田舎出身
僕は3分くらいでようやく泣き止んだ。
僕はどれだけ英雄騎士団長様を待たせれば気が済むんだろうか?
とても忙しい人のはずなのに。
助けに来てくれただけじゃなくて、僕の腕も治してくれて、
僕たちが起きるまで待ってもくれていた。
この人は聖人様か何かだろうか…?
「申し遅れました、僕の名はオーデンス=ペルギウル。
昨日の件といい治癒魔術の方も、なんとお礼を言えばいいか…」
「ははは!別に構わん! 俺は暇だからな!」
え、暇なの?英雄騎士団長様なのに?
「で、でもなにもお礼をしないわけには…」
「そうです!何かお願いを言ってくだされば…!」
父さんも僕に便乗してきた。
そうだ、こんなに良くしてくれたんだ。
何も恩を返さないで帰らすわけにはいかない。
「よいよい!俺は欲しいものはもう全部持っているからな!もらっても困るだけだ!」
「それでは我々の気持ちが…」
「ではこうしよう!オーデンスよ、お前の話を聞かせてくれないか?」
「ぼ、僕の話なんかで良いんですか?」
なぜよりによって僕なんだろうか。
特に取り柄も無いのに。
話を聞くならアイリの方が…。
僕はアイリの方に顔を向けた。
「あ、ぁの…」
アイリは誰にも聞こえないような声でなにかをつぶやいていた。
アイリの顔はとてもおどおどした顔になっていた。
その顔から察するに憧れの相手過ぎて緊張してしまっているのだろう。
しょうがない、ここは僕が助け船を出そう。
「わかりました。あの、誠にお願いしづらいことがあるのですが…」
「言ってみよ!」
「そこにいるアイリ=ノイルロットも話に交えさせては頂けないでしょうか?」
「!?」
「ほう!許そう!」
「ありがとうございます」
アイリはこっちを向いてぶんぶんと首を横に振った。
自分にはまだ早いと言いたそうだな…。
けど話す機会はもう二度とないかもしれないんだ。
いい機会だと思って話そうじゃないか、と目で伝えてみる。
伝わるだろうか?
「ぅん…」
どうやらオーケイらしい。
というか本当に聞こえないな…。
これでまともに話せるのだろうか。
「では他のものにはご退出願いたい!」
「え、僕たち以外には聞かせれないお話ですか?」
「そうだ!」
もしかして父さんたちには僕らが魔王護衛軍幹部
と戦っていたなんて知らないのか?
「わかりました。ギルフォード様がそうおっしゃられるなら…」
ギルフォード様か…、じゃあ父さんはやっぱり英雄騎士団長様だとわかっているんだな。
「うむ!誠に済まない!」
「いえ、仕方のないことです。じゃあオーデンス後でな…」
「わかりました」
そして父さんたちは家の外へ出た。
「うう…」
声量は少し大きくなったものの、アイリはまだあの調子だ。
まともにに会話ができるか心配だな。
「これで話し合えるな!」
英雄騎士団長様はとてもいい人だ。
僕たちみたいな田舎にも良く接してくれる。
「英雄騎士団長様、ではどういったお話を…」
「その堅苦しい名前はいい!ギルフォードと呼べ!」
ぎ、ギルフォード?
さすがにそれはおこがましすぎるのでは?
父さんはギルフォード様って呼んでたけど、父さんは一応上級の剣士だしな…。
「いえ、田舎の民である僕にそう呼ぶ資格など…」
「教えてやろう!俺は田舎出身だ!」
「え?」
英雄騎士団長様が田舎出身…?
田舎出身で英雄騎士団長ってなれるもんなのか?
