家族
「やっと起きたか少年らよ!」
「「あ…」」
そう言えば重要な人を完全に忘れてた。
あいつは確かに帰ったけども、この人はまだ帰っていなかったのか。
というかやばい現場を見られた。
端から見たら少女が少年に後ろから抱き着いている構図。
僕はもちろん見られて恥ずかしいが、抱き着いているアイリの方がよっぽど恥ずかしいだろう。
「ほうほう、そんな関係であったか。邪魔をして悪かったな!」
バタンと音を立ててドアを閉じた。
未だに僕たちは固まったままだ。
恐る恐るアイリの方を向いてみると、アイリは顔を隠していた。
隠してはいたが、耳は真っ赤になっていた。
「アイリ平気か?」
「…」
返事がない。
これはきっと今自分がしていることの大胆さに気づき、
恥ずかしさで悶えているのだろう。
どうしよう、こんな顔を赤くして恥ずかしそうにしているアイリを見たことないからな…。
あ、そういえばすっかり僕の中で馴染んでしまっているが、
あの人は英雄騎士団長でとてもすごい人なのだ。
教えれば元気を出すかもしれない!
「アイリ!実はさっきの人はあの英雄騎士団長様なんだぞ!」
「へ?」
アイリは恥ずかしさなど忘れてしまったかのように顔を上げてこちらを向いた。
「うそでしょ…?」
アイリは到底信じられないという顔をしていた。
うん、わかるぞ。
僕も最初はそんあ顔をしていた。けど本当なのだ。
「本当。なんなら昨日アイリが眠ってしまった後、英雄騎士団長様に助けてもらったんだ」
「え、そうだったの。あの後にまだそんなことが…」
僕はアイリの腕をほどき、アイリが眠ってしまった後のことを覚えてる限りで話した。
アイリは僕の言うことをただ静かに聞いていた。
全部話した後、アイリは自分が眠ってしまっていたことに後悔をしていた。
そして眠ってしまったことに対して謝罪したが、僕は何とも思っていないことを伝えた。
上級魔術を使った反動で眠ってしまったことに怒る人がいるものか。
当然僕は気にしていなかった。
あの上級魔術で倒せないあいつがおかしいのだから。
「けど上級魔術で倒せなかったとなると、いよいよあいつを倒す方法が無いわね…」
「そうだな…」
上級魔術をくらって重傷を負うなら百歩譲ってまだわかる。
だが僕が見る限り、あいつはくらう前となんら変化はなかったのだ。
つまりダメージは0だ。
宝級、神宝級魔術を除けば人類最強の魔術だと言うのに。
「けどもしかしたら剣術なら…」
「そうね、魔術がだめなら剣術で挑むしかないわ」
剣術もアイリは得意だし、あいつの首を剣で落とせば勝機はある。
「あ、そういえばあいつと英雄騎士団長様は知り合いっぽかったな…」
「き、聞きに行きましょう!」
「そうだね、今後についても英雄騎士団長様に聞くのが一番良い」
そして僕たちは部屋を出て、英雄騎士団長様に会いに行った。
部屋を出てリビングに行くと、そこには僕の家族とアイリの家族、
それと英雄騎士団長様が話し合っていた。
「オーデンス!アイリも!」
僕の家族は僕に抱き着き、アイリの家族もアイリに抱き着いていた。
よほど心配をしていたらしい。
「オーデンスごめんな…、こんなに弱い父さんで…」
父さんは僕に会えて嬉しそうにしつつも、心底悔しそうな顔をしていた。
「父さんは今までどこに?」
「俺は村に入り口の門で眠らされていたんだ。
申し訳ない、お前が必死にアイリを守っている中、俺は眠っていたんだ…」
そうか、村の人たちと同様に眠らされていたのか。
母さんも申し訳なさそうな顔をしてたし、おそらく眠らされていたのだろう。
「あまり責めるでないぞ少年。あいつの前で立っていられる人間など多くないのだ」
別に僕は責めているわけじゃなかった。
それよりも嬉しかったのだ父さんと母さんが生きてくれていたことが。
「責めてなんかいませんよ。僕は父さん母さんが生きてくれていてとてもよかったです!」
「オーデンス…」
父さんと母さんは泣いていた。
「え、そんなに泣かなくても…」
そんなに泣くことなのか?僕が父さんたちを責めるわけなんて無いのに…。
「怖かったんだ…」
「え?」
「起きてやばいと感じた後、あいつを追いかけたんだ…。
道には村のみんなが俺と同じように倒れていて、
オーデンスと母さんは無事なのか本当に心配だったんだ…」
「父さん…」
父さんは赤裸々に自分がどれだけ心配をしていたのかを話してくれた。
家で母さんを見つけたこと、そして僕がいないことに気づいて母さんと一緒に探し回ったこと。
