第125話 私、引きが強い
「ねえさま。とてもおみずがきれいです」
いけない。貴重なパワースポットに来ているのだ。
劣等感に苛まれている場合ではない。
「本当ですね。きらきらと輝いていますね」
黒き森人の井戸。
この井戸は横井戸になっており、青銅の精密な竜の口から湧き水が流れ落ちている。
不思議なことに、それを受ける深さ50センチほどの石鉢状のものには苔は付着しておらず、そこに沈む玉砂利も汚れなどなく、真白きままで水をたたえている。
ネットなるもので見るよりも、実際に足を運び、観察すると、その井戸の清廉さが感じられる。
「ねえさま、さきにおみずをくんでよいですか?」
「どうぞ」
晶露様がいそいそと、手提げからペットボトルを取り出し、竜の口にペットボトルの口を当てる。
すかさず本家子分の1人が手を添える。
素晴らしい。2リットルのペットボトルに水が入ったら、晶露様には重すぎる。本家子分の手助けのタイミングが絶妙である。
子分よ。私には手助け不要であるぞ。
私はギリギリで行けると思う。
これも靴に引き続き、考慮不足にならないと信じたい。
「くめました!」
晶露様が満足そうに、私を振りかえって、そう報告してくれた。
「そうですね。よくできました」
「はい!」
そう返事をしつつ、晶露様は私が汲みやすいように、脇によけてくれる。
今は幸いにも、私たちの他に誰も人がいない。
いつも土日は人が多く訪れる場だと、調べではそうなっていたのであるが。
まあいい。すいている分には、文句がないのである。
私は井戸の水をじっと視つめた。
特に異能力は感じられない。清き水であるだけである。
外れだったか。少しがっかりである。
連続のあたりなどないか。
前世の私は、引きが強かったのであるが、今世ではそうでもないのか。
十分引きが強かろうよ。なにせ、一族次代の筆頭許嫁候補になったではないか。
との、友の声が頭に響いた。
そうであるか。善し悪しどちらも引きがあるか。
ならば悪しきものも、良き引きに変えてみせよう!
おまえはどこまでもポジティブだよ。
との友の苦笑が浮かぶ。
よいのである。
この場が外れであっても、私は地道にプラスになりそうなことを、探すことに邁進するのである。
私はそう心を新たにしつつ、水を汲むべく、竜の口にペットボトルの口を当てた。
その際に、こんこんと湧き出でて、たまっている水に小指が触れた。
刹那。
井戸の底がぱっと光った。
「!」
私はとっさに手を引っ込めた。
すると光は消える。
「ねえさま?」
私の動きを不審に思ったのだろう、晶露様が声をかけてきた。
「今、井戸が光りましたよね?!」
「いいえ」
晶露様は助けを求めるように、本家子分ズ3人を見る。
私もつられて彼らを見たが、彼らは皆、首を横に振る。
視えていない?
私はもう一度、井戸の水に触れた。
すると、やはり井戸の水が、というより、井戸の底が光った。
これは、これは、これは!
当たりではないか!?
皆に視えないのは、異変が微量だからかもしれぬ!
私は目だけはいいからな!
私はさっと周りを見回す。私たちの他に、誰もいない。
これは重畳!
「あの!」
私は本家子分ズに、井戸の底に敷かれた石を、のけてもらうように頼んだ。
水ではなく、鉢の底が光ったのだ。であれば、白き玉砂利の下に何かあるのではないか!
手下たちは文句なく、腕まくりをして、そっと玉砂利を端の方によけてくれた。
私は再び水に手を浸しながら、井戸の底をのぞき込んだ。
そこには。
「魔方陣?!」
そう、そこには前世で見たことがある魔方陣が光って浮き出ていたのである!
当たりである!!
大海、決して、若君の許嫁候補の立場はマイナスだけではない筈。
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