第110話 私、晶露様の言に困惑する
夕飯も終わり。
いよいよ、お風呂に入って、後は寝るばかりとなった今。
晶露様の思わぬわがままに、私は困惑をしていた。
「1人でお入りになりたい?」
「はい」
いやいや、それは無理である。
晶露様はまだ4歳である。
いくらしっかりしているとはいえ、1人でお風呂に入らせる訳にはいかないのである。
「私と入るのはお嫌ですか?」
「いいえ!そのようなことはありません!」
「我が父と入るのが、おいやですか?」
「いいえ!」
ではなにがだめなのか?
てっきり喜んで一緒に入ってくださると思っていたのに。
「にいさまをさしおいて、ぼくがねえさまとおふろにはいるなどだめです!」
やっと聞き出した理由がそれとは、私は思わず脱力した。
どうやらこちらの世界でも、そこら辺は前世の貴族と同じで厳しいらしい。
「晶露様、大丈夫ですよ。晶露様はまだ4歳。私とてまだ6歳です。この年頃に男女の区別など殆どありませんから。若君とて気にしません」
加え、にわか許嫁候補である。万に一つも、心配はないであろう。
「ほんとうですか?」
「ええ。私が保証しますとも。なので、晶露様が本当においやでなければ、一緒に入りましょう?」
「はい!ぼく、だれかといっしょにはいるのは、はじめてです!」
うう。なんとも切ない台詞を聞いてしまった。
父、私たちのやりとりの間、脱衣所で直立したままであった。
顔が無でなく、菩薩顔なのが進歩か。
しかし、何も言わないなら、本家子分とともに、脱衣所の外でまっとれ!と叫びたかった。
「では、父よ。風呂の監督を頼む」
私は腹立ち紛れにそう命令した。冷酷にな。
「はっ!」
いやいや、なんなの?
その返事は。私は父の上司ではないから。
私は父の評価をワンランク下げつつも、服を脱ぎ始めた。
その後は何もトラブルもなかった。
ただ腹立ちが収まらなかったので、アヒルの隊長を欲しがった晶露様の為、おそろいのお風呂グッズをプレゼントすることを父に約させて、溜飲を下げた私を、咎めるものは誰もいなかろう。
ちなみにロウは、私たちが風呂に入る時には、すでに自分のマイベッドであるかごでご就寝であった。
もし起きていれば、人間の機微について、根掘り葉掘り聞かれて面倒であっただろう。
寝ていて幸いである。
ロウ、まだまだ幼く眠りが必要なのです。




