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第18話 私、謳う

主人公出張ってます!

 初見えの前儀の最中、弟君とそれに憑く、この世界で初めて視た妖精未満の、突然の登場により、場が混乱している。

 そのせいだろう、私がゆっくりと、若君と弟君のところに近づいても、誰も咎める者がいなかった。

 護衛兼従者の方も、妖精未満に気をとられているようだ。

 何より私に害意がないからであろう。

 若君は油断ない目を、周囲に走らせている。

 まもなく私の存在に気づくだろう。

 弟君は若君の腕の中で震えている。不憫である。

 妖精未満である、小さき自然の申し子は、この子を守ろうと奮闘しているんだろうが、逆効果である。

 愛情のすれ違い、悲しすぎるのである。

 なんとかこの行き違いを、解消してあげたい。

 目立ちたくはないが、仕方あるまい。

 幼子が悲しむ姿を、見たくないのである。

 況してや、私がその悲しみを取り除ける可能性があるのならば、なおさらである。

 幼子には笑顔が似合うのである。

 私は更に近づき、若君と弟君から10歩程度手前で足を止めた。

 混乱はまだ続いている。妖精未満は疲れを知らぬかのように、まだビュンビュンと飛び回っている。

 今は儀式の場で、普段よりも人が多い。

 そのこともあって、妖精未満は余計に神経を、尖らせ、高ぶらせているのだろう。

 まずは落ち着かせる必要がある。

 私は大きく深呼吸した。

 よし!

 私は大きく一つ柏手を打った。幼児の柏手だが、存外大きく響いた。

 一瞬あたりが静まる。

 そしてー。

 私は、謳い始めた。

 前世で知り得た、エルフの言葉で、エルフの歌を。


 風は守るよ。大地を吹き抜けて。

 風は守るよ。愛しき自然と大地を。

 大地を守るゆりかごである風よ。

 我らを、包み込む優しい風。

 風は守るよ。我らの眠りを。

 とこしえに。

 だから眠るよ。我らの愛しき子らよ。


 はあ。よかった。無事ちゃんと謳えた。

 この身体で、この口で、ちゃんとエルフの言葉を紡げるか、少し不安だった。

 これはエルフに伝わる、子守歌である。

 前世で知り合いのエルフに教えてもらった歌だ。

 なぜここで、いきなり歌を?と思ったかもしれない。

 別に歌でなくてもよかった。

 妖精未満を静かにさせる事ができれば。

 私はその方法として歌を使用したのだ。

 精霊や妖精は、歌が大好きである。

 歌が始まれば、自然に耳を傾ける。

 それを知っていたから、謳ったのだ。

 なぜ子守歌かと?

 別に子守歌でなくてもよかった。

 荒れた気持ちを静める効果があるものであれば。

 どうせなら、より沈静効果があるものをと、子守歌を選んだまで。

 選んだというか、咄嗟に思いついたのが、エルフの子守歌だったのである。

 妖精未満の子を落ち着かせる歌。

 正直なところ、この世界の妖精、妖精未満に、あちらのエルフの言葉が通じるかはわからなかった。

 ただ、ゆったりとしたメロディが、妖精未満の心を落ち着けてさえくれれば、御の字であった。

 どうやら、それは成功したようである。

 歌い終わった私の顔の前に、妖精未満がふわりふわりと浮かんでいた。私の目にもその存在は希薄だ。

 だがそれでもよし。

 確かに目の前に、妖精未満はいる。

 第一段階無事終了である。

 次だ。


 私はそっと、妖精未満に話しかけてみる。

 まずは日本語で。

「小さき自然の申し子さん、私の言うことがわかりますか?わかったならば、上下に少し動いてください」

 しばし待つ。

 反応なし。

 うーむ。日本語、通じず。

 残念。

 次に、前世でマスターしたエルフの言語で、語りかけてみる。

 これでだめなら、万事休すだ。

 でもー。きっと大丈夫。これは予感。

 私は心を落ち着けて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 <まだ姿をもたぬ、自然の申し子よ。我の言葉がわかるならば、上下に少し動いてみせよ>

 すると、目の前に浮かぶ妖精未満が、私の言葉通りの動きを見せた。

 おおっ!

 エルフの言葉が通じた!だとしたら、きっと歌もメロディーだけでなく、内容も通じた可能性が高い。

 私はまたも感動に打ち震える。

 すごい発見だ!友が言っていたことは、真実であったのだ!

 エルフの言語は古い。けれど、妖精や精霊の言葉のルーツはもっと古い。そしてその言語を話す精霊や妖精の数も少ない。なぜなら、精霊や妖精同士では言葉がなくとも、心が通じるからである。意思疎通を言語に頼らないのだ。精霊が言葉を使う時、それは言霊の力を使い、大地を、自然を整える時に使われる。精霊の言葉自体が呪い、あるいは祝詞なのである。妖精もそれに準じるところがある。

