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第27話 私、若君との話し合い、乗り切る

「若君」

 と、その時、若君の後ろで黙って聞いていた三弥さんが手を上げた。

「なんだ?」

「もしかしたら、この娘、巫女の才があるのかもしれませぬ」

「ぬ?巫女か」

「はい。この娘は頭に浮かんだと申しておりました。それは神がこの娘を通して伝えたのではないかと」

「なるほど」

 巫女とは、白衣と緋袴を身につけ、神社なるところで、おみくじを売っている娘御であるか?

 家の近所の神社なるところに、初詣と称する行事に連れて行ってもらった際に、見たことがある。

 商売だけでなく、そんな才能があるのか巫女とは。

 今世、知らないことだらけである。

 巫女とは、神官やシスターのようなものだろうか?

 この世界に巫女なる職業がある。私にはなんと都合のいいことよ。

 沈黙は金。ここは黙って、相手がよいように解釈してくれるのを待つ。

「それならば、説明がつくか」

 つくのか!そして信じるのであるか!

 ていうことは、巫女はこの世界で、日本で、ある程度定着している存在なのか?

 うう。また知りたい事が増えたのである!

 それにしても、今まで若君と話して思ったのであるが、本家ではこういった目に見えないものや霊的なものなどを信じる家なのか?

 古い家だから迷信を信じる延長線で受け入れやすいとかなのか?

 私には大変好都合であるが、こちらの世界ではマイノリティではないか?

 信じない派の人からは奇異な目で見られがちだが、こんなに堂々と話して大丈夫なのか?身内だからか?

 私にどんどんと疑問を投げつけて来た2人、若君と三弥さん。

 今は、私と父を置いてけぼりにして、議論をしている。

 父を見上げると、思考放棄をした無我の境地の顔をしていた。

 父は脳筋だものね。

 うん。それでよいと思われる。

 へたに口を突っ込むと、やけどしそうだ。

 私も父に(なら)って同じ顔をしておく。

 と、そこに晶露様が退屈そうにして居られるのが目に入った。

 ふむ。私もちょうど小腹が空いてきたところだ。

 燃費が悪いって?しょうがないのだよ。今日は色々頑張ったから、消化も早いのだよ。

 私は、ドアのそばに控えている緑にリボンのメイドにすっと手を上げた。

 すると、するすると近づいて来てくれた。

 そして若君たちの議論を邪魔しないようにか、小声で尋ねてくる。

「なにかありましたでしょうか?」

「晶露様が、お口に指を持って行っております。もしかして口寂しいのではないかと。飲み物のおかわりと、軽く食べられるものを、お願いできますか?」

 メイドさんがちらりと晶露様を見て、頷いた。

「承知いたしました」

「あ、できれば私の分も」

 さりげなく、そう付け加えた時、すっと隣から手が上がった。

 父である。

 メイドはその意図を正確に読み取って、軽く頷いてから、下がっていった。

 仕方ないよね。手持ち無沙汰だし、何かつまめるものがあれば気も紛れる。

 うん。お菓子は癒やしであり、コミュニケーションツールである。

 緑のリボンのメイドさんは、それほど時間をおかずに戻ってきた。

 そして一口大の小さめなクッキーを、少し大きめの皿にでんと持ってきてくれた。

 各自つまめるようにとの配慮であろう。

 ありがたい。

 どのクッキーを選ぶか、という楽しみが増えた。

 そして飲み物は、私と晶露さまにはホットミルク。そしてあとの2人には紅茶のおかわりである。流石に父に紅茶のおかわりを出して、若君にないとはありえないからである。そっと、若君のカップを差し替えていたメイドさんである。

