第153話 私、一発かまされる
海については、コワタミ様がなさるであろう。
ならば、私たちはかの洞窟に溜まってしまった汚れを取り除く。
静寂なる海を守る為に。
そしてコワタミ様の信頼を取り戻す為に。
本来なら約定を守られなかった時点で、コワタミ様が、亡霊を祓ってしまえばよかった。
けれど、それをせずに、ギリギリまで、お待ちいただいたのである。
自らが祓ってしまえば、魂が消滅するのを避ける為に。
人を思いやってくださったのだ。
ならば、その慈しみに、報いなければなるまい。
「地の清めの儀式か。必要か?俺と三弥が亡霊を浄化した時に、あの場もある程度浄化されている筈だが」
「必要です!本来、かの地の水音家総代が、不慮の事故でお亡くなりにならなければ、水死体は定期的に処置されていたかと存じます。しかし、かの地の水音家総代の突然の死により、引き継ぎがなされず、かの地に、ご遺体が数ヶ月、あるいは年単位で、放置されたままでございました。」
「うむ」
「そのことで、いつもよりも、より深くより多くの汚れが、かの地に浸透してしまったかと存じます」
「ああ、可能性はあるな」
「先程、若君がおっしゃられた通り、若君と三弥さんの偉大なるお力にて、浄化はある程度なされたとお聞きしました」
「ああ」
「ですが、ある程度では、いけないと存じます」
「なに?」
「それはコワタミ様に対して、少し不誠実かと存じます」
「なんだと?」
若君が段々と不機嫌になってくる。
だが、負けないぞ。最後まで言わせてもらう。
「コワタミ様は契約が履行されなかったにもかかわらず、神罰として祓うことはせずに、待てるだけ待ってくれていたのだと存じます。かの地に、そして海にも汚れが浸透するにもかかわらずです。それは我ら人間を思いやってのことでございましょう」
コワタミ様は私に確かに言った。自身が祓えば、神罰となり、魂は消滅してしまうと。
それをしない為の、約定なのだと。
「ならば、我らはそのコワタミ様のお優しい心に、報いければならないと存じます。それがひいては信頼回復に繋がるかと」
「その為の、かの地の清めの儀式か」
「はい。その儀式によって、あの場を完璧に清浄に戻すべきかと」
「遺体をこちらで引き上げた後に、コワタミ様自身で場を清められるのではないか?」
「かもしれません。ですが、コワタミ様はおそらく海の神の眷属でいらっしゃる。浜辺は海に繋がる地とはいえ、陸地であります。即ちコワタミ様の管轄外にあたるやもしれません。ならば、私たちが清めの儀をした方がよいかと」
「であるか」
もう若君に怒りは見えない。話の先へと思考を進めている。
流石である。
「はい。若君の言うとおり、必要はないかもしれません。が、私たちが、コワタミ様との契約を守り通す姿勢を見せる為にも、清めの儀式をせねばならないと存じます」
「我らの姿勢か」
「はい。一度不可抗力とはいえ、約定を破ってしまったのですから、こちらの真摯な姿勢を見せるべきかと」
「であるか」
若君は、考えに沈んでしまった。
ふう。言うだけ言ったのである。
すっきりである。
後は、儀式をするかしないか、本家判断だろう。
この案、持ち帰ってもらってもいいのである。
うーん、もう一押ししておくか。
「長年かの地がご遺体の保管場所として使われていたとしたら、少しずつ汚れが深く根付いてしまっている可能性もあります。今回がよい機会です。盛大に清めの儀を行ってはどうでしょうか?」
よし!これでよかろう。
「お前は確信を持って清めの儀式があること前提で話しているが、清めの儀式を知っているのか?」
「ほへ?!」
私は驚きのあまり、奇声を発してしまった!
まさかないのであるか!?
