第149話 私、コワタミ様を観察する
ぐぬぬと、悶々としている間に、話が本題に戻っていた。
「コワタミ様、お教えいただき、ありがとうございます。不履行者が判明致しました。すぐに調査し、ご報告に参ります」
若君が、深々と頭を下げる。
「不要である。これからは抜かりなく、事をすすめればいい」
ばっさりである。報告を聞くのも、面倒なのかもしれない。
コワタミ様は滞りなく、死体や亡霊の処理が済めば、いいのだろう。
「かしこまりまして」
若君にしても、その方が面倒がないのだろう。諾の返事一択である。
「妾はもう行く」
そう告げてから、私の方を見た。
「な、なにか」
何かしてしまったか?!
確かに静観すると言った傍から叫んでしまったが!それは不可抗力である!
「幼きものをかえす」
ああ、ロウね。そういえば、人質に出していたんだった。
すまない、ロウ。一瞬、忘れてしまっていた。
「はい」
私は前へと進み出た。
今度は襟首をもたれない。
私が両手を差し出すと、その手の上に、ロウがそっと置かれる。
「俺はちゃんと役目を果たしたぞ」
ロウは、私を見上げて、胸を張る。
「うん。えらいな」
一応褒めておく。1人で残るのは、心細かっただろうからな。
でも楽しそうだったよな。
私たちがいない間、どのような話を、コワタミ様としていたのか、後で詳しく聞こう。
しかしそれは今はおいておく!近くに寄れたこの機に、コワタミ様に尋ねた。
このチャンスを逃してなるものか。ぜひ聞いておきたいのである!
「コワタミ様、またお会いすることは、可能でありましょうか?」
せっかくお知り合いになれたのである。ぜひとも、またお会いしたい!
「難しい」
またばっさりである。
「なぜでございますか?」
やはり気軽に人間と接触してはいけないのであるか?
「妾の姿に、因がある」
「ああー‥」
違った。そして瞬時に、納得した。
人魚。こちらの世界でもあるのか。
人魚の肉を食べると、不老不死になれるという伝説が。
おそらくそういうことであろう。
それだと、難しいか。
「妾のことを漏らすのは、約した通り、この契約を履行する者のみ。そう心得よ」
コワタミ様の存在が、漏れる可能性を少しでも減らす為であるか。
「おまちください!それですと、また今回のようなことが起こりえるかと!」
流石若君、すかさず突っ込む。
うん。大事な指摘である。
今回一族の誰かが、コワタミ様との約定を請け負っていて、何らかの理由で履行できなくなった。
それを防ぐ為にも、1人だけでの引き継ぎは、避けなければならない。
「であるか。うむ」
コワタミ様も即座に理解したらしい。
やはり脳筋ではないか?
「コワタミ様との約定、本家の我らさえ知らず、こうしてお手間をかけさせてしまいました。コワタミ様に迷惑をかけぬように致しますので、この約定について」
そうだよね。さっき監督不行き届きだってお叱りがあったけど、秘密にされていたなら、監督できないのである!
「ああ、わかった!わかった!」
コワタミ様が払うように手を振り、若君の言葉を遮った。
「一族だのなんだの!面倒だ!お主が必要だと思うものに話すのを許す!ただし!そなたらから妾の存在が漏れ、害をなす者が現れた場合、海の怒りを買うと覚悟せよ!」
若君が大きく頷いた。
「かたじけなく。私が亡くなった後のことですが」
若君、いつ会えるともわからぬコワタミ様に、聞くことは聞く気である。
そうであるな!そうしないと、のちのち面倒であるものな!
「よい!そなたが采配で判断せよ!くれぐれも妾に害を持ち込むなよ!」
ああ。コワタミ様、面倒臭くなったぽいな。
まあ、神の眷属であるコワタミ様を、どうこうできる者など滅多にいまい。
面倒事を避けたい為に、情報を制限していたのであろう。
それなら、神の眷属であるとだけ話して、コワタミ様が人魚であるということを伏せればよかったのでは?しかし、それでも完全ではないか?
「では妾は行く。この地に残る、これらも処理しておけ」
「かしこまりました」
若君の返事を聞くや否や、コワタミ様は、どぼんと海へと飛び込み、姿を消した。
うむ。退場の仕方は、予想内である。やはり人魚は、海に居て欲しいのである。
私が不敬なことを考えている間に、海に変化が起こった。
洞窟への海の出入り口に、大小様々な渦が巻き出した。
まるでこの地への侵入を阻むように。
まるでこの地を封じ込めるように。
こんな事ができるコワタミ様、やはり神の眷属なのであるな!
ロウ無事帰還。
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