 三弥さんにはないのが、哀れに思えたが、護衛も務めている為、仕事中である。

 飲食は不可なのだろう。議論で喉が渇くであろうに。

 ストレスのかかるお仕事である。

 労いの念を送っておく。

「納得いかないところがあるが、話を進める」

 私が満面の笑みで、ホットミルクをいただこうとしていた瞬間、若君がこちらに向き直り、話の続きを始めた。

 仕方なく、カップをおく。

 匂いをかいだところでお預けだ。蜂蜜の香りがした。蜂蜜入りホットミルク。

 おそらく午前中にいただいたホットミルクと同じ、極上の蜂蜜を使用しているに違いない。

 ああ、すぐに飲みたかった。

 熱いうちの方が、絶対美味な筈だ。

 しかし、私は断腸の思いで、カップをおく。

 本家跡取りの若君の話に、集中しなくてはいけない。

 隣の父も残念そうに、取り皿にクッキーを置いた。気持ちは一緒である。

「エルフ語やエルフの歌についてはわかった。が、その後の妖精に形を与える儀式、あるいは儀式めいたものについてはどうなのだ?あれもあの場で頭に浮かんだものか?」

 そうだよ!それで押し切る!道は!それしかないのである!

「はい。私があの妖精になりきれない、自然の申し子を視て、そしてあの場にいた方々がそれについて語り合ってるのを聞いて、どうにか誤解を解きたかったのです。決して晶露様に付き従っているものは悪しきものではないのだと、わかって欲しかったのです。どうすれば皆様の考えを変えられるか?一生懸命考えていた時に、ふっとその解決方法が浮かびました。けれど、私もそんな風に頭に浮かんだのは初めての事ですので、うまくいくかはわかりませんでした」

「それにしては、自信満々に見えたが」

 若君よく見てるね。そう、前世では似たような場面に出くわしたことがあるから、落ち着いて見えたのかもしれない。

 しかしここで正直に言う訳にいかない。

「私が自信なさげに申し上げたなら、きっと若君は私が成したいことを許可してくださらなかったと存じます。その為、お腹に力を入れて、頑張りました」

「はったり半分か」

 その通り。

「どのようにお取りいただいてもよろしいです。私はやり切れただけで、十分でございます」

 結果を出したんだから、文句はなかろうよ。

 これ以上追求して来ないで欲しい。

「頭に浮かんだというが、晶露の髪に呪文か祝詞(のりと)かわからぬが、言葉を紡げば、妖精に形を与えることができる、と、そこまで具体的に浮かんだのか?」

 うわあ。まだ聞いてくるか?疑ってるな、若君よ。

 逆の立場でもそうするだろうから、仕方がないかもしれぬ。

 しかしながら、5歳の私に悪巧みなんて出来るはずもないと、もうそろそろ追求を諦めてくれないだろうか。

 前世の記憶からの引用だというのを除けば、私の頭にぴこんと浮かんだのは真実である。

 前半部分が重要だろうって?

 人の解釈とはそれぞれである。

 否定はしない。

「私は頭に浮かんだものを、そのまま実践したまででございます。それで晶露様の苦難は、よき方向に転換できると頭に浮かんだのです」

「確かにあの場は収まったな。お前の気絶とともに」

「うう。それは」

 気を失ったのは、私も予想外だったのである。

「すまない。少し意地が悪かった」

 若君が謝ってくれた。

 ほっ、よかった。

「お前の言う通り、妖精が姿を持ったことで、晶露への見方は確かに変わっただろう。白きフクロウの雛は悪しきものに見えなかったし、感じなかったからな」

 よかった。

「それに少し付け加えるなら、妖精を具現化させる為に、日本語では難しいようでございました。エルフ語はとても古い言葉で、エルフや精霊に長く使われている言葉です。古い言葉は力が宿るらしく、日本語で同じ言葉を唱えるよりも、エルフ語で唱えると、妖精に力を与えられる可能性が高いらしいです。」

「言霊の力か」

 おお、こちらでも言霊の考えがあるのだな!嬉しい発見である。

 日本は異世界でありながら、共通する部分は多々ありそうである!

「言霊の力を知っておいでだったのですね。だから、私が若君に助力を願った時に、私が話していたエルフ語を使ったのですか?初めて聞いた言葉を?」

「お前も初めて聞いた言葉だろう?同じだ」

 いいや、違う。私は前世でがっつり勉強したである。

 若君はあの場で初めて聞いた言葉を使った。単語ではあるが。やはり若君は天才であるか!?

