第156話 私、憎まれ役全うする
水音家当主、俯いたままで、だんまりである。
ええい!もう一押しであるか!
私は、少しのいらだちを込め、口を開く。
「もっと申し上げれば、今回の清めの儀式行う者は、分家当主及びその家族である必要はないかと存じます」
「なんだと!」
これには土出家の当主も、顔をあげる。
泰然様の泰然さを少しそげた。くく。借りを作れるとだけと、ほくそ笑んでいたのだろうが、ここで少しは、水音家の負担を軽くしてあげないと、いけないのであるな。
「ああ、誤解しないでいただきたい。分家ご当主様が、妖を滅することに関して、分家で最優秀な方であると、わかっております」
あ、土出家の当主、ぴくりと眉が動いた。
もしかして、土出家当主、妖退治に関して、別の実力者がいるのか。
それとも、土出家自体、妖退治を得意としていないのかもしれない。
序列に関係してくる事柄である。あまり突っ込まずにいよう。それが賢明である。
「今回の場合、妖を退治するのではなく、場の清めです。もちろん妖退治は言うまでもなく、場の清めについても最優秀であれば、当主にお願いしたいとは存じます」
逃げ道は作ってやったぞ。私は優しいのである。
「しかしもし一族の中で、場の浄化に特化した者が他にいるのであれば、その者を使うのが得策かと。かの方の基準はおそらく高い。それを満たすのは、容易なことではありますまい。況してや、それの上を目指そうとするなら、なおさらかと」
なにせコワタミ様は、神の眷属である。
「私はまだ若輩者で、勉強不足であります。清めの儀式が、どのような方法で、行われるか存じませぬ」
両分家当主よ。
あ、そうだったね、まだ7歳だったね、と、今認識したというような目で、見ないで欲しい。
しかし、ここに来て、私は勉強不足を改めて痛感した。本当に知らないのである。
どんな儀式であるか?く、ひとまずおいておく。
「今一度申し上げます。何が第一の目標であるか、お考えいただきたい。そして、どうか、両家の最上の浄化を、見せていただきたく存じます」
どうだ、両家よ。これで、協力しやすくなったのではなかろうか?
もっと言ってよいなら、分家の垣根を取っ払って、場の浄化に秀でた者を選抜して行って欲しいのである!分家5家からな!
ふむ。それにしても、清めの儀式か。
この話し合いに入る前、時間はあった。調べておけばよかったのである。
なのに、私にあまり関わりがないからと、スルーしたのがいけなかった。
やはり実際の案件に、関わると学びが多い。
事前準備は怠るな。今回の教訓である。
前世の記憶を辿れば、場の浄化能力に秀でた者は、なぜか、女性に一日の長がある場合が多かった。これは男女平等等関係なく、事実である。今世がそうとは限らないが。しかしかんなぎなどは、やはり多いのではなかろうか。
一族の生業が妖退治なれば、当主の才は、攻撃性に優れているのではなかろうか。
その推測を元に、今少し考えを進めるならば、今回のような場の浄化などは付帯的能力であり、軽んじられるまではいかないが、1つ下にみられている可能性が高いのではなかろうか。
これは前世において、そうであったからである。
能力において残念ながら、向き不向きがあるのは否めない。
これは生まれついてのものが殆どである。攻撃力皆無の私のようにな!
努力でどうにかなることは、滅多にない。
諸君!私はそれを、覆してみせるのである!
話がずれた。戻そう。
以上のような予測から、妖を倒すのが得意な者、霊を浄化するものが得意な者、場を清めるのが得意な者、そのほか色々と得意なことが違うのが普通である。
まあ、すべて得意な者もいるだろうがな!
本家の直系みたいなな!
しかしである。
それぞれが、自身の能力を磨けば、突出するのは可能であろう。
異能力序列上位の者は、多忙な者も、多いであろう。
自身ですべて背負い込むのではなく、人を育て、それぞれの案件を任せてしまえばいいのである!
少しでも仕事を減らし、自身が楽になるよう持っていく、私はそれを推奨する!
そして、自身の興味あるものに邁進する時間を、少しでも長く捻出するのだ!
これぞ、己の生きる道である!
本音が出たなと、前世の友がやれやれ、と、言いそうである。
はっ。また、頭が自身の欲望の方へと、向いてしまった。
まだ話し合いは済んでいないのだ。
「しかし、今回、我が家の失態の精算です!それも本家を巻き込んでの!それならば、私がやるべきではないかと!」
まだ食い下がるか。水音家当主よ。
そして、その言葉から、浄化を得意とする者は、別にいるとわかった。
子分の責任を上役が取る。その考えやよし。
水音家当主の焦りから、更に透けてみえるのは、当主の代替わりで、まだ間もない若き当主。
周囲の者に認めてもらう為に、がんばっているんだろうなとも見える。
すごい気負っているからな。
しかし、私も譲れないのである。
「貴方様が、水音家の中で、一番地の浄化に秀でているならば、それもよいでしょう。ですがもし、地の浄化に一際秀でている方が居られるなら、その方に任せてみるのも、1つかと」
おお、睨まれてしまったよ。
これ以上口出すなって感じであるな。
この場において、私が異能力の序列及び家の序列でも、圧倒的に最下位である。
この場にいられるのは、若君の筆頭許嫁候補、その肩書きでのみなのだから。
その肩書きの部分でさえも、認めて居ないだろうから、そりゃ睨むよな。
「水音家の当主様ともなれば、それはすべてに秀でているかと存じます。ですが、私はなにせ新参者でございますれば、他の水音の方々の力がどの程度かも知りません。それは土出家にもいえますが」
あ、言い方、少し間違えたか。待って欲しい。違うのである。君はすべてに秀でてないのでは?との逆説的な意味合いで言ったのではないのである。私は決して煽っている訳ではない。
「あー、つまり、今回清めの儀式では、最上の能力を見せていただければと」
私の心中とは裏腹に、そう捉えたらしい水音家当主。
「わかりました!お見せしましょう!我が水音の最上の浄化を!」
と、私を睨みつけながら、吐き捨てた。
そして、土出家当主を見て、更に付け加える。
「土出当主、私に力を貸してくれるか?」
おお!プライドよりも私に力を見せることを優先したか?!
いいね!
「かしこまりまして」
土出家当主、水音家当主んの言葉に、静かに頭を下げた。
うむ。その下げた頭に隠れた顔を見たい。だって、なぜか水音当主と同じく、私を睨んでいる気がするからである!
が、それは今は置いておく!
やった!やっと言質が取れた!
良かったのである!
私の憎らしさが加わり、土出家の力を借りる気になってくれたか?!
まあ、気を変えた理由などどうでもよいがな。
が、水音家主体の清めの儀式であると強調したな。
いいと思う。分家序列第2位のメンツも大事であるからな!
しかし今回私、すごい損な役回りであるな。
まあいい。明臣様の望み通りの言質はとった。
これで私の役目の大半は、ほぼ終了である。
これ以上、水音の若き当主との話し合いは無用である。
憎まれて、恐怖はないのか?と諸君は尋ねるかもしれない。
まったく問題ないのである。私はまだ幼女である。
大の大人が、私のような幼女に、何か仕掛けてくるなど、ありえないのである。
それは彼が大事にしているプライドが、許さないであろう。
睨まれるくらい、なんともないのである!
私の中は大人だからな!
大海は煽り屋か?
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