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第25話 私、若君と話す、そして困惑す

「事が起ったところからか」

 若君はしばしの考察の後、顔を上げた。

「晶露が庭に駆け込んできた後、騒ぎになったな」

「にいさま、ごめんなさい」

 晶露様がすかさず、若君の袖を掴み、謝罪のお言葉を口にする。

「よい。すでに謝ってもらっている。それに晶露は、私に生誕を祝ってくれたのだ。気にするな」

 よい兄である。許す広い心、大事である。

 そんな素晴らしい兄君には、私からも心からの言葉を贈ろう!

「若君、お誕生日おめでとうございます!この一年が新しい出会いと発見に満ちあふれていますように!」

「ああ」

 若君、私には塩対応である。

 何が気にいらなかったのか。

 新しい出会いと発見、胸躍る響きであると思ったのであるが、どうやらお気に召さなかったらしい。

「話を続ける。その晶露についていた妖精? それが晶露への悪意に敏感に反応して、その者たちを牽制して、騒ぎにまで発展した訳だな。悪意の元をただせば、妖精がむやみに周りの者を威嚇したからなんだがな」

 やはり分家の方々の陰口にお気づきであられたのだな。若君。

「妖精はまだ幼きゆえ、守り方を知らなかったのです。どうかご容赦を」

「妖精に晶露への害意がないのはわかっていた。我らがどうにかできなかったのが問題であったのだ。力不足であったのだ。それが分家の口さがない者たちを増長させてしまった」

 若君が悔しそうに唇を噛む。妖精をどうにかするなんて、普通できないから、若君はあまり気にしなくてよいと思われる。

 ただ、晶露様の置かれた状態を改善したいと思っていた気持ちは重要ではある。その気持ちを大切にして欲しい。

「晶露様への品のない言葉を呟いた者たち、はチェック済みであります」

 三弥さんが告げる。

「そこまでにしておけよ。悪口を言っただけで粛正したら、きりがない。それにあの場にいたなら、人間性はともかくも、それなりに使える者なのだろうからな」

「はっ」

 本家の方も大変なのだな。ある程度本家には畏敬の念をもってもらわないといけないが、それが恐怖にスゲ変わるほどになると、組織としてはいただけない。

 締め付けと緩和。塩梅が難しい。

「初見えの前儀の場は崩れつつあった。清浄な空気は淀み、注目は晶露へと移りつつあった。どのように収集し、また儀を続けるか?私や父上、そしておじいさまも頭を巡らせていた筈だ」

 そうでしょうね。

「そこにお前だ」

「は?」

 すっかり第三者目線でいた私。若君からいきなり指名され、間抜けな声が出てしまった。

「何を抜けた声を出している。突如、我らの前に現れて、妖精が興奮して飛び回っていたのを歌で、鎮めただろう!」

「あ、え?そうですね?失礼ながら私は最初からあの場にいましたよ?」

 一番下座でしたがね。

「なぜに疑問形なのだ!お主が聞いたことがない言語で歌い、妖精を鎮めた!あの言葉はなんだ!どこの言葉だ!」

 私の突っ込みは無視である。そして若君、追求しているうちに興奮してきたのか、また声が大きくなってきた。

 大人しくなったから、それでいいのでは?

 ではすまない雰囲気である。

 隣に座る父をちらりと見るが、父も私の答えを待っているように見える。

 むう。困ったのである。

 どこの言葉と言われても。

 私は口ごもった。

 まずい。まだ言い訳を考えていない。ここまで追求されるとは思っていなかった。それに、腹を満たすのに、気を取られていたからである。

 さて、どうする?

