお子様であるからな!
喩え一時の安心でも!それに縋り付くのである!
異議は認めない!
そうして私たちは部屋で食事を済ませた。折角のご馳走であったが、ちっとも味わえなかった。私は小心者なのである。
晶露様が楽しそうに食べている姿を見て、少し癒やされたのが救いか。
それからお風呂に入り、3人で就寝となった。
就寝前に、晶露様は母屋に戻るように、三弥さんが迎えにいらっしゃったが、大泣きして、私にしがみついて離れなかったという出来事があったが、幸いにして分家の方々が部屋を訪れる事はなかった。
灰咲家の分家の代理人、吉助さんも含めてだ。
この部屋を訪ねることはとめられたのか、それとも、晶露様の効果か。
だからと言って、図書室を再度探しに行くという気力は、もう私は持ち合わせていなかった。今日は色々ありすぎて、情報が過多であったからだ。頭を整理しないと、まともに思考が進まない。
あの貫禄あるメイドさんに負けたようで、悔しくはあるが、仕方がないのである。
私は晶露様とベッドに入りながら、眠れないだろうと思いつつも、目を閉じる。
ちなみに父はソファで寝ることになった。
本家のお子様と一緒には寝られないとの言い訳である。
私もできればそうしたかったが、晶露様が一緒に寝て欲しいと希望したので、それを断ることができなかった。
今日一緒に居て欲しいと願ったのは私である。
妖精はベッドのサイドテーブルのかごの上で、もう寝ている。そのどんな状況でも眠れる図太さが私にも欲しい。
「おやすみなさい」
晶露様は行儀よく挨拶を終えると、私の腕にしがみついたまま、眠りについた。
「おやすみなさい。よい夢を」
私はそんな晶露様の頭を、しがみつかれていない反対側の手で、撫でた。
若君と三弥さんが出て行った後、私たちはこの部屋から出ていないので、本家と分家の話し合いがどうなったのか、私にはわからない。
若君の言うとおり、明日を待つしかない。
「晶露様、あたたかいね」
幼児の体温は、私と晶露様、両方安心感を与えるかもしれない。
特に、私にはそれが今とてもとても必要である!
私は晶露様の手を腕からそっと外して、晶露様を抱きしめた。
無礼かもしれないが、ぎゅっとして寝てしまおう!
何もかも一旦忘れるのだ!
主人公、つかの間の休息w
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