第30話 私、保証す。どちらでも可愛さは同じであると
「晶露!」
「晶露様!」
若君と三弥さんが、目を見開いて、驚愕の表情を浮かべている。
うん。当然の反応である。晶露様の見目がいきなり変化したのだからな。
「にいさま?みつや、どうしたの?」
晶露様は、自身の姿が変わったことに気づかれておられないのだろう。
2人の反応に、戸惑いをみせている。
「晶露様」
私は驚かせないように、穏やかに話しかける。
「こちらに」
私は晶露様のお手をとると、部屋の隅にある姿見に導く。
「あれ?これ?ぼく?」
晶露様が不思議そうに、姿見に片手をついて、不思議そうに見ている。
この様子からすると、晶露様が物心ついた頃から、すでに金髪碧眼だったのではないか?本日今この時、本来の晶露様の姿をご自分で初めて見たのではないだろうか。
「そうです。晶露様ですよ」
私は背後から晶露様の両肩をそっと掴んで、頷いた。
晶露様はじっと自分の姿を見つめた後、鏡の中から私に問うた。
「ねえさまは、いまのわたしのほうがすき?」
私はずきりと胸が激しく痛んだ。
短い質問だ。けれど、どれほどの痛みを伴った質問であろうか。
一族の中で、おそらくただ1人、違う色を持つ子ども。きっと考えなしの輩が、この子の心を、無遠慮に傷つけたに違いない。どれほどの悲しみに耐えてきたのか。
私は無理矢理口角をあげた。
「私は、以前のお姿でも十分愛らしく感じておりましたが、今のお姿も大変可愛らしく感じます!つまりは晶露様が晶露様であれば、どちらのお姿でもよいのです!!」
「ほんとうですか?」
「ええ!うそは言いませんよ!」
「えへへ。うれしい」
鏡の中の晶露様が、ほっとしたように笑った。
大丈夫!これから、晶露様、みんなに好かれる筈である!
なんと言っても、顔立ちがおよろしいから!
これからは幸せがたくさん待っているのである!
晶露様は姿見でご自身の姿を確認した後は、特に騒ぎ立てることもなかった。
幼少だからか柔軟性があるのか。それとも賢さの表れか。
どちらかは不明だが、今のところ、冷静に受け止めておられるようである。
解せぬのは、なぜか自身の姿に頷いた後に、私に抱きついて、にこにことしておられる。
なぜにこんなに好かれているのか。
しかしこの好感度であれば、妖精が犯した過ちの説明もしやすい。私からの言葉なら、怒りも多少、緩和されるかもしれない。
ああ、なぜに私がこんなに悩まなければならないのか。
ふう。それでも晶露様へのやりたいことは済んだ。
残りはあと1つ。
妖精のしでかしてしまった悪気のなかった禍の説明と謝罪。
この2つを晶露様、若君、そして三弥さんに、受け入れてもらわねばならない。
そうでないと、晶露様の不仕合わせは、続いてしまうかもしれないからだ。
先の姿替えよりも、困難さは格段に跳ね上がるが、超えていかねばなるまい。
がんばれ、私!である。
「晶露様、お手を」
「はい」
私は晶露様のお手をひいて、先程の場所へと戻る。
部屋の中央である、妖精がいるかごの元へ。
「信じられん。晶露の髪と瞳の色が変わっただと?」
学童期で頭も十分に柔軟な筈の若君が、まだ驚きから抜け出せていないようだ。
この場合、柔軟さよりも、賢さから深く物事を理解しているゆえ、驚きが倍増しているのかもしれない。
私たちが先ほどと同じ位置、妖精のいるかごの前まで戻ってきたところで、若君は正気を取り戻したかのように、私をキツく見据えて、告げた。
「説明を」
若君の後ろに立っていた三弥さんも、大きく頷いている。
「説明ですか」
もちろん今からしようとは思っておりましたとも。
しかし2人の表情を見ると、私の望む結果を得るのは思ったよりも困難かもしれない。
晶露様お1人にお話するよりも、難航しそうな予感がする。
「話が長くなりそうですので、恐縮ですが、お座りいただけますか?」
立ったままであると、興奮が静まりにくい。何より疲れるだろう。
まずは座っていただこう。
「もうやりたいことは、終えたのか?」
座っての指示を無視して、若君はそう尋ねてきた。
「実質的には。後はお話するだけです。その内容は、若君が今望まれているものかと」
「ならば、ソファに場所を移そうではないか」
絨毯に直接座りたくないらしい。お坊ちゃまめ。
まあ、場所をここに移したのは、妖精の説得が難航した場合、妖精が暴れるかもしれないと思い、念の為広いスペースにと思っただけで、これからの話し合いでは、おそらく妖精が暴れる心配はないだろう。
妖精は十分反省している。逆におとなしくしていてくれないと、余計に悪印象を与えてしまうだろう。
私は念の為、妖精に釘を刺しておくことにした。
<これから、そなたの愛し子との仲を、取り持つ段取りをする。おとなしくしていてくれよ>
<わかっている>
よし、これでいいだろう。
ならば私もソファに場所を移すことに異存はない。
「わかりました」
私はそこでさっとソファにというか、ローテーブルに視線を走らせた。
テーブルの上にはお菓子があるから、かごを載せるスペースがないだろう。
しかし、話し合いで、妖精の同席は必要不可欠である。
と、そこで私は目を疑った!
「お菓子がない!」
有能な緑のりぼんのメイドさんが、私たちの次の行動を予測してか、はたまた、私たちが部屋の中央に場を移していたからか、ささっとテーブルの上を綺麗に片付けてしまったようである。
なんということか!
すべてが片付いた後、甘い菓子で自身をねぎらおうと思っていたのに!
私のお菓子たちがなくなっている!
ああ、やる気が急速に減退していく。
あまりの私の愕然とした姿を哀れに思ったのか、若君が告げた。
「そなたのやりたいことがすべて終わったら、また菓子を出してやろう」
「本当ですか!?」
私はぐりんと若君のほうへと顔を向けた。
「う、うむ。確認するほどか?」
「確認するほどですとも!」
多少の無礼は見逃してほしい。
私のモチベーションが上がるか否かは、それにかかっていると言っても過言ではないのだ!
若君の言質は取ったのである!
また新たな菓子を期待して、困難な課題に取り組む意欲が出てきたのである!
さあ、本日の山場!頑張るのである!
主人公の苦労はまだ続くw




