第28話 私、もう一踏ん張りす
若君は一つ咳払いをして、気持ちを整えているようだ。
若君も弟君には勝てないようである。
すすっと寄って来た緑のリボンのメイドさんが、晶露様にハンカチを渡している。
晶露様、強く顔をこすってはいけないのである。
涙を拭く晶露様に、和む。
もう少し見ていたいけれど、体力は食事で多少回復したものの、精神的にはもう限界に近い。私もまだ5才。母の元に帰ってまったりとしたい。
だいたい必要なことは話した。
私や父のような分家の下っ端は、もう不要だろう。
ここで暇乞いをして帰りたい。
が、まだ帰る前に済ませておきたいことがある。
それをせねば、心残りになろう。
すべては晶露様の為だ、頑張るのだ私!
済ませたら、さっさと帰ろう。絶対に!
「若君、お話が終わりならば、私はやり残したことがございます」
「やり残したこと?」
「はい、頭に浮かびました最後のタスク、それをすませてしまいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……いいだろう。私も三弥と今の話を整理したいからな。そのやりたいこととやらはこの部屋でできるのか?」
「はい。晶露様と妖精がいれば、問題ないです」
「お前のやり残したことは、晶露に関係したことなのか?」
だろうよ。それしかなかろう。
は。いけない、疲れてきていて、考えが雑になってきている気をつけねば。
「はい。晶露様を今より更によい方向に向ける為に、絶対に必要なことです」
「なんだと!?それでは三弥と話を詰められぬではないか」
「あの、全然危険がないので、こちらは放っておいてもらっても大丈夫ですよ?」
「できるか!」
そうですか。そうですね。言ってみただけである。
「それで、やり残したことをする許可はいただけますでしょうか?」
「危険はないんだな?」
「はい」
「……許可する」
一瞬の間が、若君の不満を表しているが、気にしない。
気にしたら、できないからである。
若君の私に対する評価が下降しても、全然問題ない。
どうせ今日限りの付き合いである。
私はローテーブルの上を見渡した。
うん。お菓子を片付けてもここでは狭いか。
それに、小腹が空いているから、お菓子を下げてもらっては困る。
部屋の中央のスペースを使おう。
「父」
「なんだい?」
ずっと空気に徹していた父に頼もう。
「ベッドのサイドテーブルにある、妖精が寝ているかごを持ってきてくれる?」
「え?」
いいの?勝手に動かして。
あ、そうだね。許可をとらないとか?
面倒だが、本家の妖精だ。確認は必要か。
「若君、妖精を連れて来てもよろしいですか?」
「この部屋の中なれば、移動してもよい」
「ありがとうございます。後、晶露様もお連れしてもよいですか?あ、もちろんこの部屋の中での移動です。あそこの空いている中央のスペースに、移動いただくだけです」
「許可する」
ふう。いちいち説明がいるって大変である。
そこももう少しの辛抱だ。
早くお家に帰って、のびのびしたい。
「父、お許しが出たので、かごを部屋の中央の絨毯の上に、移動してくれる?」
「わかった」
父はさっと立ち上がって、かごへと向かった。
私もそれと同時に立ち上がって、ローテーブルを回り、晶露様の傍まで来ると、膝をついて、すっと手を差し出した。
「晶露様、少し私にお時間を頂いてもよろしいですか?」
「はい!」
晶露様は満面の笑みを浮かべて、私の手を掴んだ。
私は立ち上がると、晶露様のお手をひいて、部屋の中央の空きスペースに導いた。
そこになぜか、若君と三弥様もついてくる。
更に三弥さんは、スマホまで構えているではないか!
「あの、傍に来ていただかなくても、大丈夫ですよ?」
ていうか、邪魔である。
ソファで話し合いでも何でも、していて欲しい。
「お前が今度は何をするのか、見ておく必要がある。万が一の時には、私が晶露を助けねばなるまい」
信用されてないと。
それもまた仕方なし。今日初めて会ったのだからな。
もしかして三弥さん、証拠写真でも撮る気なのか?!
「了解いたしました」
もう好きにして欲しい。そこまで頭を使えないよ。
私はかごを持った父にお願いする。
「父、私の前にかごをおいたら、私の後ろにいてくれる?何もないとは思うけれど、何かあったら頼むね」
私の言葉に、若君が眉をピクリと動かす。
念の為である。本当に危険はないのである!
「ああ、まかせておけ!」
父、よいお返事である。私が心を平静に保つ為にも、ぜひとも傍にいて欲しい。
「晶露様は私の隣に座っていてくださいね」
「はいっ!」
うん、父を上回るよいお返事である。
いつもお読みいただきありがとうございます!
少しでもおもしろいっと思っていただけましたら、ブクマ、評価をどうかよろしくお願い致します。
励みになります~。




