第118話 私、再び若君に交渉をもちかける
とはいうものの。2年生になったからと、4月早々に、さあ交渉である!とはしない。
新学期、それも年度初めというのは、とかく忙しないものである。
その時期に交渉を持ちかけるなど、成功の確率を低下させる行為にほかならないのである。
私は待つ。1週間、2週間と待った。
そしていよいよゴールデンウィーク前に、私は、若君にお伺いをたて、若君の貴重な時間をいただくことに成功したのである!
話し合いの場は、晶露様の私室である。
若君は学園から帰られて、所用を済ませた後にやってこられた。
分家序列最下位の家の娘の私、そしてまだ幼くご次男であらせられる晶露様には、生業に関する仕事は回ってこない。当然である。
しかし、若君は違うようである。
小学3年とはいえ、本家の跡取りである若君にいたっては、生業関係か否かは不明であるが、学業を終えられた後、熟さねばならぬ所用が多々あるらしい。
学校から帰って、おやつを食べて一息とはならないようである。
不敬かもそれないが、ご苦労なことである。
せめて本日だけは、私と晶露様とロウとで、若君をもてなそうと、ケーキと紅茶を用意している。
存分に堪能して欲しい。
なお、ケーキや紅茶については若君の好みが不明な為、本家メイドさんズにチョイスをお願いしている。決して面倒だからではない。適材適所と言っておこう。
「挨拶は不要。話はなんだ」
若君はソファに座ると、切り出された。
若君は大変ご多忙の為、前ふりは不要と、はっきり言い渡されている。
どうにも私の対面の挨拶は、不評のようである。
互いにまだ低学年の子どもである。世間話もない。
ずばり本題からというのは、こちらも願ってもないことである。
しかし今日くらいは、ケーキ等の話題から入りたかった。
願い事をする場合、場を整えてからと思うのは普通であろう。
「はい。実は晶露様の外出についてでございます」
「何か問題でもあったか?」
若君の正面、私の隣にちょこりと座る晶露様に若君が視線をやる。
ちなみにロウはテレビに夢中である。
今の話し合いにロウは不要だからな。
出会った当初より晶露様にべったりでなくなったロウ。ある程度の距離ならば、離れていても大人しい。よい傾向である。
「いえ。何もございません。」
「ならばなにか」
「はい。問題なくここ半年以上、我が家への来訪は滞りなくそして安全にお過ごしであられます」
「うむ。その外出で、成果は上がってないがな」
ぐっ。痛いところを。若君は突っ込まれたくないところを、ピンポイントでついてくる。
まったくやりにくい御仁である。
「異能についての成長は横ばいでございますが、晶露様は活発になられておられます」
「そうだな。明るくなった」
「えへへ。ねえさまのおかげです!」
晶露様が嬉しそうに兄君に報告される。もっと言って欲しい。話がしやすい。
「甘えがすぎるのも困りものだが、プラス面が大きい。今のところはこのままでよいか」
いや!よくないのである!私は停滞を望まない!更なる前進を望むのである!
私は少し身を乗り出し、若君に提案する。
「いえ。停滞は怠惰と一緒でございます。さらなる情緒面でも、能力面でも成長せねばならないと私は愚考するところです」
「それが、晶露の外出先の緩和か?」
さすが若君!察しがよい!
まあ、私が再三お願いしていることであるからか。
「はい!我が家への外出で、晶露様の視野は広がったかもしれませんが、さらに他への外出ができれば、もっと成長なされるかと存じます!」
私もな!
「お前が小学部に上がったことで、小学部の図書室より書籍を借り、それをともに読むことだけでは足りぬか?俺は十分だと思うがな」
ぐっ。若君、細かきことまで目が行き届いている。
耳目が多数おられるのであろう!
しかし私は負けぬ!
「新たな書籍で学ぶことも大変重要でございます。しかし、しかしでございます!書籍で学んだこと、あるいはインターネットなどで知ったことなどを、自身の目で直接見て、感じることは、書籍で学ぶよりもより多くの学びがあるかと存じます!なので、どうか外出許可をいただければ!」
「うむ」
若君が顎に手をやる。
「初の外出の時のように、都心への遠出とは申しません!どうか!本家の近隣で構いませんので!」
「この周辺に見るところはあるか?遊戯ではなく」
「あります!この半年、晶露様と色々と調べてございます!」
「はい。しおりもつくりました」
黙って話をきいていた晶露様も、ここぞとばかりに、加勢してくれる。
ナイスタイミングである。
「本家のお付きの方々の力も借り、問題が起こらぬよう、より一層気を配ります!」
「ぼくもきをつけます!あにうえ、おねがいします!」
私に合わせ、晶露様も頭を下げた。
若君はしばし考えた上で、
「そうだな。許可を出してもよいか?」
と呟く。
よし。もう一押しである。
何か、何かないか。
「私も、晶露様もこの半年で若君に安心してもらえるように、学び精進して参りました!外出を許していただき、そしてその成果をレポートとして提出も考えております!」
報告書の提出、それは新しきことではない。
しかし、晶露様との合同報告書は新しい試みである!
くっ。なぜに兄弟に社員のごときに報告書をあげねばならぬのかと不満はあれど、若君は成果を望む性格である。他者にも、自身にも、である。
もう少し肩の力をぬいて、息をぬくことも覚えたほうがよいと私は考える。
ちなみに私は、外出自体がご褒美なので、報告書の提出は多少の手間だとは思うが、苦にはならない。
文章にまとめることは、頭の整理にもなるからである。
「半年の成果か」
若君は少し考えた後、頷いた。
「よかろう。本家近隣であれば、外出を許可する」
「ありがとうございます!」
私はそこで続く言葉がないか、耳を澄ます。
「なんだ?」
「いえ!なんでもございません」
どうやら、時期についての言及はないようである。
これで心置きなく、喜べる!
私は隣に座る晶露様を見る。
すると、晶露様もこちらを嬉しそうに見上げていた。
私たちは拳と拳をぶつけ合った。
「やったね!」
今度は時期による延期はない模様です(笑)