私たちの生業は、妖退治である。妖は、おそらく、前世で言うところの魔物であろう。
前世では魔物が大量に発生した場合、その場は大量の魔素に汚染される。それは人にとって有害な土地になる。その為、神官がその場を清めるのである。
私は、この前世の知識に基づいて、一族にもそういった清めの儀式があると思っていたのである!
「な、ないのですか?」
「いや。ある」
「よかったです!」
なんであるか!脅かさないで欲しい!
「だが、お前にはそういった話はしていないだろう。なぜに確信していたのか不思議に思ってな。近平に聞いたか?」
「いえ。推測です。我が一族は妖退治を生業にしているとのこと。妖がいるところ、場が汚染させるかと。ならば、清めの儀式があって然るべきであると考えた次第です」
順当に考えればわかるのである。
「推測か」
「はい」
何が引っかかるのであるか、若君よ。
「誰にも教えられず導き出せるのは、やはり、巫女の素質があるからか」
「は?」
またこの若君、どうしてそうなる?!
はっ?!私がおかしいのか!?
もしかして通常は、その推測は導き出せないのか!?
私が前世の知識を持っているからだったりするのであるか?!
迂闊であったのである!
ここはまた、お口にチャックである!
これ以上、墓穴は掘らない!
私はだらだらと冷や汗を背中にかきながら、熟考を続ける若君を見つめる。
「ねえさま?だいじょうぶ?」
私の異変に気づいたのか、隣に座る晶露様が、見上げてくる。
ロウも、晶露様の頭のうえで、笑う。
「おーみ!おまえなんか、あれだ!蛇に睨まれたカエルのようだな!」
ロウ!お前はだまっとれ!かごの中で寝ていろ!
「まあいい。それで、その清めの儀について、要望でもあるのか?」
「は、は、はい!」
本当はこれ以上しゃべりたくない。しかし、言うことは、言うべきであろう。
「私は清めの儀式がどのようなものかは存じません!しかし今回砂浜が清めるべき場であります!砂は土よりも深く汚れが浸透しやすいのではないでしょうか?なれば、その清めの儀式に土の気を帯びる者に、手伝ってもらった方がより効果が高いと存じます!完璧を目指すのであればであります!」
これくらいは言っても大丈夫だろう!であるよな?
「土より砂のほうが柔軟であるから、浸透も奥深いと」
「さようございます」
若君は、眉間に皺をよせる。
「お前に説明した通り、あの場は水音の管轄だ。土出の者をかませるのは、難しいかもしれぬ」
縄張りか。それとも序列の関係か?面倒なことである。
しかし、若君、前向きに検討してくれているようである。
よきよき。
「この際、体裁に構っている場合ではないでしょう。コワタミ様の印象をよくしておくほうが、重要ではないですか?」
これからも約定は続く。ならば後身がやりやすいように、しておいた方がよかろうよ。
「そうだな」
「もしぐだぐだ言うようなら、私がスパンと申し上げてもよろしゅうございますよ?」
若君の筆頭許嫁候補筆頭の看板をバーンと全面に出してな!
うそである。
若君の決定を促す意味で、挑戦的なことを言った。
若君の性格からして、私を押し出すことはないと踏んでの発言である。
なのに。
「面白い。では頼もうか」
「へ?!」
いつの間に入ってきたのか、現当主が、扉付近に立っていた。
好配の儀式の時以来である。それはともかく!今、当主はなんとおっしゃったのであるか!?
「わ、私に清めの儀式の話し合いに、参加せよとおっしゃいますか?!」
私は先回りして、つい口走ってしまった。
「察しがいいな。そうだ」
な、なぜに?先程の私の言は、冗談である!
若君も、三弥さんも、そう取った筈である!
「水音家と土出家の者を呼べ!早急にな!」
いやいや、待って欲しい!なぜに、そうなるのであるか!
それに入ってくる時は、必ずノックをしろ!
現当主も、ノックなしである!
若君と同じである!似たもの親子なのであるか!
はっ!問題はそこではない!
私も混乱しているのである!
現当主、乱入(笑)
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