第2話
―次の日
時刻は夕方
…ハラジュクのとあるカフェ。
夏井ユカはチョコレートパフェとイチゴパフェとバナナクレープとオレンジジュースとリンゴジュースに勢い良くガッツいている。
それを一筋の汗を流し苦笑いして見ている花桐柴馬。
「あ…あの…夏井さん……?」
「はっ!すいませんっ…!!!」
ユカはびくっとしてすぐに口を拭く。
「花桐さん、昨日は傘とコートありがとうございました…」
「いいよ。それよりも早速本題に入ろう」
「はい…」
詐欺に遭った内容を全て話す。
「なるほどねー。典型的な詐欺か…」
ホットコーヒーを一口飲み、続ける花桐。
「それなら多分起こせるね」
「…?起こせる?」
花桐は少し身を乗り出して意味深な表情でユカに言う。
「"裏裁判"……」
「うらさいばん…??」
「あれ?知らない?ジャペンじゃだいぶ認知されてきてるハズなんだけど…」
「すいません、田舎者でして…」
「夏井さん、スマホのチャットアプリ『KINE』交換できる?」
「え!?」
「いやナンパとか変な意味じゃないからね?裏裁判の事についてURLを送りたくて」
このあとしばらくお世話になるかもしれない可能性を考えてユカはKINEの連絡先を花桐と交換した。
そして花桐から送られてくるURL。
それはアプリインストールのページだった。
アプリ名
「トリビュナル…???」
"特別法廷"を意味する名称
「いいかい夏井さん?ここジャペンでは法で裁けなかった罪や法の抜け道を使った犯罪で被害を受けた人への救済措置として、このトリビュナルって司法機関を通して"裏裁判"を起こす事ができる」
「裁判、ですか…」
「うん。ただね、君が想像しているような言葉のやり取りの裁判じゃない」
「え?」
「弁護士ではなく俺みたいな"サロゲート(代理闘士)"が原告側と被告側についてゲームで勝負する」
「ゲーム…!?」
「そう。それはテレビゲームとかじゃなく心理戦が絡むゲームが多い」
ホットコーヒーを再び一口飲み花桐は続ける
「そして裏裁判の原則ルールとして"必ず何かを賭けないといけない"」
窓から街の風景に目をやる花桐。
夕日が街を赤く照らす
通行人がたくさんいる中で野良猫が颯爽と駆け抜ける。
「ちなみに"裏裁判"が起こせるかどうかは、原告の訴えの内容をトリビュナルが審査して決める。
明確な基準は公開されてないけど私利私欲が絡むような訴えは当然却下される。
例えば俺が『夏井ユカさんと付き合いたいので裏裁判起こします。勝訴したら付き合ってください』なんて理不尽な内容で裏裁判起こせたらシャレにならないからね」
「た、たしかに…」
苦笑いするユカ。
「まぁ細かい話は追い追い話すとして、ひとつ言えるのは"裏裁判"でキミのお金は取り戻せるかもしれない」
「…!」
ユカはスマホを両手で握りアプリ名『トリビュナル』を改めて見る
「トリビュナルはかなり やり手 の組織だからね。相手が逃げ回る犯罪者でも裏裁判の開廷が決定するとどんな手を使っても法廷に引きずり出すからすごいよ…」
コーヒーを飲んで鼻で笑いながら言う花桐。
ユカはあの詐欺師である女社長"布川"の顔を思い出す。
そして次に頭に浮かべるのは両親の優しい笑顔。
…自分のために出してくれた300万円
「お父さん…お母さん……」
少し涙を浮かべるユカだが、
すぐに腕でぬぐいオレンジジュースを一気飲みして机にコップを叩きつける。
びくっとする花桐…
「やります…!私やります…!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――花桐とユカは場所を移し居酒屋へと来ていた。
チューハイを一気飲みするユカ。
「でね!!!むかつくんですよホントッ…!!!」
すでに酔っぱらっているユカは詐欺被害の愚痴を言っている。
花桐は少しひいている…
(裏裁判では依頼者との連携が必要なゲーム多いから色々仲良くなっとこうと思ったのに…)
苦笑いしながら、べらべらしゃべるユカを眺める。
「あ、ユカちゃん、声優さん目指してるんだっけ?」
苗字で呼んでいたが仲良くなるために下の名前で呼ぶ事にする。
「はいっ!声優王に私はなりますっ!!花桐さんおいくつですかっ!?」
「え!?なんで急にそんな話飛んだっ!?」
「いいからいいからお兄さん」
(酒で豹変するタイプか…)
花桐はビールを一口飲む
「25歳だよ」
「へえー」
ユカはニコニコとヘラヘラしている…
「興味ないでしょユカちゃん」
「ありますあります!ばちくそに!」
「汚い言葉使わないの女の子なんだから…」
溜め息をついて花桐は口を開く…
「ユカちゃん、大事な事言うの忘れてた」
「え?」
ユカは酔ってはいるが真剣に聞く姿勢になる
「裏裁判を起こす場合、俺達サロゲートに依頼するお金が必要になる。最低金額は5万円」
「…!」
「システムを説明すると俺達サロゲートは司法機関『トリビュナル』に所属している仕組みになってる。
イメージ派遣人員みたいなもんだから専業のサロゲートはほぼいない。
副業で登録している奴ばかりだな…。
そして裏裁判を起こす場合サロゲートを雇わず本人が立ち向かう事もできるけど相手がサロゲートを雇ったら勝つのは難しいと思う。
サロゲートに依頼するためには5万円~50万円の範囲で依頼料を決める。
そして俺達サロゲート側はその依頼を"案件"として全員がアプリで見れるようになってて、
引き受けたいかどうか立候補する形になってる。
だから高額であればあるほどサロゲートが殺到する。
依頼者は立候補してきたサロゲートを一覧で見る事ができて選ぶ事が可能。
サロゲートが優秀かどうかの判断軸としてサロゲートが今まで依頼された総金額が表示される。
あ、あとサロゲートとしての活動年月もね」
「5万円………」
正直、ユカにとって厳しい。
アルバイトはしているが貯金はほとんどない…
「もし厳しそうなら俺が前貸ししてあげてもいいけど?」
「え?」
「遠慮しなくていいよ。なんせ俺は最初から相手から300万円以上を取るつもりでいるからね…」
「…!」
「500万円を要求するつもり。余剰な資金は俺がもらうからさ…」
「そ、そんなことやっていいんですか…?」
「相手が同意すれば可能さ」
ビールを飲む。
「あの…花桐さん」
「ん?」
じっと花桐の目を見てユカは言う。
「なんで私にここまで良くしてくれるんですか…?」
「…!」
フラッシュバックするあの光景…
花桐が幼少期に見た、
自宅の飲食店にて首吊り自害で吊られた男の身体…