「それに、あの場でエルフ語を使ったのは、そのほうがいいと感じたからだ」

「よろしい判断であったかと思われます」

 本当だ、咄嗟の判断が的確なのである。

「妖精は晶露様の髪を依り代としてこの世に顕現しようとがんばっていましたが、妖精自身の力や私のエルフの言霊の力では足りませんでした」

「ぼくもすごいがんばって、いのったけど、たりなかった?」

 晶露様が不安そうに私を見つめてくる。

 私は安心させるように、微笑んだ。

「いいえ、晶露様の妖精への強い祈りは、確かに力になっておりましたとも!けれども、妖精がこの世に形を成すには、予想以上にエネルギーが必要だったようです」

 そう、パワー不足で本当どうしようかとあの時は、進退窮まったのである。

「これは失敗するかもしれない!とそう思った時、頭にひらめいたのでございます!そうだ!若君のお力をお借りできればと!」

「また頭に浮かんだのか」

 それにはもう飽きた、というように若君がこぼす。

 これは本当なのだから、そんな顔をしないで欲しい。

「さようでございます!若君にはその力があると!」

「私の力がか?」

 若君ったら、その場にいたのだから。自分でもわかったであろうに。

 私に言わせたいのか。言わせたいんだな。よろしい!申し上げようではないか!

「はい!妖精は以前から若君に力を感じていたらしく、それを私に伝えて参りました!」

 若君に体当たりして行って、若君の圧に負けて悔しがっていたのを見て、私はそう解釈したのだ。

 もう一度言おう!解釈の仕方は人それぞれである!

「妖精へ姿を与える儀式の前、妖精と話をしていた時に、告げられた言は正解でございました!加え、若君は初めて聞いたエルフ語をすぐに覚えられ、言霊に自らの気力をのせ、妖精にお与えになった!それで、妖精が具現化できたのでございます!」

 持ち上げるぞ!どこまでも!それで追求がなくなるならな!

 さあ、どうだ、若君よ!

「妖精の具現化の儀についての経緯は理解した。納得できかねる部分は多々あるがな

 若君冷静だよ。得意満面にならないとは。本当に若君7才であろうか?

 そして私にはなぜか塩対応が滲んでいる気がする。気のせいであろうか。

 私、頑張って、盛り上げたのに、無駄であったのか?残念である。

「私も妖精の姿を見て、悪意がないと理解できたが、お前がそれ以前に害意がないとわかっていたようであったな、なぜだ?」

「それは完全なる私の勘です」

 具現化する前の妖精未満を視れたのも、その勘に一役買っているだろう。

 妖精は良くも悪くも素直だから、人に害意があったら、ダダ漏れだからである。

 ていうか若君、この質問は先ほどもしたのである。

 また聞くことで、私の答えを審議してるのか?

 油断ならない人である。

 私を疑うよりも、エルフ語を一発で耳コピ出来たことに、もっと胸を張って欲しい!

 妖精が顕現できたのは、本当に若君の後押しがあったからで、若君がエルフ語を使ったからこそブーストがかかったのだから。

 だから、私は更に褒め称えよう!

「若君のエルフ語は力強かったです!それが妖精の顕現の決め手になったと私は思います!」

「褒めても何もでぬぞ」

 うんうん。ここに来て、若君、少し鼻がピンと伸びた気がする。

 いいね!

「本家の若君はすごいのですね!私、感服致しました!」

 もっと得意げにしたらよい!

「篁様」

 と、そこに冷や水を浴びせるがごとく、三弥さんが若君の名を呼ばれた。

 若君はそこではっと正気を取り戻すように、一度首を振った。

 惜しい。もう少しでこちらのペースに持ってこれたのに。

 おつきの三弥さんめ。邪魔してくれたな。

 若君はごほんと一つ咳をする。

「妖精が顕現したのは、弟の髪と、願いと、お前と私の言霊の力があってこそということだな」

「はい」

「何もかもお前の頭に浮かんだ言葉、やり方が元になっていた。そしてその出所は不明という訳だな」

「残念ながら」

「まるで雲を掴むような話だな」

 仕方ない。前世の知識が元というのは言わないと私が決めたからな。

 もう、それで納得して欲しい。

 それでだめなら、先ほどの三弥さんの提言で納得して欲しい!

