第6話
―――ゲーム当日…
ホテルの自室で鏡の前で深呼吸をするユカ。
時刻は午前8時…
「大丈夫……大丈夫………」
すでに着替えやメイクを終えてチェックアウトする準備はできている…
鏡の中の自分に強く言う。
「しっかりやれよ私…!」
そのままホテルの自室を出てロビーへと行く。
そこにはすでに花桐がいた。
「眠れた?」
「はい、なんとか…」
しかしやはり緊張は消えない。
「昨日の"作戦"で行こう」
「私に上手くできますかね…?」
「大丈夫大丈夫。仮に上手く行かなかったとしてもそもそも"負けない"んだから気楽に行く方がいいよ?」
「はい…」
2人はチェックアウトの手続きを済ませてホテルを出る。
ゲーム開始は午前9時から。
場所は昨日と同じビル。
花桐は緻密な作戦を"合図"とは別で構築してユカに伝えていた。
この作戦の"要"はユカ。
正直必勝法ではなく失敗する可能性は普通にある。
しかし失敗しても"合図"がある以上負けないのでノーリスクでできる作戦だ…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午前8時50分。
ユカと花桐は先に到着していた。
原告と被告がカードゲームをする部屋でユカは着席して花桐は立っている。
トリビュナルのスタッフ達も昨日と同じ顔ぶれがそろっている。
裁判長、兼、ディーラーの三大寺が腕時計を見る。
すると布川と蜂須がドアを開けて到着した。
「お待たせしました」
蜂須がそう言い先に入る。
「…!」
後ろの布川を見て目を細める花桐。
(…マスク?)
マスクをつけた布川が体調悪そうな表情で咳き込みながら蜂須について歩いている。
「おや?三流詐欺師でも風邪ひくの?」
と挑発する花桐に布川は怒鳴り返す。
「うるさいわね!!ゲホッ!ごほっ!!昨日調子乗って飲みすぎて体調崩したのよ!!ゴホッ!!!」
蜂須が苦笑いしながら花桐に口を開く。
「すいません、なさけない話で、盛り上がりすぎて結局深夜3時まで飲んでまして…」
「へえ…」
薄ら笑いで返す花桐。
「蜂須さんは丈夫なんだ?体…」
「ええ。私は日々運動などは欠かしてませんし、栄養を考えた食事をとっているのでね」
鋭い目を返す蜂須。
(花桐柴馬……レベルの低いサロゲートって訳ではなさそうか)
時刻は昨夜に遡る。
中華料理屋で話している布川と蜂須…
「で、合図はどうするの蜂須さん?」
紹興酒を飲みペキンダックを下品に食べる。
「それですがね布川さん…合図は"あなたと花桐が質疑応答してる時"…と思ってますか……?」
「え?ええ。それが普通よね?」
「単純な人間ならそう思いますよね…」
「た、単純っ!?」
「失敬。別に布川さんをバカにした訳じゃありません…」
ビールを一口飲み、続ける蜂須。
「ルール上は私と夏井ユカが質疑応答している時は布川さんは私語厳禁です。花桐も」
「そうよね?」
「でもね。ルールでは"私語"や"相手の質疑応答を妨害"するのが禁止なだけです」
蜂須はペキンダックを上品に一口入れる。
「布川さん、つまり言い方を変えれば"私語"および"相手の質疑応答の妨害"をしなければ音声は発していいんです」
「…!」
「普通なら質疑応答の中で合図を入れます。花桐も恐らくそう考えている可能性がある。
だから私はあえて質疑応答の外に合図を入れたいと思ってます」
「でもどんな合図入れるのよ?」
「"咳"です」
「せき?」
「ええ。あなたが質疑応答の外で咳をしてもらえばいいんですよ。
机を叩くとか椅子を動かすとか音の出し方は色々ありますが、
いかんせん夏井ユカだって物の音は不意でも故意でも出す可能性が高い。
だからあなたの咳が良い。
そして念のため不自然に見えないようにあなたは明日マスクをして体調不良のフリをしてください」
むすっとした顔で下品にペキンダックを口に入れる布川。
咀嚼しながら蜂須に言う…
「そんな回りくどい事する必要ある?負けないんでしょ…?」
「……」
下品な布川に溜め息をつきながら続ける蜂須。
「必要があるかないかで言えば必要ありませんが念のためです。
相手がどのような策で来るのか油断はできません。
そして合図をわかりにくくしといてメリットがあるかないかで言えばメリットはあるので」
「ふん。まぁいいわ」
ペキンダックを紹興酒で流し込む布川
「蜂須さんに任せる」
「布川さんは体調不良の演技をしっかり頼みますよ?
元役者なんですから」
「大昔の話よ!それでもあの小娘ダマすくらいなら演技できるわ!」
そう言って大笑いして再びペキンダックを食べる…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでは裏裁判を開廷いたします。
サロゲートのおふたりはスタッフの誘導に従って別室への移動をお願い致します…」
花桐はユカに優しい声で話す。
「ユカちゃん」
「え!?あはい!?」
「大丈夫、俺がついてる。
俺の言う通りにしてくれれば"絶対"負けない」
その花桐の様子を咳をしながら睨む布川。
そして蜂須はあきれたような表情で溜め息をついている。
(そりゃ"絶対"に負けないでしょうね)
…花桐と蜂須は別室へと移動する。
そしてパイプイスが距離を開いて2つ置かれており、
それぞれに座らされて手足を拘束させられる。
「それでは第一ゲームをスタート致します。
原告、夏井ユカ様。被告、布川忠子様。
カードを選択してください…」
裁判長、兼、ディーラーの三大寺がそう言う。
カードの選択時間は"最大"で1分。
この間はユカと布川は会話可能だ




