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第14話 私、開眼す!!

なにかがぶんぶんと~。

「にいさま!」

 お付きの者を振り切って来たのか、幼児が一人で、裏庭に飛び出して来た。

 その子はきょろりと庭を見回して、いち早く目的の人物を見つけると、短い手足を一生懸命動かして、まっすぐに若君へ向かって行く。

 うむ。白いシャツに深紫(こきむらさき)色の吊りの半ズボンが可愛らしい。

 若君を兄と呼んでいることから、おそらく弟君なのだろう。

 しかし、ぱっと見は、全く似ていない。

 なぜなら、飛び込んで来た3歳位の幼子は、金髪碧眼であった為だ。

 私の前世の世界で、貴族ならば、スタンダードな組み合わせの色合いである。

 だがこの日本において、人種としてはありえない組み合わせだ。

 間違いなく腹違いの弟だろうと、ゲスな推測が立ってしまうのである。

 真相はどうあれ、若君にかなり懐いているのか、迷うことなく、弟君は若君の胸に飛び込んだ。

 若君も弟君をなんなく受け止めたものの、難しい顔している。

晶露(あきつゆ)、ここに来てはだめだと言っただろう? この儀が終わったら、すぐに会いに行くと伝えおいた筈だ。」

 そうだね。兄君は今、大事な儀式の最中である。

 たとえ、美少女とたわれむれているだけに見えたとしてもである。そこは邪魔してはいけない。

 けれど、兄弟であるなら、弟君も参加させても良さそうなものである。

「でも、ぼく、いえ、わたくしも、にいさまに、はやくたんじょうのおいわいをいいたかったのです。あにうえ、おたんじょうびおめでとうございます!」

「ああ、ありがとう」

 若君は困ったようにそれでも礼を言った。

「えへへ」

 弟君は、嬉しそうに笑う。

 うんうん。たとえ異母兄弟(←決めつけ)だったとしても2人には関係はない。

 仲良きことは、美しきかな。

 弟君の言葉から推察するに、本日が若君の誕生日なのだろう。

 私はそこで合点した。

 なるほど、なぜ土日や祝祭日といった、学校や会社に支障がでない曜日等ではなく、平日の本日にこの儀式が行われるのか。少し疑問であったが、それが解決した。

 まさに7才になった若君の誕生日に、開催したのか。

 通常忖度されて日付など調整されそうであるが、そこは本家の推しで決まったのだろう。

 初見えの前儀、好配の儀式は7才の誕生日に行うと。

 これはずらさない。たとえ、儀式が形骸化していたとしてもだ。

 いけない。少し辛辣になりすぎた。

 弟君もよく見ると、とても端正な顔立ちをしている。色合いはどうであれ、顔つきは日本人的な顔立ちで、大変可愛らしい。しかもしっかりした話し方をされていらっしゃる。

 教育が、よく行き届いている証左だろう。

 決して毛色が違うからと、兄と差別されていないのであろう。

 前世では親と少しも似ていないと、ないがしろにされる子どももいた。

 この子の場合は、それに当てはまらないのかもしれない。

 よかった。

 兄弟仲もよさそうであるし、きっと将来兄を補佐し、立派に本家を盛り立てて行くのであろう。

 弟君、君の未来に幸あれと、お祈りをさせていただく。

 と、

 兄弟の微笑ましい情景に心を和ませていた私の耳に、無粋で不快な複数の囁きが届いた。


 <あれが、うわさの弟か>

 <日本人の両親から、あのような姿で生まれた、奇怪な子>

 <不義の子>

 <不貞の子>

 <違う。あれは悪霊憑つきものつきだから>

 <姿不明の悪霊が、憑いているらしいわ>

 <なぜ放置しているのか?>

 <退治できぬなら、隔離しないのか?>


 声を潜めているつもりであろうが、紳士淑女の皆様、私にはばっちりと聞こえているのである。

 悪意を含む言葉はなぜか、小さき声でも遠くまで届く。

 今回は、それが私にとっては、ありがたい情報ではある。

 なるほど。だから、兄の重要な儀式に出席させなかったのか。

 弟君を、無責任な悪意から守る為に。

 あんな愛らしい子を悪意の標的にする人間とは、お付き合いは、お断りである。

「父、若君の弟君のことは知ってる?」

 私はこそっと父に尋ねる。

「いや、若君にご兄弟がいらっしゃるぐらいしか、わからない」

「そう」

 灰咲家の末の我が家には届かない、本家についての噂。

 分家序列第5位までの分家の皆様は、若君の弟君、晶露様について、よく知っているらしい。

 初めて見た私でも、前当主や当主、そして若君の容姿からは、想像外の弟君の容姿。

 興味本位を多分に含んだ囁きから推測するに、どうやら、弟君は腹違いではなく、突然変異だったようだ。もしかしたら、古い先祖に異国の方がいらっしゃったのか?

