第162話 私、今回出番なし
水音家当主、真弓は大海を見送りながら、隣にいる妹の美妃を見下ろして言った。
「お前、これからより精進しろよ。若君の許嫁候補筆頭になりたければな」
「はあ?私があの子に負けるとでも?」
俺の言に、妹が片眉を上げる。
「異能についてはともかく、思慮においては負けているだろう。7歳にして、あの視野の広さ。おまえ、7歳の時に、大人に的確に意見ができるほどであったか?」
「なにそれ」
「わかってないのか」
本当に7歳なのか?と思わせる程に、考えが深い。
彼女の家は分家序列最下位、かの分家は異能が発現することはほとんどなく、本家、そして他の分家のような英才教育を受けていない。
にもかかわらず、あの思慮深さ。驚愕を通り超して、不気味とさえ感じる。
妹の美妃は、横で鼻を鳴らして馬鹿にしている。彼女の恐ろしさが、わかっていないようだ。
「彼女は家のしがらみに関係なく、その場の最善を見る力があり、かつ俺の立場を正確に理解し把握して、よりよいアドバイスをしてみせた。そして、それは、彼女の予想通りの効果をみせた」
「今回の清めの儀式についてのこと?たまたまでしょ?」
は?たまたまでここまで見通せるか?
「清めの儀式だけじゃない。儀式を通して、我が水音家にまで、考えが及んでいる」
残念。現時点で若君の許嫁候補筆頭の彼女より、我が妹は、考えが浅い、浅すぎる!
「何よ」
「俺への実家での評価まで、彼女は見通していた」
「まさか、この儀式を成功させれば、長老たちが兄様を見直すと、見通していたというの?」
「そうだ。きっと彼女は見抜いていた」
「うそよ。だって、そんなそぶり見せなかったじゃない。ただ、兄様の言によかったって、言っただけじゃない」
「それを言わないのは、己の立場を弁えているからだろう」
彼女は分家序列最下位、そして好配の儀において、彼女の異能力が低いと知られている。
すべてを弁えていて、若君の許嫁候補筆頭という立場に、あぐらをかいていない。
年齢不相応。どこまで成熟しているのか。
真弓は妹に話す事で、更に大海の提案によっての、水音家内での変化に気づいた。
「そして更にいえば、彼女の清めの儀式を行おうという、この提案により、水音家で1つの道ができた」
「何よ、道って」
「彼女は俺に言ったんだ。俺自身が儀式を行うのではなく、浄化する能力に秀でている者を使えと」
「生意気な娘だわ!」
「そうだ、俺もその時は頭にきた。が、話の流れから、そうせざるを得なくなっていた。俺は、仕方なく自分以外の者をよくみて、選定した。そしてそれが、俺が行う以上に儀式を成功に導いた」
「まあ、結果、よかったんじゃないの?」
「そうだ。そしてそれ以上に我が水音家に良い効果をもたらしてくれた」
「古老の方々の評価でしょ?」
「それもあるが、それ以上に、水音の若年層に、年齢に関係なく、精進すればチャンスがもらえる、評価があがる、序列をあげることができるという考えが広がった。それは古老たちの評価よりも、今の俺にとって、なによりも得がたいものだ。モチベーションが高く、また信頼を寄せてくれる部下が増えるのだからな」
父の部下だった者は、一部を除いては、やはり使いにくさがある。
ならば、新しい若い力を見つけ、育てた方がいい。
「まさか!そこまで考えていたというの?!ありえないでしょう!?あの子はまだ7歳よ!それに!分家序列最下位の灰咲家の末の末の娘でしょう?!」
「そうでなければ、最後の言葉など、出てこないだろう」
「なによ!どの言葉よ!」
「俺の立場を理解し、労る言葉だった」
少しでも貴方様が、眠れる日が増えますように。
それはまさに、真弓の立場を理解している言葉であった。
「まさか!本当に?!」
美妃もここまで兄に言われて、大海の思慮深さに気づき、息をのむ。
「これまでは眼中にない家だった。灰咲家、異能については、底辺だろう。けれど、人を見る、周りを見る能力は侮れない。そして物怖じせずに、意見できる度胸、そして自身を見下す者にも動じない。どれも今のお前よりも、上だ」
美妃は、悔しげに俯いた。
「本家に入るということは、異能の優劣だけではない。視野の広さ、上に立てる器か。見られるぞ」
妹は下を向いたまま、唇を噛みしめる。
今気づけたことを、幸運に思って欲しい。そして活かして欲しい。
「7歳で、あの度量、末恐ろしいよ」
若君に頭を下げる、大海を見遣り、呟く。
「俺も含めて、一層の精進が必要だ」
分家序列最上位を目指すなら。
若君の許嫁候補筆頭を、果ては花嫁を目指すならば。
歩みを止める訳にはいかないと、水音分家兄妹は、痛感したのであった。
以上、水音家兄妹の会話でした。
もし大海が水音兄妹の会話をきいていたら、全否定したでしょうね(笑)
違うのである!買いかぶりすぎである!と。
そして私が大人びてるのは、前世の記憶があるからである!と言いたいところを言えず、ぐにゅにゅとなるに違いないですね。
ここらへんを本文に入れるか迷いました(笑)




