第119話 私、喜びに踊る
若君が晶露様のお部屋から退出した。
それまで懸命にすまし顔で耐えていたが、我慢できずに私は踊り出した。
グータッチだけでは足りないのである!
「やほうい!やほい!」
念の為説明しておくが、この踊りは前世で習ったものではない。
気持ちの高ぶりそのままに、ダイレクトに無作為に手足を動かしているだけである。
晶露様は最初、戸惑いになられて居られたようだが、何かを吹っ切ったように一緒に踊り始めた。
「なんだなんだ?乱舞か?負けないぞ!」
と、なぜか負けん気を見せて、ロウも乱入してきた。
我々3人は、しばらく喜びの舞を踊り続けたが、疲れと興奮が冷めてきたところで、ようやくソファに座り直した。
野衣さんがすっとオレンジジュースを用意してくれた。
野衣さん、呆れたような目を向けないでいただきたい。
それだけ外出許可は嬉しかったのである。
我々は踊ったことで、乾いた喉を潤した。
その冷たさが、さらに心を落ち着かせてくれた。
ロウはもうおわりかと、ジュースを飲み干すと、またテレビの前へと戻っていった。
ロウよ。おまえも興味の赴くままに行動するようになったものである。
晶露様への心配が激減したことにより、他に興味が向くようになったのだろう。
よいことである。
そのまま晶露様への愛情が減じていけばよい。
そうすれば晶露様は一層普通にお過ごしになれることであろう。
話がずれた。
私は気持ちの切り替えに、一つ咳をする。
それから晶露様に向き直る。
「さあ、準備をしていたしおりを活用する時が来ました。お預けしていたしおりはどちらにございますか?」
「おまちください!」
晶露様はぱっと立ち上がると、自らの勉強机の引き出しから、しおりの束を一つ取り出してきた。
しおりは全部で4部づつ作ってある。若君、私、晶露様、そして本家の子分用である。
本家の近辺での、パワースポットの可能性が高いところは3つあった。
3つしかとみるか、3つも、とみるかは、人それぞれであろう。
ちなみに私は、3つも、あるとみる。
どのくらいの期間で、この3カ所を詳しく調査できるかは不明である。
が、やりがいはある!未知の場所へと行けるのであるからな!
さて、どのように回るか。
1箇所ずつ時間をかけて回るか。それとも1度に3箇所すべてを見て回り、優先順位を決めて調べるか。
やはりどの場が、私の能力の増加に、より有意義な場所かを見定めてから、各箇所を詳しく調べたほうがよいであろう。
できるだけ速やかにである。
「ねえさま、こちらです」
晶露様がローテーブルの上に、3つの候補地のしおりをならべてくれる。
なお、ジュースのコップは野衣さんによってすでに下げられている。
野衣さん、優秀である。
「ありがとうございます」
私はしおりの表紙に、さっと目を走らせる。
一つは井戸、一つは川、一つは泉もしくは沼である。
どれも水に関連する場である。
一見して偏りがある。この地域が水源が豊富であるという証左であろう。
加え、人の命を繋ぐ重要な要素である水。だからこそパワースポットになりやすいというのもあるかもしれない。
それについての考察は、ひとまずおいておこう。
我々はパワースポットになりやすい場所は、どういった場所かを突き止めたいのではなく、どのパワースポットが、私の助けになってくれるかが知りたいのであるからである。
目的をしっかりもっておかねばならぬ。
きっと現場につけば興味は膨れ上がるであろう。その為、一番何が大事であるか、しっかり持たねばならぬのだ。
そう最初に心に留めていても、すぐに脇道にそれるのがそなたであるがな、と、前世の友の声が聞こえた気がしたが、私は学ぶのである!
私の今の力は底辺である。その為、前世よりももっと力を求めているのである!
切実なのである!力がなければ、よりよい探求ができないからであるからな!
どんな踊りを踊ったのか(笑)
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