 あれはエルフ語です。そう言っても信じてもらえない気がする。

 信じてもらえたとしても、今度はどこで習ったと聞かれそうだ。

 前世の知識ですなんて言ったら、ますます信じてもらえなさそうである。

 私が逆の立場で、私がエルフ語を知らなかったら、絶対信じない。

 本当の事だけれども、言葉に載せると薄っぺらい絵空事に聞こえてしまうのもある。

 私に力が足りないのか。こちらの空気がそうさせるのか。

 何より私がまだ5才であるというのが、ネックである。

 幼児の空想かって、怒られそうだ。

 真実は小説より奇なり。

 しかしなら、どう誤魔化せばよいか、まるでわからない。

 今日は本家へと遠出してきて、図書室探しをして、初見えの前儀に出席して、途中弟君のハプニングを解決して、力尽きて気絶して、お腹がすいて先程起きて、エネルギー補給したところである。さらに若君が乗り込んできて、お話し合いである。(←いまここ)

 色々ありすぎるぐらいありすぎて、頭がもうよく回らないのである。

 しかし人生は無情である。問われているのは私1人。私が必ず答えを示さなくてはならない。

 はあ、困った。

 だから言っただろう?少しは先の事を考えて、むやみに頭を突っ込むなと。

 前世の友が、やれやれ困った奴だというように、首を振っている。

 そのいつも助けてくれていた友も今はいない。

 自分でどうにかしなくてはならない。

 ぐう。

 私が回らない頭を懸命に回して答えを模索していると、若君がしびれを切らしたのか口を開いた。

「答えがないのか、答えられないのか。このままでは埒が明かない。ならば、質問を変えてやる。短く1つずつだ。最初の最初からだ。お前は妖精、いや、あの時には妖精未満か?なぜそれが視えた?」

 うん。これはすぐに答えられるな。

「わかりません」

「あの妖精以外で、不思議なものを視たことはあるか?」

「初めてです」

 うそは言ってない。

 現世では初めてである。この場が、本家を包む外気が、今世の私の目を開いてくれたのかもしれない。他所とこの場の外気がどう違うかは、不明ではある。

「私でも、妖精未満だったあれは、気配を感じるぐらいで、正体を視れなかった。当主も、前当主もだ」

「そうなのですか」

 力はあれど、気配は希薄だったからか。それでも意識が芽生え、あれだけ力があれば、遅かれ早かれ勘のよい方であれば、あの妖精未満を視れるようになったのではないかと思われる。

 私にしても、正直驚いたのである。妖精がいることにも、それが視えたことにも。

「なるほど。今日初めてだと言い張るのだな」

 いや、言い張ってはいないよ。素直に申告してるから。

 なんか、若君、疑り深くなってるようである。

 あ、若君が確認するように、私の隣に座る父を見た。

「本当でございます。今まで娘に特に変わった様子は見受けられませんでした。強いて言えば、時々立ち止まって、ぼけっとすることはありましたが」

 父!それは私が考えに没頭している姿だよ!ぼけっとはしてないから!

「ふむ。それは微かに何かを視ていたのかもしれないな。本人は気のせいだと、気にもとめないくらいの些細なものを」

 若君、深読みしすぎである。

 変に勘ぐられないように、もうすこし補足したほうがよさそうである。

「晶露様が庭にお越しになられた時に、その場にいらした方々が、晶露様について色々語られていたので、晶露様に何かあるのだなというのも一助になったのかもしれません」

 晶露様がいる場で、悪意を含んだ言葉は使いたくないから、そこは言葉を濁す。

「なるほど。それで?」

 何その疑問。それからってか?

 ざっくりすぎるのである、若君よ。

 ちゃんと的確に質問を続けて欲しい。

 察するのも大変なのだから。

「最初は気づかなかったのですが、よくよく晶露様の周りを視ていたら、なにか小さき風の塊のようなものが視えました」

 本当、あの子が力をぶん回さなければ、視えなかったかもしれない。

 怒りの感情はある力を増幅させる効果があるからな。

「それがなぜ妖精とわかったのか?」

 今更ながら、妖精って言葉がこちらにもあってよかったのである。

 ん。通じてるんだから、あるのだよな?

 うーん。しかし、どうしてわかったか?か。

 それはまさに前世の経験からである。

 それを言う訳には行かない。

 ここは5歳児ぶりっこだ。

「その小さき風を見ていたら、妖精って言葉が頭に浮かびました」

 うん。そうしておこう。ちょっぴりぷりっとしておく。

「悪意がないと思ったのは?」

「そう感じただけです」

 それはもう経験則っていうか、観察力ってやつである。

 私にもはっきりとはわからないから、そのまま答えておこう。

 自身の分析が不十分だぞ!と、前世の友に怒られそうだ。

 いや、確実に怒られるだろうな。


いつもお読みいただきありがとうございます!

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