第109話 私、晶露様とクッキーを作る
「ねえさま、たのしいですね!」
頭があらぬ方向に進んだ私であったが、手はちゃんと動いていた。
現在台所にて、晶露様とクッキー生地をこねている最中である。
生地をこねるのは、結構な力が必要である。
私たち6歳と4歳では到底滑らかなる生地にするのは困難である。
滑らかなる生地までの大部分は、大人の力を借りる。
これはずるではなく、合理的であると言っておこう。
大人の力、それ即ち母の力である。
母は脳筋ではあるが、料理には、一日の長があった。
なので、クッキーを焼くのは、朝飯前なのである。
そう、母が料理の腕前が熟達しているからこそ、晶露様がお泊まりになるにあたり、メイド派遣がなしになったと、ここで記しておこう。
我が家でなるべく、一般家庭の経験を積ませ、情緒を安定させたいと、私は思っているのである。
家族とは暖かいものであると、晶露様に少しでも感じて欲しいのである。
それは、若君にも同様である。
しかし、若君は本家の跡取り、なかなか連れだすことは、かなわぬのが現状である。
若君と晶露様は、私の中では庇護すべきお子様なのである。
前世では成人し、20代半ばまで生きたであろう私。
そして貴族として生きた記憶があるゆえ、寂しさという感情に気づくことなく、本家で生きる若君を見ていると、人の営みの楽しさを、1つでも教えてあげたいと思ってしまうのである。
それは、自身の楽しさにも繋がるからではないか?
との前世の親友の声が聞こえてきそうである。
無論!それもある!人は打算を持った生き物であるとも、ここで明記しておこう。
「さあ、生地は出来ましたね!それではいよいよクッキーの形を作って行きましょう!」
私と晶露様は形ばかり生地を捏ねた後、一番楽しい作業に取りかかる。
クッキーの形について。
母と予めどうしようかと、話し合っていた。
ホームメイドの王道である、手で薄く楕円形に整えるか。
あるいは型抜きか。
どちらも楽しいが、やはり初めては型抜きであろうと私が主張して、決まった。
型抜きの道具はそろっている。
母がクッキーを頻繁に作ってくれるからである。
母曰く、生地をたたきつける、もとい捏ねるのは、いいストレス発散になるのだそうである。
私はまだ気持ちの赴くままに、捏ねることはできないので、その心地良さを体験できないのであるが、もう少し成長すれば、母の気持ちがわかる日がくるのであろう。
それを待ちたい。
「さあ、晶露様、どの型を使いますか?」
「おほしさまにします!」
その元気な声とともに並べてあった、数種類ある抜き型から、星形を手に取る。
「もう、やってもいいですか?」
こちらを見上げ、確認をする晶露様。
うん。本当によくできたお子である。
「ええ。もちろんです!星だけでなく、ハート型なども使ってくださいね。私はそれを鉄板に並べて行きますから」
「はい!」
そうして晶露様は、薄く広げた生地に抜き型を慎重に押し込んでいく。私がそれを鉄板にのせる。徐々に慣れて来たのか、抜き型を押し込む速度もあがる。
星、ハート、四角、クローバー、ダイヤ。
晶露様は慎重でありながらも、楽しそうで。
やがて、すべての生地の処理を終え、鉄板で焼く段階になった。
「さあ、私たちはここまでです。後は母に任せましょう」
「はい!ねえさまのははさま、よろしくおねがいします」
「かしこまりました」
母が一礼して、鉄板をオーブンに入れる。
「では、居間で若君に包む、袋を選びましょうか?」
「はい!おじいさまととうさまのも、えらんでもよいですか?」
「もちろん」
私はエプロンを外してあげ、手を洗ってもらうと、手を繋いで、居間へと向かった。
晶露様からご母堂様の名が出ないのが、とても切なかったのは、胸に秘めておくべきだろう。
まだ見ぬ本家の夫人と、晶露様の仲が修復されるのを切に願う。
母、鳴海のクッキーが、生地の捏ねすぎで、たまに固くなりすぎるのも、ご愛敬デス(笑)
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