第122話 私、晶露様と地元のパワースポットに向う
念入りに頭でシミュレーションをした後、再度若君に、しおりの提出とともにプレゼンをして、今度の土日の晶露様の外出の許可を頂いた。我が家への外泊も込みである。
その際、少しハードすぎるのではないか?との若君からのご指摘もあった。
私もその懸念は想定していた為、土曜日の外出後の晶露様の疲労具合を、私や本家子分の松也さんとで観察をして、次の日の外出を吟味決定すると返答をしたところ、それならばと、許可をいただいた次第である。
外出禁止令が出て、我が家以外での、最初の外出である。
重大な発見がない限りは、土日ともさらりと観察を済ませ、次回以降の外出に、じっくりと煮詰めていく所存である。
急ぐ必要はない、ただ問題なく熟すことこそが重要なのである。
そしてやってきました土曜日。
「晶露様、しおりは持ちましたか?」
「はい!」
「ハンカチ、水筒、筆記用具、鞄に入れ忘れはございませんか?」
「はい!きのうのよるに、しょうやといっしょにかくにんしました!」
「よろしゅうございます。では出発しましょう!」
「はい!」
私たちは、本家子分が回してくれた本家の車に乗り込む。
そしてしっかりとチャイルドシートを締めてもらい、出発である。
「晶露様、我が家以外への外出は久しぶりですね。昨日は眠れましたか?」
「はい!すこしねむるのに、じかんがかかりましたが、ちゃんとねないとたのしめないと、ねえさまにいわれていたので、ふかくいきをすって、はいてをくりかえして、こころをおちつけました」
そう、昨夜は今日の外出の為、私に早く帰宅するように、晶露様はおっしゃってくださったのだ。
その為、昨夜は晶露様を寝かしつけるお役目はなかったのである。
晶露様、大人になられた。というより、精神が少し安定されたのかもしれない。
よいことである。
そして晶露様も、寝不足にならぬように、昨晩は努力されたらしい。
「晶露様は、よい子ですね」
私は隣に座る晶露様の手の甲を、撫でてあげた。
「俺も早く寝たぞ!」
晶露様の頭上で跳ねるロウが、こちらに頭を突き出す。
「はいはい」
果たして妖精にも褒めて伸ばすが通じるのか?いう疑問はさておき、彼の意図を読み取り、望むままに頭を撫でてやる。
さて、この辺で今我々が向かっている場所について、説明をしておこう。
本家から車で45分ほどのところにある、「黒き森人の井戸」というパワースポットに我々は向っている。
なぜ「黒き森人の井戸」と呼ばれているのか、この名前の由来は不明である。
気がつけば、そう呼ばれていたらしい。
山の中腹にあるそれは、井戸とは銘打っているのものの、つるべ落としなどを使って汲み上げるものではなく、湧き水がこぼれ落ちないように石で丸く囲った浅いものらしい。
写真で見た感じでは、深さ50センチほどで、底は玉砂利が敷き詰めれている。
どんな時でも、途切れることなく、こんこんと水が湧いているようである。
その水を飲むと一年健康で居られるという、うたい文句がある。
特筆すべきパワースポットという訳ではなく、地元の民に愛される飲料水と言ったところであろう。
新宿御苑のゆりのきの巨木のように、ご神木に近しき存在というものではないであろうが、パワースポットとして、地元の人に愛されておるならば、ぜひとも行かねばなるまい。
そしてその湧き水が健康に一役買うというなれば、ぜひにそれを土産に持ちかえらねばなるまい。
両親には、今後も、私の願いをたんと聞いてもらわねばならぬのだ。
健康でいてもらわねばならぬ。
まあ、両親ならこの湧き水を飲まずとも、常日頃から身体を鍛えることに余念がないので、必要はないのかもしれぬが。これは気持ちの問題である。
「晶露様、空のペットボトルは持って来ましたか?」
「はい!こちらに!」
そう言って、手提げ袋から出されたのは、2リットルの空のペットボトルである。
「いいですね!私も2つ持って参りましたよ」
「にいさまにおみやげにするのです」
なんと兄思いのお子か。涙を誘うセリフである。
「よろしいですね。きっと湧き水を飲めば、若君の疲れも吹き飛びますよ」
「はい!」
若君はまだ幼少でありながら、ハードスケジュールを熟す身である。
もっと気楽に生きてほしいものであるが、私がそこまで口を挟むことはできない。
せめて弟君からの差し入れで、一息ついて欲しいところである。
「到着しました」
晶露様とそんなたわいない話をしているうちに、目的地に到着したようである。
さて、どのような井戸であるのか。楽しみである。




