第159話 私、清めの儀式に立ち会う
「始めます」
前置きはない。ただそのかけ声だけが、起こりを告げる。
清めの儀式を担う者は、水音家からは3人、土出家からは4人。
すべて女性、それも少女である。
その中には、見知った顔もいる。私が知ってるということは、そう、若君の許嫁候補として初見えの前儀に呼ばれていた者である。
水音家からは、水音美妃さん、分家序列第2位の水音家筆頭当主の娘である。確か年は13歳であったであろうか。あ、学年2つ上がったから15歳であるか?
そして水音珠子ちゃん9歳である。後、水音家からの1人は、10代後半であろう見たことのない少女である。
土出家からは土出陸花ちゃんである。陸花ちゃんについては年齢不明である。初見えの前儀で、父に年齢を聞く前に騒ぎが起きてしまった為である。同じ許嫁候補なのだから、調べてしかるべきであろうとの皆様の声が、聞こえて来そうである。
それについては、素直に拝聴しておく。
しかし私の中の優先順位が下位だった為、調査不足であったとだけ、言っておこう。
えっ。単に興味がなかっただけではないか。
そこは相手がいることなので、オブラートに包んで欲しいとだけ、言っておこう。
後の土出家の3人は初見えである。
しかし、すべて女性であるか。1人ぐらい男子がいても、よいような気がするが。
あれだけ言ったのに、政治的な匂いが微かに漂う。
機会があれば、若君への印象付けを、行いたいのであろうが、清めを優先して欲しいものである。
まあ、実力は確かであると、信じるしかないのである。
私は儀式の邪魔にならぬように、浜辺の端に並べられた簡易や椅子に座りながら、少しもやっとして少女たちを見つめていた。
横を見ると、目を輝かせて座る晶露様、その頭上にロウ。更にその隣には若君が座っておいでである。
私たちの後ろには三弥さんや松也さんを始めとした本家の子分ズ、そして水音家分家当主の真弓様、土出家分家当主の泰然様、それらの子分ズが、立っていた。あ、一部ご高齢の方々は椅子に座っているのであるな。
浜辺の中心付近に、水音家の3人の少女が間隔を開けて並ぶ。
真ん中は、言わずと知れた美妃さんである。
少女たちの衣装は、袴に袖の長い薄衣を纏っている。
袴の色は当然のごとく家色である。青の衣、海とマッチしている。
土出家の茶も、落ち着いていてよい。私はここで想像してしまった。
私がもし、この儀式に参加していたならば、袴は灰色か。うん。私の感想は控えさせていただこう。
美妃さんが、手に持った神楽鈴を振る。
始まりの合図か。
シャリン。
涼やかな音が、場に響く。
それとともに、水音家の3人の舞が、始まった。
「わああ!!」
晶露様が、思わずといった風に、声をあげた。
気持ちはわかる。優雅で清廉な舞である。
土出家の少女4人は、舞が始まると、浜辺一杯に均等に広がり、時計回りにゆっくりと歩く。神楽鈴で一定のリズムを刻みながら。
一歩踏み出すと、二歩めは足をそろえ、軽く膝を曲げる一回二回。
そしてまた前へと進む。それは単調であるが、どこか神聖さを醸し出している。
土出家は土の気を持つ家。大地を踏みしめ清める技法なのだろう。派手さはないが、確実で堅実な清めの技である。
水音家は言わずと知れた、水の気を強く持つ家だ。
水は、清めの水、聖水などを連想させるように、清め、浄化に強い。
その為、清めの舞など、独自なものを代々引き継いでいるのであろう。
そうでなければ、この場に、風祭家も呼びたいぐらいであった。
風祭は、儀式に長けた分家であると聞いているからである。
ただ、土出家だけでも、水音家年若当主真弓様、ごねにごねたのだ。
風祭家も招集しようと言ったなら、収拾がつかなくなっていたかもしれない。
幸いにして、今回水気の帯びた土地であった為、その進言は、踏みとどまったのである。
おおっと。私がまた思考のお散歩に出ている間に、儀式は進んで行く。
あ、諸君に言っておくが、ちゃんと儀式も見ていたのである。
舞と歩み。ちゃんと調和がとれていて、1つの儀式になっている。
流石である。
歌もない。ただ神楽鈴だけが、響く場。
シンプルであるが故に、まるで古代の聖域にいるような雰囲気を醸し出している。
周りが岩場で俗世と隔絶された場であるのも、そう感じる一因であろう。
水音家の舞や土出家の歩みが進むにつれて、場が澄んでいくのがわかる。
うんうん。
やはりやってよかったのである!。
コワタミ様は来てはおられないかもしれないが、ここを次回に訪れた時に、きっと違いをわかってくださるだろう。
シャランと最後に鈴が、一際大きく響いた。
儀式の終了である。
「おおおおお!」
私と晶露様は、思い切り拍手をした。
自然とそうしてしまうほどに、素晴らしい儀式であった。
なかなかに見応えがったと、言えよう。
ぜひとも!舞や歩みを、私に教えて欲しい!
言えないけれどもだ!
私は脳内に、できるだけ記憶した。
後で記録に起こしたいと思う。
「晶露様、後で舞などを記録しましょう。手伝ってくださいますか?」
私はこそりと、晶露様に耳打ちをする。
「はい」
晶露様は、快く引き受けてくださった。
ありがたいことである。
他家の舞を研究するのは、望ましいことではないかもしれないが、灰咲家には、きっと独自文化はないとみた。吉助さんに要確認か。ないならば、これから作らねばなるまい!
でなければ、学園において、居心地良く過ごせないからな!
楽しく過ごす為ならば、私は他家のものであろうと吸収発展させて、自身のものにする所存である!
私が邪な(?)考えにほくそ笑んでいる間、若君は、浜辺を見回し、頷いた。
そして膝をついて待っていた少女たちに向けて口を開いた。
「役目ご苦労」
「ありがたきお言葉」
若君の一言で、少女たちの肩から力が抜けた。
そして私たちの後ろに控えていた、分家当主たちも安堵の息をもらした。
と、その刹那。
海から大きな水しぶきが上がった!
高く、勢いよく、細かい水滴が広がり、浜辺へと。
水滴は光となって、優しく私たちに降り注いだ。
「ああ」
「うむ」
「はい」
「おう!」
私たちは理解した。
これはコワタミ様の労いであると。
この儀を執り行って、コワタミ様は、満足されたのであると。
すべてのわだかまりが解けたとはいえないだろうが、これで、コワタミ様の我々にたいする印象は、改善された、と、ここにいる事情を知るものは、理解できた。
その為の、水の祝福である。
「ありがとうございます」
私は自然と、海に向かって、頭を下げた。
晶露様も、ならって頭を下げる。
その横にいた若君も、同じようになさっていた。
自然全員が、海に向かって礼をする。
「これからは抜かりなく、行って参ります」
後ろから聞こえた声、この地の水音家総代、亜真里さんの声に、偽りはなかった。
大海もコワタミ様も儀式を見て、効果を見て満足!
いつもお読みいただきありがとうございます!
少しでもおもしろいっと思っていただけましたら、ブクマ、評価をどうかよろしくお願い致します。
励みになります~。