「それ本当の話ですか?」
僕はとても信じられなかった。
「無論本当のことだ!」
本当のことだった…。
この田舎の村でも英雄騎士団長の話は回ってくる。
英雄騎士団長はとてつもなく強い。
人類最強とも言われているくらいだ。
魔族率いる魔物の進軍を幾度なく英雄騎士団長一人の手で
沈めたという話も聞いたことがあるくらいだ。
“英雄騎士団で”ではなく、“英雄騎士団長1人”だ。
一人で軍隊を沈めることがどれだけすごいことか…。
それほど強い人が田舎出身。
田舎で育つと基本的に魔力が少ない傾向にある。
これは理由が明らかにはなっていないが、
田舎はそもそも魔素が乏しいという説が今一番有効となっている。
その田舎で育ち、貴族たちに見下されたりもたくさんしただろう。
それなのに英雄騎士団長まで上りつめた。
きっと僕には想像できないほどの努力をしてきたはず…。
「そうでしたか。まったく気が付きませんでした…」
「であろうな!俺を田舎出身だと見抜けたやつは一人もいない!」
ですよね…。
田舎出身だと言っても最初はだれも信じてくれないだろう。
「だからオーデンスよ!同じ田舎出身である俺のことは、肩書を気にせずギルフォードと気安く呼べ!」
いや例え田舎出身だとしても英雄騎士団長は英雄騎士団長だ。
そんな気安く呼べるわけ…
「俺は少年と友人になりたいと思っている!頼む!」
「…」
英雄騎士団長様が僕と友人に?なんで僕なんかと。
「一つ教えてください。なんで僕なんかと友人に?」
「少年に興味があるからだ!」
きょ、興味?確かに僕は弱すぎて逆に興味は湧くかもしれないけど…。
でも恩人の頼みを断るのも気が引けるな…。
「わかりました。他の人の前ではギルフォード様、
二人しかいない場合はギルフォードさんでいかがですか?」
これが僕にできる最大限の譲歩だった。
「ふむ。まあよかろう!俺はもちろんこれからもオーデンスと呼ばせてもらおう!」
「はい、そちらは大丈夫です」
うん、まさか僕があの英雄騎士団長様である
ギルフォードさんとこうして話す機会が訪れるとは。
ほんとここ最近予想外のことばかり起きている。
どうしてしまったんだ僕の人生は。あ、そういえば…
「アイリもギルフォードさんって呼んでみれば?」
「えええ!?」
アイリの声が部屋に鳴り響いた。
うう、耳がめっちゃキーンとする。
驚きすぎではないだろうか…。
全くなんて顔をしているんだ…、顔も真っ赤にして。
まあ失神しないだけマシか。
「アイリ=ノイルロットと言ったな…」
「は、はい!アイリ=ノイルロットでしゅ! あ…」
「あ…」
噛んじゃったよアイリのやつ…。
ギルフォードさんの存在がここまであのアイリを変えてしまうか…。
英雄騎士団長様恐るべしやな。
「お前もギルフォードと呼ぶか?」
ギルフォードさんはにこっとした笑顔を向けて聞いた。
「そ、それはさすがに…」
「そうか!ではアイリよ、お前が呼びたくなった時に呼ぶといい!俺はそれを待っている!」
「わ、わかりました!まだ未熟者ですが、呼べるに相応しくなるよう頑張っていきたいと思います!」
アイリ、まだ緊張でガチガチだろうけど、良く言えたな…。
おそらく英雄騎士団長様もアイリが話しやすいように気遣っていたし、
やっぱり憧れの的なのも頷けるな。
「その意気だ!」
「はい!」
「よかったなアイリ」
「ふん!」
あら、もしかしてあまりお気に召さなかった?
僕が急に話を振ったことに対してすごく文句を言いたそうな顔だな…。
でもあのままだと緊張して何も話せなかったかもしれないし。
「それでは本題に入りたいと思う!」
「は、はい!」
そうだ、別に名前で呼んでほしくてこの場を設けたわけじゃないんだ。
暇って言ってたし可能性はありそうだったけど…。
本題ってあの魔王護衛軍幹部のことかな?
「オーデンスよ!」
「?」
「お前何者だ?」
「!?」




