第26話 私、若君の厳しさを痛感す
「ふむ。ひとまず見鬼の才については、今はここまでにしておく」
ちょっと待って!なに?!
「見鬼の才ってなんでしょうか?!」
私、知りたい!ぜひ教えて欲しい!詳しく!
「それでは次の質問だ。お前は私たちが知らぬ言葉を話し、歌を歌い、妖精を鎮めた。あの言葉はどこの言葉だ。どこで習った?」
私の願いむなしく、私の質問はばっさり無視して、先へと進む。
わかりました!私の質問は後回しですね!了解しました!
くっ!
はいはい、どこの言葉で、どこで習ったか?
先程もぶつけられた質問だ。当然必須な質問でもある。
私も妖精未満が暴れ回るという突発的な出来事が起きて、つい前世の記憶を使ってしまった。後悔はしていないけれども。
先ほども悩んでいたところだ。
さて、どこまで、どのように話そうか?
前世の記憶があることは絶対に伏せておきたい。
私には力があってーなど、母の好きな小説のような一節を披露するのは、断固拒否である。
先ほどふと思ったのであるが、妖精と日本語で言葉にした途端、すぐそこに実体がいるにも関わらず虚構のような、薄っぺらいものに成り果てた。妖精という言葉はまだ日本語としては重みがない。
前世の私が生きてきた世界では精霊や妖精、エルフはしっかりとその存在を世界に定着させていた。だから、それらを表す言葉を口にのせても、確かな重みがあった。
こちらの世界では、精霊や妖精などは実際には存在しないと考えられ、空想上のものであると認識が強いのだろう。だから妖精という言霊の力が弱いのかもしれない。
そんな認識の中、エルフ語であると、答えて果たしてそのまま信じてもらえるだろうか?
小説として、文字としてはエルフという言葉はあるから、拒絶はされないかもしれぬ。フィクションとしては、許容できるだろう。
でもなあ。日本語にすると、ペラペラに聞こえるのは否めない。
はっきり言ってうそくさい。
うーん。どう話すか?
夢のお告げとでもいうか?
いや、妖精を視たのは今日が初めてなのだから、整合性がとれないか。
いや、予知夢と捉えてもらえるか?
それにしても、部屋に現れたのが、若君だけでよかった。
ご当主様や前当主様まで現れた日には、圧がすごいことになるからな。
私はともかく、父が萎縮して、身体が豆のように小さくなってしまうだろう。
子供は子供同士のほうが話しやすいとの思惑もあるのかもしれない。
ここにいるのは、先ほども言ったように、父、私、若君、そして弟君。
更に付け加えるならば、向かい側に座る若様の後ろに立つ、護衛件お付きの三弥さん、更に更に付け加えるならば、サイドボードにあるかごの中で寝ている、お騒がせなフクロウの雛の姿をした若い妖精。
私をこの苦しい立場に立たせておきながら、自分は寝てるとは!
あ~!もう!ごちゃごちゃ考えても答えは出ぬ!
信じてもらえなくても、ある程度は真実を告げてしまおう!
決して面倒臭くなって、やけになったわけではない!
「おい?」
若君が催促するように問いかけてくる。
「エルフ語です」
「は?エルフ語だと?」
はあ。予想通り、日本語にすると紙みたいにペラい響きである。
「私も私が話した言葉がわからなくて、じっと考えてたら、エルフ語であると浮かびました」
前半は偽り、後半は真実。申し訳ありません。
若様は父に向き直った。
「そなたの家で、代々伝わっている言葉ではないのか?」
「違います!そもそも私の家は灰の分家でも末端で、この子の代ではおそらく、分家からも抜けるほどの血の薄さでありますから!そんな大それた教育をしている訳がございません!」
父よ。緊張しているのはわかるが、言葉使いが変だぞ。
突っ込める立場ではない。苦境に立たせて済まない、父よ。
「で、あるよな」
若様なにげに失礼。失言オンパレードだ。
きっと私が気絶している間に、私の家の事を調べたのだろう。
それでもだ、はっきり言うか?
ま、本家様ってやつか。
所詮、分家の人間と見下しているのか、この野郎。
いけない。冷静になれ。
「突然の先祖返りか」
若君が呟く。
いや、違うよ。本家の血とは、まったく関係がないって断言できる!
が、言えやしない、言えやしないよ。前世の記憶が、私を動かしたなんて!
「血が、言葉を伝えたのか。だが、この者の言葉は本家にも伝わっておらぬ。研究が必要か」
なにその不穏な言葉。いやだよ。君らの研究に、私の時間を取られるのは。
よし。究極まで端折って、告げてもういいところは告げる!
「エルフ語は、日本語でいうと妖精の言葉ですね」
「そうだな」
「妖精は、お前の言うエルフ語をなぜ理解できた?」
「妖精は生まれた時から、エルフ語がわかると言われています」
「それはどこで言われていたのだ?」
「さあ、わかりません。つるっと口から出ました」
私はそこで自分でも不思議というように、頭を傾げておく。
どうよ。少しは納得してもらえただろうか。
「妖精は初めからエルフ語を知っていた。だから、お前の言葉を聞き、話に耳を傾けたと」
「妖精は、馬鹿ではありませんから。話をすればわかってくれます」
「なぜ最初に歌ったのか?ああ、魂鎮めの為か」
若君、正解。興奮している時にいくら話しかけても、耳に入らないからである。
「妖精はお前が歌った歌も知っていたのか?」
「歌自体は、知らなかったかもしれません。あれは幼いエルフの子どもに母親が歌う子守歌らしいです」
「子守歌か。なるほど、心を鎮めるには、いい選択だ」
「はい。妖精は、まだ妖精になりきれない赤子のようなものでしたから」
「それも頭に浮かんできたのか?どこかで見たり聞いたりしたのではなく?」
「はい。ふわっと頭に浮かびました」
「ほう」
若君が思いっきり不審だって顔をしておられる。
言葉に疑いの気が、入っているな。
若君の気持ちはわかる。私の言葉薄っぺらに聞こえるからであろう。さもありなん。私自身でも感じるのだから、若君はなおさらであろう。
同じ言葉を私ではなく、神官や聖女様がお話になられたなら、信用度は違っていたに違いない。言葉に重みがでるのである。言霊は言葉の内容にもよるが、話し方、話す人によって重さや尊さが違ってくる気がする。
しかしだ、それでもだ!私はこの線で乗り切らせてもらう!
変更はなしである!
それにしても、若君と話していると、頭が整理できてよいな。
真剣な話をしている時に、余裕だなって!
突っ込みが聞こえそうである!
違うのである!
焦りに焦って逃げ出したいから、頭の中だけでも逃避してるだけ!
背中には冷や汗だらだらなのである!
誰か代わって欲しいのである!
誤魔化すときは、自信ありげにずいっとw
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