第32話 私、最後のおまけにやること1つ
「はあ、おいしぃ」
「おいしいです」
私と隣に座る晶露様が、まったりホットミルクを飲む。
もちろん、蜂蜜入りである。
本日何杯目になるのだろうか。お腹が緩くならないか一抹の不安はよぎるものの、現在のストレスマックス状態には、緩和剤として、どうしても必要なものである。
明日は幼稚園に行くだけである。
今日の考察の出来るし、トイレもすぐに行ける。問題はないだろう。
いや!これだけ働いたのだ。
明日はお休みして、お家でまったりだ!母に願い出よう!さすれば、トイレの心配もない!
私はすべきことを話すべきことを終えて、何の憂いもなくなったので、父もお茶を一緒に飲もうと誘ったのであるが、パパはいい!と固くなに拒否された。その父は変わらず、私たちが座るソファの後ろに立っている。
無心顔をしておらず、きりっとした顔をしてるので、護衛ポジションの方が楽なんだろうと、感じる。
父、私も傍観者の立ち位置でいたかったのである。
ずるいと口を尖らせたくなるが、我慢する。
今の状況を生み出したのは、自分と自覚があるからである。
つまりは自業自得の面があるので、文句は言えないのである。
それも後少し。すべて収拾したからである。
「それで?やり残しはもうないのか?」
若君も私たちの向かい側で、紅茶で喉を潤した後、尋ねてきた。
若君は紅茶か。子どもの時の1、2才の差は大きいのか。別に気にしてなんていない。私、蜂蜜入りホットミルク、好物であるからな。
それは置いておいて、若君の言葉で、再度思い返す。
晶露様の姿を元に戻して、妖精との仲を修復もした。
もうやり残しはない筈である。
それでも喉の奥に何かがひっかかっているようで、落ち着かないのである。
なんだろうか。
「あ!」
「なんだ?やはりまだあるのか?」
「話し合いが深刻すぎて、すっかり忘れていました!今思い出しました!」
「おい」
「あはは。お茶を飲んで一息ついたのがよかったです。緩急は大事ということです。あ、デザートもいただきます!」
若君との話し合いで、頭や神経をマックスに使ったのだ。
脳に栄養を補充しないと。
私は、ホットミルクのお供にと出されたスイートポテトに、手を伸ばした。
供されたのは、スタンダードな舟形のスイートポテトである。
本当は大口でがぶりといきたいところであるが、ここは若君の前。
それに晶露様の前で、大胆に手づかみもできない。
教育上よくない。
私はフォークで一口大に切って、いただく。
うーん。このねっとりとしたサツマイモの甘さがたまらない。
すかさず、ホットミルクを飲む。
「ほう」
この一言でおわかりであろう。ホットミルクとスイートポテト。よいハーモニーを奏でてくれる。
私が大人ならば、スイートポテトなら、すっきりとしたお茶を所望したいところであるが、幼児なら、甘いデザート、甘い飲み物。この組み合わせは、至福である。
「ふう」
さて、甘いもので癒やされたところで、やり残した最後のお勤めをすませてしまおうか。
私はホットミルクの入ったカップをローテーブルの上に置くと、目線をあげ、若君に告げた。
「ではそろそろやり残した最後の1つをやってしまいたいと思います」
最後の1つというか、おまけだな。
「念の為に聞くが、晶露に危険はないな?」
「はい。ないです」
「場所は?そこでできるのか?」
「問題ないです」
「よし。ではやってみせろ」
うわあ。若君、どこかのヒーローみたいなしゃべり方である。
突っ込みたいが、突っ込めない。
友達であったなら、間違いなく突っ込んでいたところだ。
そういえば、若君も言葉が固い。それが通常運転なのか。
若君の肩こりを心配してしまう。
いけない。また思考が流れた。
どうも子どもの身体になってから、思考があちこちに飛んでいる気がする。
子どもならではなのか?
元々の質だろうが!との、前世の友の突っ込みが聞こえた気がした。
ふん。その突っ込みは認めない。
私は手を伸ばして、かごの中で居眠りをしている妖精をそっと掬いあげた。
「ぴ?」
寝ぼけ眼の妖精が、私を見上げる。
妖精が座していたかごをテーブルの下によけるかと一瞬思ったが、そのままでいいかと思い直す。
かごはローテーブルの中央に置かれたまま、それをよけるように、お茶が用意された。
ならば、なんの問題もない!
しかしそれなら、さっきもそうしてくれてもよかったのでは?とも思う。
クッキー、私、まだ食べたかったのに!
