第11話 私、デザートのケーキに満足す
主人公ほっとひといき。
父の言葉に安心した私は、長方形のテーブルにずらりと並んだ料理に神経を集中した。
ゆっくり選んでも、問題はない。
テーブルには灰咲筆頭当主の代理人が座っているから、テーブルがカラになる心配をしなくてもよい。
その点では、あの代理人、役に立っている。
私は憂いも気兼ねもなく、料理を選ぶことにする。
どれも素晴らしい食材を使った料理である。
ただ、ただである。
私はそれらを眺め、眉をへしょんと下げる。
豪華な料理を期待していた私であったが、長いテーブルに並んでいたのは、軽食と呼ばれる類いの料理だった。
どういうことか?
なぜだ。本家、金を出し渋ったのだろうか。
「ど、どうした?何か食べられないものでもあるのか?」
私が並んでいる料理を見、そして落胆しているのを見て、父は焦ったようだ。
「ううん。違う。その、もっとうちで食べられないような料理を期待していたからさ」
私は嘆きの理由を、正直に告げた。
「ああ、そうか。まあ、この後、好配の儀も残っているし、つまめる位の料理に、とどめているんじゃないか?」
私は父の言葉に、はっとした。
そうだ!今開かれているのは、初見えの前儀、そう前儀、儀式の第1部である。
この後に、まだイベントがあるのだ。
そうであるならば、ここでは控えめに、そして好配の儀、第2部ではがっつり豪華な料理が出されるかもしれない。
そうだ。きっとそう。好配の儀は、休憩を挟んで、厳かに行われ、その後、夕食として食事会があるという流れではないか。
それならば、合点がいく。
改めて並んでいる料理を見ると、サンドイッチや巻き寿司など、一口二口で食べられるように、小さく作られていた。
「大海、あちらを見てごらん。デザートは充実しているみたいだよ」
父の指さす方をみると、こちらも一口大の正方形のケーキが、ずらりと並んでいた。
「わあ!」
ブリンやムースなどもある。
どれも小さい。
私はまだ5才、たらふく食べたいと望んでも、限度がある。
それを考えると、一口大に作られた料理やデザートの数々は、まさに私向きといえよう。
よし。私は頭を切り替えた。
デザートを中心に、攻める。
あの大きさなら、もしかしたら、デザートのケーキは、全制覇できるのではないか。
「機嫌が直ったかな?」
父が私の顔が明るくなったのを見て、微笑んだ。
「はい!父!」
「そこはパパと呼んでほしいんだけどなあ」
すまない、そこは譲れないのだ。
私は中皿に2,3切のサンドイッチと、正方形の小さなケーキを、皿に載るだけのせて、自分たちのテーブルへと帰ってきた。
本当はデザートだけで、皿を埋めたかったのであるが、父からダメ出しを食らい、渋々サンドイッチもセレクトした。
父は苦笑して、それ以上は何も言わなかった。
そう、今日ぐらい許してほしい。
高価なデザートを食べる機会など、滅多にないのだから。
父の皿には、サンドイッチが山盛り載っていた。
うむ。私だったら食べきれないだろうが、父はそれだけでは足りなかろう。
おかわりするとよい。
「飲み物を持ってくるから、大海は座っていていいよ」
「はい」
私は素直に返事をすると、自分の席に座った。
すると、私の前に座っていた灰咲の名もわからぬ男が席を立って、どこかに行ってしまった。
なんだ?私とは席を一緒にしたくないのか?
それとも居心地が悪いからと、どこかに身を潜めるのだろうか?
それでもいい。けれど、私たちに一言説明があっても、よかろうよ!。
私はしばしの間、男が去って行った方向を睨んでいたが、首を振って、気持ちを切り替える。
そして、チョイスした料理がのる皿を、見つめる。
皿に載っているのは、サンドイッチとケーキである。
サンドイッチの具材は、スタンダードに玉子とハムである。
まずは王道を押さえておきたい。とはいえ、私の今日の攻め場は、デザートだ。
サンドイッチは、これだけである。
デザートに持ってきたのは、大きなイチゴと生クリームのケーキ、それとチョコレートケーキ、そしてチーズケーキである。
こちらも王道。まずはここを押さえておかねばなるまい。
小さいから、これだけ食べても、きっとまだ食べられる筈だ。
次は、ムースやプリンを攻める予定だ。
「むふふ」と私は幸せな気分にひたりながら、一口一口大事に食する。
ああ、幸せである。
父、先に食べて申し訳ない。だが、我慢できなかったのだ!
コンビニのデザートもおいしいが、こちらも上品な甘さでいい!
