番外 昔の話
元々。
彼女は呟く。
元々、私は主人公より敵役側にほれ込む性質であった。
物語の中枢に当たり前の様に鎮座し、話の流れは全て其の中枢にとって良い様に行き先を定める。
「其れは、酷く面白くない」
彼女は常々そう感じていたのだった。
ならば。
彼女は云う。
敵役である其れ等の方が、余程好ましい。
流れの中枢に在る存在を打ち崩さんと切磋琢磨する其の姿は非常に好ましい。勿論、下衆は嫌いだ。そう云うのは敵役、と云う範囲には収まらないと彼女は主張する。
「敵役とは、高潔であり、切磋琢磨を怠らず、己を高みへと導く事に邁進する存在である!」
違うだろ、と親しい友人にキレの良い突込みを貰った事もあったが、彼女はさっくりと無視した。
そんな友人から借りたゲーム。
ゲームと云えばアーケード、と此れも又明言する彼女へ、だが友人はのんびり家で情緒を磨けと派手な外装の円盤を押し付けたのだった。
内容は、所謂乙女ゲームだった。
刹那、彼女はプレイを放棄した。
光の速さでやる気を失った彼女へ、友人は又見計らった様に部屋に押しかけ、ゲームの面白さを懇懇と諭した。
「このゲームは何しろ世界観の設定が」
「うん、世界観はきちんとしてる。状況から考えても、強い魔物とかいそうでワクワクする。戦いのシステムもコマンド入力方式でやり易い。でもなんで世界を救う旅に恋愛が必要なの?」
「そういう仕様だから」
「何で世界の大事に素人の小娘が関わるの」
「巫女だから! 其れに一応、ヒロインは有名な格闘の達人の知り合いで」
「知り合いなら最初からきちんと修行して一人で行った方が効率良いと思うけど」
「乙女ゲーとして成り立たないだろ其れ!」
「……(悩)」
「悩むなぁぁあああああ!!!!!」
メインストーリーを聞けば聞くほど、彼女はこのゲームが楽しいとは思えなくなっていった。
だが、しかし。
兎に角やれと強要され、一応渋々ゲームを起動させた彼女は、純粋にRPGとして其れを始め……ふと、気づく。
「ねえ」
監視と云う名の助言を与えるべく待機していた友人へ、彼女は云ったのだ。
「何で、此の男共は貴族の姫様を旅に連れてきたの」
其の視線の先に居たのは、主人公一行のミニキャラ。一行の中に、明らかに周囲の景色と相容れない清楚可憐な黒髪の美少女が居るのを見咎め問うた彼女へ返された言葉はただ一言。
「闇の巫女だから」
ライバルキャラで、あるらしい。
解せぬ、と彼女は思った。
だって。
傍らの友人を眇め見て、呟く。
「ちゃんとした宿だってないだろうに、可愛そう」
野郎は川で洗濯すればいいだろうが、女子は違うぞ。
そう云った彼女の頭を、友人が叩き倒したのは多分間違いじゃない様な気がしなくも無い。
「そういう生活面のリアリティじゃなくて! あんたは如何いう目でこのゲームを見ようと試みてるの!!!」
「無能な男が女に無理を強いてるゲーム」
「 違 う か ら ! ! !」
笑顔で叱られると云うのは怖いのだな、と彼女は思った。
なんとかかんとかゲームを続ければ、彼女の目には恋愛とか云うものに振り回される主人公より、其の脇で色々頑張るライバル役の闇の巫女の方が余程好ましく見えた。
「だって」
役に立たねえ男共、と呟いて思い切り頬を横に引っ張られた彼女は友人へむくれて見せる。
「ゲームチュートリアルは彼女がやってくれるし、困った事があれば彼女が教えてくれるし、中央との連絡は彼女がやってくれるし、最高じゃないの闇の巫女。男共、使えない」
「良い男が傅いてくれるって最高でしょうが!!! 癒しでしょうが!!!」
「無能は嫌い」
多分一対一でも乱捕り稽古でも此の男共に負ける気がしない。
胸を張って云い切る彼女へ、友人ははあと大きな溜息と共に脱力して見せた。
「まあ、ね」
彼女の無表情な顔を覗き込み、友人は笑う。
「其の通りだと思うよ」
「そうして、私、此処に来たのだけれど」
金の髪をたなびかせる彼女はそう締めくくり、眼前に広がる青空を睥睨した。
背後には、傑物。
此の世界に於いて、最強の名を恣にする男。
「師匠。私は一人で世界を救える様になっただろうか」
華奢な少女の……だが、極めし者の呟きに、男は太い笑みを口の端に浮かべる。
是でも、非でも無い。
無言の答えを受け、彼女も又、太い笑みを浮かべたのだった。
光の巫女として招喚される、少し前の、話。