未練である。
けれど、それを片付けられたからこそ、スイートポテトに巡り会えたと思えば、文句も言えまい。
多少の不満を胸にしまい、私は手の中にいる妖精にエルフ語で話しかけた。
<居眠りしているところすまないな。いよいよそなたと愛し子との交流をはじめようと思う。気持ちの整理はついたか?>
この妖精、晶露様の姿を自分好みに変えて、不和をもたらしたという、出足からマイナススタートで、先ほどその謝罪を終えたばかりである。
それでよく居眠りできる。ずぶとい神経だ、と思うが、変化の連続で疲れが出たのだと思っておこう。
<うむ!用意はできている!よろしく頼む>
<了解した>
<して、何をするのだ?>
<晶露様に、そなたの名付けをしてもらおうと思う>
<名付け?>
<そうだ。そなたはまだ生まれたばかりで名もない。晶露様に名をつけてもらうことによって、縁ができ、意思の疎通もしやすくなるだろう>
<そうか!>
<とは言っても、すぐに通じる訳ではないぞ!なんとなく気持ちが通じる程度だと思っておけ。ただそなたが日本語を覚えれば、今は鳥の鳴き声に聞こえるそなたの声も、ちゃんとした言葉に聞こえるであろうよ>
<わかった!我、言葉を覚えるぞ!>
<ああ、晶露様にも、その旨ちゃんと伝えるからな>
<ああ、感謝する>
うむ。どうもエルフ語って固いのである。エルフ自体真面目で頑固者が多いが、それは言語にも通じているのかと思うほどだ。
次に私は晶露様に向き直った。
「晶露様、この妖精を抱っこしてもらってもよろしいですか?」
口では妖精を許すと言っても、身体が拒否する可能性もある。
ちゃんと一つ一つ確認しながら、進めないといけない。
「はい」
よいお返事である。私は白フクロウの雛の形をした妖精を、晶露様の両手の平の上にそっと載せた。
「ぴゅいぴゅい」
妖精が喜びの声をあげる。
私には<おー!愛し子!>と聞こえる。
ギャップがひどい。
私も鳴き声だけ聞こえたならば、癒やされるものを。
私は同時通訳のように両方聞こえるので、残念である。
晶露様の様子をみると、妖精を見て、笑っている。小さな鳥の雛だ。姿は文句なく可愛い。そして本当に妖精を受け入れているようだ。
良かったのである。
「晶露様」
「はい」
「その妖精に、名前をつけてあげてください」
「おなまえ、ですか?ぼくが?」
「はい。妖精は、生まれたばかりで名前がありません。妖精は晶露様が大好きです。きっと晶露様が名前をつけてくれたならば、喜ぶでしょう。それに名前をつけてやれば、晶露様とつながりが出来て、より仲良くなれます。そうすれば、妖精は晶露様を守ってもくれますよ」
「ねえさまとおなじように、このことおはなしができるようになるのですか?」
「そうですね。すぐには無理です。けれど、妖精とのつながりができれば、最初は気持ちがわかるようになって、そのうちにお話ができるようになります」
その位名付けには、力がある。
名はそのものの芯になるもの。
名前はそのものを表すと言っていい。
それをつければ、つながりが深くなるのは自明の理である。
妖精が日本語を覚えれば、晶露様の次に力を与えた若君も、妖精と意思の疎通ができるようになるだろう。もっと妖精が成長すれば、他の人とも会話ができるようになる筈である。
「ずっと一緒にいるようになるのですから、お話できたほうがよいですよね」
「はい!」
そう、妖精はやらかした後でも、決して愛し子と離れようとはしない。それだけ執着が強いのである。晶露様ご愁傷様である。
「では、このものに名前をつけてあげてください」
「わかりました!う、うーんと」
晶露様はしばらくうんうんと、一生懸命お考えになられていた。
それを期待の目で見つめる、白フクロウの雛。
目の保養である。
父にちらりと目をやると、私と同じように晶露様と雛を見つめていた。
私の視線に気づいたのか、私を見る父。
その時、私と父は気持ちが一つになった。
晶露様と雛、可愛い!写真を撮りたい!
と、晶露様が声を上げた。
「きめました!」
「決まりましたか。教えてもらえますか?」
「はい!ロウ!この子はロウです!」
「ロウ、よい響きですね」
うん。かっこいいのでないか?
「ねえさま、このこ、おとこのこですよね?」
「あ、いま確認しますね!」
性別か!失念していた!
妖精は性別がない場合もあるが、白フクロウの雛に形を成したのだ。
おそらく性別はあるだろう。
しゃべり方で勝手にオスだと思っていたが、メスである可能性も否定できない。
<妖精よ、そなたはオスか?>
<見ればわかろう!男子である!>
さも憤慨!と、言うように、鼻息が荒い。
いや、見てわらかないから聞いたのである。
「晶露様、男の子で間違いないようです」
「そうですか!ぼくも、このこはなんとなくおとこのこなきがしたんですが、まちがえたらいけないとおもって。おんなのこでロウだと、ちょっとかわいそうだから」
晶露様の言う通りである。ロウは、男子の名前の響きである。
私もうっかりしていたのである。思い込みってこわいのである。
晶露様、よく気がつかれたのである。
「にいさま、このおなまえでよいでしょうか?」
「ああ、よい名前だと思うぞ」
「よかった」
晶露様は、手の中の妖精に視線を向ける。
「きみはきょうからロウ。ロウだよ」
「ロウ」
妖精が繰り返す。日本語でだ。
「ねえさま!ロウが、しゃべりました!」
晶露様がこちらを嬉しそうに見上げる。
「はい。自分の名前なので、すぐに言葉にできたようですね」
「ロウ。きょうからよろしくね?」
晶露様が、雛の頭を指で撫でる。
「ロウ、ロウ!」
妖精が2回、自らの名を叫ぶ。
と、妖精と晶露様を、ふわりと優しい光が包んだ。
それはほんの一瞬、すぐに消えた。
「なんの光だ?」
すかさず、若君が鋭く質問してくる。
私にもわからない!そう言ってやりたいのを堪えて、推測を述べる。
私って大人である!
「おそらくお二人に絆ができた証の光かと存じます」
雛はぱたぱたと羽を羽ばたかせ、晶露様の頭の上まで飛ぶと、ちょこりと着地した。
ふわわわ。癒やし!癒やしである!
誰かスマホをスマホを貸して欲しい!父よ!
はっ!いけない!最後の締めだ!
私はきりっと顔を引き締めると、若君に告げた。
「これで私がやりたかったことは、すべて終わりました」
私はそう宣言すると、ぐいっと残っていたホットミルクを飲み干した。
さて!私は帰るぞ!
反対は認めない!
主人公この後すぐに帰宅できるかw
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