 しかし、日本の古い家であると、それも可能性は薄そうである。何より、弟君を見つめる多数の目が、先祖返りを否定している。


 <日本人の両親から、なぜあのような色の姿の子が生まれるのか?>


 無神経な悪意を存分に含んだ囁き。

 これから娘を本家に嫁にやりたいと思っている分家の人間が、その本家の一員である弟君の、見目が少々異なるくらいで、ここまで誹謗(ひぼう)するのか。

 それとは別、という割り切りか。それとも、そこまで頭が回らないのか。

 さすがに許嫁候補の姫たちは、弟君の悪く言う方はいないか。

 でもあからさまに顔を顰めている方はいらっしゃるなあ。

 この若君の晴れの舞台に、末席の私でも聞こえるくらいだ、上座におられる当主様や前当主様にも聞こえていらっしゃるだろう。

 大丈夫か?評価が下がる心配しなくてよいのか?

 いらぬお世話とはいえ、その底の浅さに、他の分家といえど、心配になってしまう。

 いけない。これ以上考えると、私も彼らと同類になってしまう。

 気をつけねばならない。

 しかし言葉に力が宿るから、考えて話すこと!なんて、幼少の頃に教えられなかったのか。あ、それは前世の時であったか。

 どちらにせよ、重要な教えである。

 毒を吐いた者よ。

 目を凝らして、視てみるとよい。

 先ほどまでは、名誉欲に紛れた邪念がちょっと飛んでいただけなのに、それに加えて弟君へのピンポイントの悪意が漂って、空気がはっきりと淀んだ。

 淀んだ!?視えてる!?

「ああっ!?」

「どうした??」

 父が突然声を上げた私に、視線を向けてくる。

「ううん。ちょっと小さい虫が飛んできたから、驚いただけ」

「そうか」

 父は頷いて、注目されていらっしゃる本家のご兄弟に、目を戻した。

 驚いて、つい声が出てしまった。

 私、視えてる?そう!視えたのだ!

 そうだ!諸君!私は実体のないものが視えたのである!

 赤子の時から、大気に浮遊する魔素を探していたが、全然視えなかった。だからきっと魔素はこの世界には存在しないんだと考えた。

 けれど、一抹の不安があったのだ。

 今世で視えるものは、物体のあるものだけ。

 もしかしたら、今世の私には、視る力がないのかと。

 今世、実体のないものは視えない。それが普通であると、テレビや書籍などからも、薄々気づいていた。

 もしそうなら、前世よりはつまらないかと、残念に思っていたのである。

 それがどうしたことだろう。

 ここに来て、私の目が開眼したようである!

 それとも、この場が特殊なのか!?

 それが作用して、私は視えるようになったのか!?

 早く家に帰って検証したい!

 家に帰って、実体のないものが視えたならば、私がこの場で開眼したのだとわかる!

 そうであれば、周りに魔素がないかなど、再検証しなければならないだろう!

 ああ、なんということか!?

 今日、この場に来られた幸運に、私は神に感謝する!!

 前世の神と今世の神!両方である!名前はわからないけれども!

 私は興奮冷めやらぬまま、あたりを見回す。

 うむ。やはり魔素はない。非常に残念である。

 が、人が吐き出した邪気以外は、この地はとても清浄な空気が満ちている気がする。

 ああ、気づくと、気持ちも心も洗われるようである!

 おいしいデザートに勝る、大きな収穫である!

 もしここで開眼したならば、徐々にもっとよく視えるようになるかもしれない。

 訓練!鍛錬!である!

 もっと色々な情報を得て、成長するのだ!

 ふふふ。ああ!明日から楽しくなりそうである!

 と、その時。

 首筋がぞくりと泡立った。

 ざわりと空気が揺らぐ。

 不自然な風の流れ。それも力を持った風。

 なんだ?いきなり、なぜこんな風が起こる?

 私は周囲を素早く視る。

 なんだ?何が原因だ?私は目を、耳を、心を澄ませる。

 と、風に感じるは怒り。

 純粋な怒りだ。

 ピッと肌を切るような。

 鋭い風が、来る!!

「わああああ!」

「きゃあ!!」

 強く大きな突風が、会場に吹き荒れた!

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