英雄騎士団長様が僕とアイリを抱えていたのを見つけて、
僕の右腕が無くなっていることに気づき、
僕が死んでしまっていると思ってしまっていたことなど。
どうやら僕の右腕は英雄騎士団長様の治癒魔術で治してもらったらしい。
「ごめんなさい、父さん。そんなに心配してくれていたなんて知らなくて…」
「いやオーデンスが謝ることじゃない。
お前にあんなに傷を負わせてしまったのは俺が不甲斐ないからだ…」
父さんは強い。
強いがゆえにあっさり負けて眠らされてしまったことはショックだったのだろう。
よく見てみれば目の下にクマがある。
僕のことが心配でほとんど寝れていなかったのかもしれない。
でも相手は魔王護衛軍幹部なのだから仕方がないじゃないか…。
僕は謝罪されるよりも、もっと他に言ってほしいことがあった。
「父さん、相手があれでは仕方がありません。
それに僕は謝罪なんかよりも言ってほしいことがあります」
「オーデンス…?」
「僕は父さんに言われた通り、アイリを守り切りました」
「!」
僕は守ることができたんだ。
お父さんに守れと言われてから努力をし続けたあの日々。
どれだけやってもアイリとの差が広がっていき、
村の同年代にも喧嘩で負けてしまうほど弱くて挫けそうだった。
けど僕はいつかアイリを守れたら父さんが僕をほめてくれる、
僕を認めてくれると信じてきたからこそ頑張ってこれた。
僕の努力は父さんに認められてようやく完全に報われるんだ。
「僕は父さんが誇れるような人になれたでしょうか?」
「…」
父さんは僕の顔を驚いたようにまじまじと見ていた。
あれ、まさか今回のはノーカンか?
確かに英雄騎士団長様が助けてくれなかったら、僕は守れなかった…。
そうか、そうだよな…。
自分ひとりの力で守れていないくせにどうやって認めろと言うんだ。
僕はだんだんと弱気になり、俯いてしまった。
「何を言っているんだ?」
僕はびくりと体を震わした。
少し調子に乗ってしまった。
僕はただ強い父さんが誇れる息子になりたかっただけなんだけどな…。
「俺はとっくにお前を認めている」
「え?」
今なんて?僕を認めている?
「俺はな、お前が小さいころにアイリのことを悪く言っている奴らに
殴りかかったという話を聞いてからもう認めていたんだ…」
そんなことしたっけ…。
でもそんなことで認めてもらえていたのか?
「なかなかできることじゃないさ…。小さいころの父さんでもできなかったかもしれない」
そんなことない、父さんならできたはずだ…。
「そして今回は父さんが何もできなかった相手にお前はアイリを連れて行かせなかった」
それはアイリと英雄騎士団長様の助けがあったからで…。
「誰がなんと言おうとオーデンス、お前は俺の誇りで自慢の息子だ…」
「父さん…」
ああ、その言葉が聞きたかったんだ。
僕はずっと心配だった。
出来の悪い子供が生まれて後悔していないか、
僕のせいで父さんの株が落ちていないとか…。
僕はアイリを守るという使命だけだったら修行を続けるなんてできなかった。
父さんの荷物になりたくない、父さんに褒められたいと思っていたから頑張れたんだ。
そして父さんから聞きたかった言葉がやっと聞けた。
「僕父さんにいらない子だと思われたくなかったです…」
「だから今まで少しでも認めてもらえるように頑張ってきました…」
「そうか、気づいてやれなくて悪かったな…」
僕も父さんの前で自分が長年抱えていたものを吐き出した。
「父さん僕まだまだ未熟ですが本当に認めてもらえますでしょうか…」
目の前の視界がぼやけた。
目頭が熱くなっていくのを感じる。
「だからとっくに認めているって…」
うん聞いたよ。
でももう一度確かめたかった。
僕は泣かないと思いつつも、涙があふれて止まらなかった。
「僕父さんにとって、もういらない存在じゃないですよね…?」
「ばか…、そんなこと一度も思った事ねーよ」
そっか、よかった。
それが聞けて本当に良かった…。
僕は視界が涙でぼやけすぎて父さんの顔が見えなくなっていた。
「父さんたちの子供に生まれてきてくれてありがとうな…」
父さんは僕を抱きかかえた。
そして母さんも後から父さんと僕を包み込むように腕を体に回した。
父さんと母さんはほんの静かだが、小さい嗚咽をあげていた。
ああ、僕はこんなにも愛されていたのか…。
「こ、こちらこそです…」
僕は初めてちゃんと家族になれた気がした…。




