第8話
(なんのつもりだ花桐…?
どうせ負けないのをいい事にやはり遊んでいるのか…?
布川さんの咳が聞こえた以上こっちが勝っている…)
「勝負が成立しました。
夏井様、『草』カード。
布川様、『炎』カード。
よって布川様の勝利となります。
ライフポイントとして配布しておりますチップ10枚の内、
夏井様は1枚の提出をお願いします」
ライフポイントが1減ったと言う意味だ。
ユカは三大寺にチップ1枚を渡す…。
蜂須は横目で花桐を見て胸中で言葉を続ける。
(やはりこちらの勝ち…)
一方の花桐も薄ら笑いで横目で蜂須を見ている。
スピーカーの向こうで三大寺が再び仕切りなおして始める。
「それでは次の試合に移ります。最大1分間のカード選択を開始してください」
今度もユカと布川は会話なしで10秒ほどで選択を終えた。
三大寺の合図で同時に出す。
「質疑応答のフェーズに移ります。
次は再び花桐様が先攻となります。
1分間の質疑応答を開始してください」
「んーさっき負けちゃったよ布川さーん」
「あなたバカなの?なにがしたいの?」
「今度は教えてよカード」
「体調悪いんだからバカな質問はやめて…」
「バカは風邪ひかないんで
風邪の気持ちがわからないんですよー♪
つまりバカな俺は風邪ひいた事ないから布川さんが
"本当に風邪をひいているかどうか"
ぜんぜんわからないんですよー♪」
「…!」
とピクリと反応したのは布川だ。
蜂須は届かない言葉を胸中で言う…
(動揺するなよあのおばさんめ…。
何回も言うように合図はバレてもいいんだ…。
バレたところで止める術はない…)
…結局、バカみたいな会話で質疑応答は30秒で終わり、
続いては蜂須がユカに質疑応答する番だ。
(どうせまたゴンちゃんが来るのか…?)
とスピーカーを黙って見ていると…
「ゲホッ!ゴホッ!」
布川の咳の声の合図のあとにすぐ
「えっとですね蜂須さん!」
大きな声で発言するユカ。
「実は、わ、わたし、ゴンちゃんだけじゃなくてギンちゃんも好きなんですっ…!!!」
「…」
「ゴンちゃんの友達のギンちゃんっ…!!!」
「…」
「ギンちゃんはかっこいいタイプでっ…!そっ、それでっ…!」
ギンちゃんの紹介をしている最中に30秒経過…。
「質疑応答は以上で結構です」
蜂須はユカの声をさえぎるように三大寺へそう告げる…。
「ゲホッ!コホッ!」
その間も布川の咳の声は聞こえてくる。
「それでは勝負の有無を決めるフェーズへ移ります。
先攻の花桐様に先にお聞きします」
勝負に乗る場合は『コール』。
勝負を降りる場合は『フォールド』。
「フォールド」
蜂須は花桐を横目で見る…
(今度はフォールドか…)
「今回、先攻の花桐様が『フォールド』を宣言されましたため勝負が成立しない事が確定いたしました。
しかしさきほども説明させて頂きました通り後攻の蜂須様はどちらを宣言するつもりだったかお聞きします。
真意でも嘘でも良いのでお答え願います」
「コールでした…」
嘘を言っても何も効果がないと感じた蜂須は真意を言った。
「では次の試合に移ります。最大1分間のカード選択を開始してください」
(…ったく……)
次の試合もくだらない運びであった。
蜂須はあきれながらゲームを進めていた。
布川の咳の声はない。
ユカが質疑応答で再びゴンちゃんの魅力を語り出す。
そして蜂須が『フォールド』により勝負不成立。
花桐は『コール』のつもりだったと発言…
(時間の無駄ではないのか…?)
蜂須は昨日も思ったが
いくらやってもこのゲームは
"引き分けに終着するゲーム"
でしかないのだ。
10回連続勝負が成立しなかった場合に引き分けとなり日を改めて新規ゲームを開催。
このルールがあるだけで負けない。
そう。
よほどバカな立ち回りをしない限り、
実は"合図"がなくてもそもそも負けないのだ。
なぜなら例えばライフポイントが残り1枚のチップまで追い込まれたとする。
その直後からは全て『フォールド』でゲームを10回降りれば確実に負けない。
もし「10回連続勝負が成立しなかった場合に残りのチップ数が多い方が勝訴です」と言うルールの場合でも変わらない。
それならよほど運勝負にかけない限り最初から勝負せずに10回『フォールド』すればお互い10枚で引き分けで終わるだけなのだ。
これが"確実に負けない方法"…
じゃあなぜわざわざ必要のない合図なんかつくったのかと言うと、
中には本当に運で真っ向勝負してくるサロゲートもいる。
実は"勝利"を目的とせずただの"ギャンブル中毒"や"ギャンブル狂"に陥っているサロゲートもいるのだ。
そう言うバカな相手に当たれば合図さえつくっておけば
勝てる可能性が0%ではないルールだったのが今回のゲームだ。
言い方を変えれば合図をつくっておいてデメリットは何もないと言う事だ…。
(私は今回3回目の裏裁判だが…
このトリビュナルと言う機関は何を考えている…?