 私はあの場では、巫女もどきであったと言う言で!

「にいさま!ねえさまをいじめないで!」

 それまでずっと黙って話を聞いていた晶露さまが、突然抗議の声をあげた。

「ねえさまはちゃんとおはなししてくれたでしょ?どうしてにいさまはおこってるの?」

 そう言って、なんと実の兄の若君を、睨みつけているではないか!

 若君の私への追求が、晶露様の目には、兄君が私をいじめてるように写ったのかもしれない。

 実の兄をポッと出の私を庇う為に、睨んでる!

 これはいけない!これはまずい!

 どうしてか、晶露様の中で、優先順位が若君より私のほうが上になってしまっているように見えるのである。

 私はただ一時、この場にしかいない存在。

 明日になれば、当分、あるいは一生会うことはないかもしれない。

 そんな私が原因で、今後一生付き合っていくだろう兄弟の仲に、不調和音を響かせる訳にはいかない。

「晶露様、若君は決して私をいじめたりしてはおりません。ただ話し合いが過熱してしまって、少しお言葉が荒くなってしまっただけでございます」

「ほんとう?ねえさま、いじめられてない?」

「はい。若君はお優しいですから。晶露様もそれはよく知ってらっしゃいますでしょう?」

「はい。にいさまは、おやさしいです」

 晶露様はそこで一呼吸する。

 そしてすぐに兄に頭を下げた。

「にいさま、ごめんなさい。ぼく、にいさまが、ねえさまをおこってるかとおもってしまって」

「いや、いい。晶露はこの娘が好きか?」

「はい!ねえさまはやさしくぼくをなでてくれますし、なによりこわいものからたすけてくれました!あ、いまはこわいものではなく、とりさんになってかわいいです」

 晶露様は無邪気に笑って、サイドテーブルのかごに眠る雛を振り返って、笑う。

「そうか」

 若君も晶露様の頭を撫でた。

 うむ。仲良きことは美しきかな。

 よきよき。

「時に、灰咲の娘、お前、晶露様の御名をを呼んでおるが、無礼ではないか?」

 三弥さんが話の区切りとみたのだろう、そう私に声をかけた。

 ずっと気になっていたんだろうな。

 わかるよその気持ち。

 そして待ってたよ。その突っ込み。

 私も正したかったんだ。

「はい。私もそう考えましたが、晶露様から許しを得まして。それでもやはりお断りすべきでございました。今後は弟君とお呼び致します」

 やれやれ、これで居心地の悪さは解消するな。

「いや!」

 と、即行で、晶露さまのからの抗議の声が!

 みると、私への最大の武器、大きな瞳に、大粒の涙を浮かべて、こちらを見ていらっしゃる。

「ねえさま!なまえでよんで!おねがい!」

 うっ!うう!

 私では、断れない!

 さあ!いまこそ!若君!三弥さん!

 晶露様を(いさ)めてくださいませ!

「にいさま、わたしがなをよんでほしいのです!おねがい!」

「あ、ああ。晶露の望みのままにしてもよいと思うが、三弥はどうだ?」

 ちょっと!早いよ、若君陥落するのが!そして三弥さんに委ねたよ!

「みつや、だめ?」

 おおう!晶露様の目から今にも涙があふれそうだ!

「うっ!」

 三弥さん、かなりなダメージを喰らった模様。

 がんばれ!三弥さん!

「……公式の場では、晶露様の名を呼ぶのは控えるように」

 三弥さんも撃沈。

 ああ、晶露様の涙には、誰も勝てないらしい。

 仕方ない!晶露様、可愛いからな!

皆様、小さきものには弱いw

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