「大海、先にデザートを食べているのかい?ちゃんと、サンドイッチも食べなくてはだめだよ?」
私がイチゴのケーキを食べているところに、父が戻ってき来た。
「はい、もちろん」
食べ物は残してはいけない。
必ず、皿の上のものは全部食べるぞ!
「そうか。なら、食べる順番は、大目にみるか」
父は笑って、私の皿のそばに、オレンジジュースが入ったグラスを置いてくれた。
「ありがとう!」
そうだね!リンゴジュースも捨てがたいが、ケーキの甘さの口をさっぱりさせたいなら、オレンジジュースだ!父、わかっている!
父は、自分には、コーヒーをもらってきたらしい。
うん、それもいいチョイスである。
サンドイッチにコーヒー、不動のコンビネーションである。
父は、私の前の空席を、ちらりと見たが、何も言わなかった。
父も最小限の接触ですませるらしい。
そうだよね。名乗りもしない男なんて、それで十分。
当然である。印象が悪い。さも、末流だからと、下に見た感じであった。
私たちひっくるめて、君も分家序列最下位なんだから、五十歩百歩である。
小物感が半端ない人だ。
付き合いたくない人種である。
はっ。せっかくのおいしいデザートを食しているのだ、つまらぬ者に心を向ける必要はない。デザートに、全力投球でいいだろう。
と、その前に、私は前方へと注意を向けた。
若君が気になったのではなく、後どのくらいゆっくりと食べられるか、目算したかったのである。
流石に若君の前では、皿をおかねばなるまい。
若君はいずこか?
視線を向けた上座方面で、すぐに若君は見つかった。
どうやら一人で、テーブルを回っておられるようである。
正確を期すなら、従者が一人、若君の後ろに、付いている。
おそらく護衛も兼ねているだろう。
ここは本家の本丸である。何かある筈もないと思うが、身分が高いというか、金持ちには護衛はつくのが普通なのは、貴族社会と変わらないか。
前当主様と、当主様は、台座の目の前のテーブルで、グラスを傾けつつ、語り合っている。
「まだ全然進んでない」
私が、ぽそりと呟く。
開催から20分は経つかと思うが、まだ赤いテーブルクロスの付近にいる。
つまりは分家序列第1位の日陽家のテーブルである。
日陽家は許嫁候補は3人いるようだ。中学生が1人、小学生の中学年、小学年が1人づつか。
「父、日陽家の許嫁候補のお嬢様方の名前とか、わかる?」
父は知らないだろうなあとは思いつつ、ダメ元で聞いてみる。
「ん?ああ、興味があるのか?一人が日陽家筆頭のお嬢さまで、日陽由乃様13才、その妹で日陽楓子様が9才、もう一人が傍系の日陽栄恵様7才だな」
「父、すごい!」
期待していなかっただけに、すらすらと答えられて、余計に驚愕した。
父を見直した瞬間である。
「ここに招待された際に、ある程度、分家のことを調べたと言っただろう?」
「はい。しかし、それでも許嫁候補様のお名前まで覚えていると思わなかった。まさか、全員の名前を覚えているの?」
「ああ、名前だけでなく、顔も覚えているぞ。許嫁候補だけでなく、その付添の方もな」
「ええ!?よく覚えられたね!」
「仕事柄、顔と名前を覚えるのは、慣れているんだよ」
父が、気持ち胸を張る。
そうか。父は警備の仕事をしている。仕事毎に、顔や名前を覚える必要があるのかもしれない。
「父、すごい、すごい!」
私は、情報をくれた父を、思い切り褒めておく。
父、脳筋ではないのかもしれない。
私は、父の情報を元に、改めて若君を囲んでいる、美少女3人を眺める。
皆、美人さんである。
と、私は視線を少し下げると、苦笑した。
そうだよね、許嫁候補だものね。
お嬢様方のお召し物。
分家日陽家筆頭、長女の由乃様は、家色の赤の豪華な着物を着ている。
次女の楓子様は、やはり家色の赤だが、少し色が薄めで、膝丈のドレスを着ている。
そして最後、傍流の栄恵様は色は赤だが、更に色彩は薄く、フォーマルだが、少し控えめのワンピースである。
細かい、ここまでかっちりと分家内部でも、序列をつけねばすまないのか。
プライドか?
そんな形式ばかりに拘ってないで、実力で差をみせればよいのではないか?
生まれも実力のうち、ということか?
ふう。やれやれである。
私は間違っても、あのお仲間に入りたくないものである。
しかし、艶やかな美少女3人の中心にいて、なお霞まず雅でいらっしゃる若君も、カリスマ性があるのだろう。
いやはや、恐れ入る。
いつもお読みいただきありがとうございます!
少しでもおもしろいっと思っていただけましたら、ブクマ、評価をどうかよろしくお願い致します。
励みになります~。




