第16話 私、つい妖精について、暢気に考察す
「わあ!うわわ!!」
感動である!
魔法はないのに、妖精は前世と同じで存在するのか!
大事なことなので、もう一度言おう!妖精も存在するのか!
私は前世との共通点を見いだせことに、知的満足を存分に感じ、打ち震えた。
これからもこうった発見が、多く見つかることを切に願おう!
「大海!だめだ!こっちに戻ってきなさい!」
父の叫び声で、私ははっとした。
私は無意識に父を押しのけ、腕から抜け出して、妖精へと近づいていたらしい。
父が、私の手首を掴み、再び腕の中に連れ戻した。
父、ありがとう。
でも大丈夫だと思う。
あの妖精が怒りを露わにしているのは、弟君晶露様の悪口を言った者たちにだ。
その他には、きっと危害を加えないはず。
が、怒りが募ると我を忘れてしまうかもしれないか。
やはり注意が必要か。
ここで一言、説明を入れておこう。
私が妖精と呼んだものであるが、正確を期すなら、大気から偶然生まれた、まだ姿も持てないような儚い存在、妖精になりかけの存在である。
少し長いので、これからは妖精未満と呼ぶことにする。
その極小旋風のようなそれは、不規則にまさに風のような早さで飛び回っている。
これだけ力があるにも関わらず、妖精に進化できないのは、大気中の精気の希薄さによるものなのだろうか。それとも心がまだ未発達に寄るものか。
どういうきっかけで、晶露様に執着したのかは不明であるが、その強烈なそれがなければ、自然消滅していたかもしれないくらいに存在が危うい。
その妖精未満、固定の姿をもたない、未熟なものなれば、これを視認できる者は非常に限られるだろう。
更に言えば、よっぽどいい目を持っていない限りは、視ることができない。
私のようにな!
しかし私はある種異界の人間、魂を持つ者で、妖精の存在をしっかり知っているからこそ、妖精未満な存在とわかったのである。
妖精未満よ。1人でもお前を妖精未満と認識した人間がいることによって、お前はこの世界にほんの少しだが、つながりが強くなったのだぞ。
私は恩人の1人だぞ。覚えておくように!
また、お前が消えることなく、現在までもかろうじて存在できているのは、おそらく本家のお三方のおかげでもある。
前当主、当主、若君は、目では捉え切れていないものの、その妖精未満の気配を捉えている。
すごいな。武術の達人なのか?
それならば納得である、武を極めた者は気配に聡いだろうからだ。
余談だが、本家の運営する会社が主に警備会社であるというのも頷ける。
「わ!」
いきなり私の頭上を、強い風が吹いた。
「あぶない!」
父が再び私を引き寄せる。
「あ、ありがとう、父」
おそらく精霊未満が移動したのであろう。
かなりなスピードで移動しているのである。妖精未満。
目で視える筈の私が追い切れない。
早すぎる。
妖精未満は、まるで牽制するように、威嚇するように、弟君晶露様を中心にぶおうっと飛び回っている。
弟君の悪口を言っていた者の周りは特に顕著だ。
怒っている。怒っているのだ。
「な、なんだ?!」
「きゃあ!!!!」
「なに!?」
小さきそれは、怒りを多分に含み、テーブルの間を飛び回っている。
あちこちから悲鳴が上がる。
本家の方々以外はどうやら、妖精未満を感知出来ていないようだ。
怒りはあれど、存在は希薄だから、目がないものには視えないし、感知もできない。
だからこそ、得体のしれないものへの恐怖が侮蔑の言葉を生む。
「憑きものつき!」
誰かが、悲鳴のように叫ぶ。
なるほど!
こういった現象を起こす子のことをそう呼ぶのか。
一瞬で理解した。
ありがとう、分家の方々のうちの誰かよ。
しかしすぐに弟君のせいと判断しているってことは、妖精未満が暴れるのは初めてないということか。なるほど。
であったとしても、本家の子どもにたいして、そんな言葉を吐いて大丈夫か?
「なぜ本家がそのようなおぞましい存在を許しているの!」
「幽閉するべきだろう!」
1人口火を切れば、次々と飛び出す罵りの言葉。
わあ。いくら恐怖で混乱しているとはいえ、そこまで言うか?
視えないもの、感知できないものに、恐怖するのはわかるけど。
本家の方々や分家序列上位3家の方々は、顔をしかめているものの、静観してる感じだ。
騒いでいるのは、分家序列4位、5位の方々だ。
なんか、3位まで、5位まで、最下位と線が引かれてる感じだ。
やはり武道の習得の程度による力が関係している?
とにもかくにも、後でお叱りを受けないとよいね。
しかし憑きものつきか。
言い得て妙。
その言はある種、的を射ている。
確かにこれは憑きものつきの仕業である。
だが、その憑きものは妖精未満であり、悪いものには視えない。
単に自分のお気に入りの子を、いじめられて怒っているだけ。
いじめをやめれば、暴れ回るのもやめるだろう。
妖精は、人の悪意には敏感なのである。
けれど、これからも弟君晶露様が誹謗中傷に晒され続けると、本質を変貌させてしまうかもしれない。
との説明を、私がご当主様たちに説明したところで、幼児の戯れ言と一蹴されてしまう確率が高かろう。
分家の中で、私の実績はゼロだからである。
私は無駄な努力はしないたちである。
ここでふっと頭を疑問がよぎる。
こちらの世界でも、こうした自然から生まれた希有な存在を妖精と呼ぶのだろうか。
はたまた違う呼び方をするのだろうか?
そして蜂の子ように飛び回るだけしかできない、形なきもの。妖精未満の子。本能だけで動いているような、本当に小さき自然の申し子。
こちらの世界では空気中に世界樹から発せられるような、力ある精気はほとんど感じられない。その中で存在できるだけでも素晴らしいが、存在しうるきっかけは何だったのだろうか。やはり弟君晶露様への執着か。
疑問は尽きない。
ぜひとも研究してみたいものである。
はっ。また思考がずれた。
どうも子どもだからか、思考があちこちに飛び回るようである。
それは元々であろう?
との長兄の声が聞こえたような気がしたが、無視である。
私は今、忙しいのである。
多々ある疑問はひとまず置いておこう。後で調べればよい。
まずはこの騒ぎ、どうにかしなくては、弟君が不憫である。
誰かこの場を治められるものはいないのか。
本家の当主、前当主、そして若君。
お二方、当主明臣様と前当主隆源様は、いらだちを露わにしているが、動かない。打つ手がないようである。
若君は弟君を抱きしめて、治まるのを待ってるようだ。
ああ、弟君、泣きそうになってる。
それが、妖精未満を余計暴走させる。
早く何か手を打たないといけない。
「何か飛んでる、のか?大海、大丈夫だ!パパが守ってやるからな!」
父、視えずとも、感知力がすごい。野生の勘だろうか?
「ぐえ!」
しかし、絞めすぎである!
「苦しい!父、放して!」
「だめだ!」
父、本当!内臓でちゃうから!
主人公はマイペースですw




