第134話 私、若君に井戸訪問の報告をする
週が明けて月曜日の夕方。
夕飯前に、少し若君のお時間を頂いた。
目的は週末に訪れた「黒き森人の井戸」についての報告である。
レポートは予め、本家子分を経由して提出済みである。
先に提出するのは、合理的である。
なお、このレポートは私、晶露様、母、本家子分ズ、の合議の結果であると、書き添えてある。
また本家子分経由での提出、これは本家子分ズの私に対する心象を、少しでもよくする工夫でもある。
面談はいつも通り、晶露様のお部屋で行われた。
若君はソファに座るなり、じっと私を見つめてから、大きなため息をついた。
「お前は事を起こさないと気が済まないのか」
心外である!
まるで私がトラブルメーカーであるような発言である!
今すぐに、撤回を希望する!
口に出さないものの、もろに顔に言いたいことが出ていたらしい。
若君は言葉を繋ぐ。
「そう言われるのも仕方なかろう。お前が移動すると、何かしらの事が起っているのだからな」
ぐう。そう言われると、返す言葉もない。
しかしこれだけは言いたい。
「申し訳ございません。ですが、今回の発見は、マイナスなことではないのではないですか?」
ちゃんとレポートを見てくれたのであろうか。
「以前この地で、魔方陣が使われていた。それ即ち、魔法あるいは魔術を使う異国の者が、この地に来た可能性がある。または日本人の中に、それらを使う者がいたという、証左を発見したのではないでしょうか?」
結構な発見だと自負していいレベルであろう!
「まあ、そうだな」
あ、若君、さらっと流したのである。悔しい。
「可能性でいえば、後者の可能性が高いか」
レポートに目を落としながら、若君が呟く。
「そうなのですか?」
何を根拠に、そう考えるのであるか?
「ああ、学園でも少数であるが、我らとは異なる力を使う者がいる。それらの者の先祖かはわからぬがな」
「そうなのですか!?」
なんと!
この日本でも魔法を使う者がいたとは!
見たい!会いたい!お話したい!
彼らが使う魔法が、前世の世界と共通なのか否か。
色々と検証してみたい!
何より、彼らに接触すれば、今回見つかった魔方陣の解明が、早まるかもしれない!
私のわくわく感が伝わったのか、若君が釘を刺してきた。
「同じ学園にいるとはいえ、その者たちとむやみに接触するなよ」
「なぜですか!」
どうしてであるか!!私は激しく抗議する!
「その者たちは閉鎖的で、人との接触を嫌うものが多い。またむやみに接触して、我らに不利益がかかるのは避けたい」
「不利益」
「つまりは、我らと異質で、魔に近い、しいては妖に類似した力だ。我が一族でも忌避する者が多い」
なんだそれは。馬鹿げている。
魔に近いからなんだというのであるか!その方々は、妖をちゃんと退治しているのであろう!
忌避する必要がどこにあるのか!
その考えが、私が見つけた魔方陣の解明を、妨げるのである!
私はそんなくだらない考えに、追従するつもりはないのである!
私の口が、自然にへの字になる。
「いいな?」
それを見た若君が、念を押してくる。
「誠意努力します」
くっ。若君には従わなければならぬ!
だが、約束はしないぞ!
この返事が、私の精一杯の抵抗である!
しかし、である。
報告だけで終わるかと思いきや、よい情報をもらったのである。
2年生にあがり、異能検査やクラス内のグループ分け。ああ、学園内での一族のお茶会もあったか。変化がめまぐるしくて、学校の施設についてはまだしも、そこに通っている学生についてはまだまだ未知数で、調査が不足していた。
よいとっかかりをもらったのである。
調べがいがありそうである。
私のテンションが上がった。
やはり、好奇心は、行動の原動力である!
進め!そして学べ!である。
私の様子に、何か不穏なものを感じたのであろうか。
若君が最後に一言付け加えられた。
「いいか?行動は慎重にしろ!そして何か発見したならば、すぐに報告をしろ!いいな?」
「かしこまりまして!」
若君の心配は無用である!私ほど慎重な者は居るまい!
若君は私の返事を聞いて、更に眉間に皺を寄せた。
なぜであるか。
私は元気よく、若君の望む返事をしたと、思うのであるが。
若君は軽く頭を振ると、部屋を出て行かれた。
報告は終了である。
用事が済むと、すぐに退出、お忙しいのだろう。
少しは晶露様と遊んでいけばいいのにと思う。
なお、若君が退室する間際、「こいつにも目付が必要か?」という言葉は聞かなかったことにする!
不要である!
若君、大海と出会って、仕事が着実に増えているw
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