 人間には発音は不可能と言われている。

 エルフ語は、一つにして全。どこの国のエルフも同じ言葉を使う。人にも話すことは可能だ。そして精霊や妖精も、理解可能な言語である。

 それは精霊の王、あるいはエルフの長が精霊の言葉を元にして、そう作ったとされる。

 どうしてそうしたのかはわからない。精霊、妖精、エルフ、人の間に通じる共通言語が欲しかったのか、あるいは必要だったのか。

 ただ、エルフ語は、人間の言葉よりも力がある為、身体に負荷がかかる。

 人の言葉より遙かに古い言葉だからだという。

 そんな解説を、前世のエルフの友から聞いた。

 ちなみに私がいうエルフとは、エルフ族をさす。エルフ族とは、人間に似た肉体身長を持つ、長命であるが定命(じょうみょう)の、妖精の枝分かれした種族である。

 話を進める。そしてエルフは不思議なことに、生まれた瞬間から共通の知識として、エルフ語が身についているらしい。エルフとして必要な知識もまたしかり。

 個人の差はあるが、必要最低限の事は学ぶ必要がないという。

 私はそれを聞いたときに、大いに憤慨した。

 反則ではないかと。

 エルフの友は笑っていた。

 その後、ふと真面目な顔をして、知識があればあるほど、その人には責任があるのだよと。

 今まさにその知識が私を助けている。エルフの言葉は一つにして全。エルフ語は一つしかないのである。

 そしてそれは時空を超えて、次元を超えて、その原理が共通であると、今ここに証明されたのである。

 さらに!さらにだ!

 そのエルフの言葉は、エルフの赤子が誕生した瞬間から備わっているばかりでなく、妖精もまた同じであると、今ここに証明されたのである!

 なんということか!

 私は新事実、新発見の連続に、胸の鼓動が生まれてから今までで、最高の高鳴りをみせている!

 過呼吸になり、失神しそうである!

 その時、前世のエルフの友が、ふっと呟いた気がした。

 精霊や妖精は、エルフの同系列種族なのだから、エルフ語がわかるのはあたりまえでしょ?

 エルフの友にとって当たり前のことでも、私にとっては新たな発見なのだよ!

 今はもう会えぬ友に文句を言うと、少し冷静になった。

 ありがとう、友よ。

 君は昔から私に冷や水をかけることが、多々あったね。

 今はそれをありがたく思うよ。

 むっとはするけどね。

 はあ。

 しかし、こうもはっきりつながりが見えると、更に疑問が出てくる。 

 前世の世界とこちらの世界がどの程度のつながりがあるのか?

 精霊の言葉も時空を超え、次元を超え、共通なのか?

 はたまた、肉体を持つエルフはともかく、自然霊である精霊や妖精は異世界間を行き来できるのか?

 疑問は広がり、そして尽きない。

 が、ここでは一旦おいておく。

 そうしなさいという、前世のエルフの友の顔がチラつく。

 私は頭を軽く振り、怒りも振り払う。

 目先の問題に集中しなくてはならない。

 私は1つ深呼吸する。

 妖精未満と意思の疎通が可能なことがわかった。

 第2段階クリアである。


 続けていこう。

 この場をおさめるのが、最終目的である。

 あ、違う弟君の涙を止めるのが、最終目的か。

 決して私の好奇心を満足させるのが第一目的じゃない。

 それはここに記しておく。

 いかんいかん、誰に弁解しているのか?

 目の前に集中である。

 私は視線と思考を目の前に浮かぶ、妖精未満に戻した。

 <まだ姿をもたぬ、自然の申し子よ。そなたが、そなたの愛し子に向けられた悪意から守ろうとしているのはわかる。けれども、それが逆にこの子の立場を悪くしている、わかるか?>

 戸惑い、困惑しているのが伝わってくる。妖精未満であるこの子は、まだ言葉を操る事ができないらしい。ただ気持ちだけをダイレクトで私に伝えてくる。

 その気持ちをくみ取ると、やはりこの妖精未満は、悪いものではないようだ。

 ただ、気に入った子を守ろうとしているだけのようだ。

 妖精が人間の子どもを気に入る基準は、不明だ。

 ただひとたび気に入ると、その子が死ぬまで離れることはまずない。

 強烈な執着なのである。

 できることは、なんとか人の道理を説いて、妖精に魅入られた子に不幸がないように導いてやるだけである。

 人の道理など、妖精にはわからないのだから。

 でなければ、悪循環が続くだけ、愛情の空回りである。

 やっかいな情愛であるのは、間違いないと言える。

 どうせなら言語の知識と同様に、人とはどういう生き物かという知識も、予め植え付けておいてほしいものである。

 そう、うまくはいくまいよ。

 またも前世のエルフの友が、頭でつぶやく。

 うるさいのである。

 それでもだ。

 姿がなくても存在しているなら、言葉が通じるのであれば、やりようはある。

 <この子が好きか>

 私はちらりと弟君を見て、問う。

 是。

 <この子を守りたいのだな>

 またも是の気持ちが伝わってくる。

 <愛し子と話もしたかろう?>

 今度は嬉しそうな気持ち。

 よしよし。素直なよい子だ。

 <しかし今のままでは、愛し子と通じることはできぬ。愛し子にはそなたが視えぬからな>

 今度は嘆きだ。まったく妖精らしく素直だ。すれていない。

 <ただ、そなたが全力を尽くす気があるのなら、私が力を貸そう。そなたが個の姿を得る力を。どうする。やるかやらぬか?>

 今までにない熱量のやる気が、強く強く頭に響く。

 <よし、ならば、力をかそう。だがすこし待て。場を整える必要がある>

 是。

 よし。妖精との交渉は事のほかうまくいった。

 妖精はすれていないからな。ましてや、妖精としても、誕生未満な存在である。

 さて、次の交渉は若君とか。

 私がついと若君と弟君のところに視線を向けると、2人の後ろには前当主隆源様と当主明臣様が立っていた。

 ええ!大人と交渉か!?

 負担倍増である。

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