こんな時間の無駄なゲームをやらせて…)
次のカード選択時間が開始する中で蜂須はそう考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――トリビュナルが所有する高層ビル。
そのビルのとある一室…
巨大なモニターと複数のモニターに花桐や蜂須達の勝負の様子が映っている。
「こっちは…おじさんと若造の勝負かぁ」
そのモニターに映る2人を見て黒スーツの眼鏡をかけた白髪混じりの男が言う。
名を"薊蓮真"…
「このおじさん…なんか考えてるなぁ…?」
年齢は43歳。
「無駄なゲームだって思ってんだろうな…?
でもサロゲートならそう考えてるのはダメなんだよなぁ」
肩書 サロゲート管理室 室長
…スナック菓子を食べながらリラックスしてモニターを見ているこの男自身はサロゲートではない。
あくまでトリビュナルに正式に属する者である。
見た目は長身でガタイは大きく格闘技経験がありそうな見た目だ。
「"どう考えても引き分けに終わるゲーム"…」
一般社会のサラリーマンのデスクにあるようなイスに薊は座っている。
そのイスは基本的に回転するのでまわって遊びながら口を開く…
「この"どう考えても引き分けに終わるゲーム"の中で
"どう勝利に導くか"をできるのが一流のサロゲートだぜ…?」
くるくるとまわりそのまま自然と静止する。
「"引き分けに終わるゲーム"だからただ流す…それじゃ二流か三流だぁ……」
そのイスの回転が静止した角度はちょうどモニター側…
そのモニターに花桐のうすら笑いの表情が映っている。
「…」
薊は立ち上がる。
「そう言えばこいつ…」
実は薊はこうやって部屋にこもってモニターを眺めているのが本業ではない。
サロゲート資格試験の試験官のトップをやったりサロゲートが不正を起こした際の制裁など
そのほか細かい業務もあるが基本的にサロゲートに関する業務を取り仕切っている。
「…」
サロゲートの資格試験は裏裁判と同じようなゲームが課される。
その中で一定以上の成果を挙げた者が合格となる。
薊は覚えている。
2年か3年前に行われたサロゲート資格試験に花桐がいた。
トップ成績で通過したのを覚えている。
今モニターで見ている裏裁判の資料を改めて手に取り花桐が載っているページを開く。
「花桐…綺麗な名前だから忘れもしない……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ユカ達の裏裁判は膠着状態になっていた。
すでに5回は勝負不成立で流れている段階だ。
つまりあと5回勝負が流れれば引き分けでの終了となる。
カード選択時間が終了してユカと布川はオープンする。
質疑応答は蜂須が先攻。
「ゲホッ!ゴホッ!!」
布川の咳の声が聞こえる。
「ギンちゃんなんですけど川で釣りをしてた時に光る石を拾った事があるんですよっ…!!」
「ゲホッ!ゴホッ!!」
「…」
再び30秒経過した途端にユカの声をさえぎるように蜂須は質疑応答を切り上げた。
そして花桐が布川に質疑応答する番だ。
三流詐欺師、などの言葉を使って懲りずに布川を怒らせる…。
結局無駄な30秒…。
よくもまぁ飽きずに布川を挑発できるもんだなと蜂須は逆に感心する。
「勝負の有無を決めるフェーズへ移ります。
今回は蜂須様に先にお聞きします。
それでは蜂須様、宣言をお願いします」
勝負に乗る場合は『コール』。
勝負を降りる場合は『フォールド』。
「コール…」
今回も布川の咳があったためコールを宣言…
「では花桐さ…」
「コール」
「…!」
2度目の謎のコール…
蜂須は目を細めて花桐を見る。
(花桐…なにをしている……?
無駄にゲームを引き延ばしている…?
いや、それとも…)
――モニタールームの薊が冷ややかな笑みで言う…。
「"引き分けで終わらせたくない"…
つまり本気で勝ちに行く算段があると言う事だな…?」




