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エピローグ:新しい地図
5月、ゴールデンウィーク。
聡は再び、前穂高岳の登山口に立っていた。
今回は、半年前のような「脳を強制シャットダウンするための逃避」ではない。
しっかりと睡眠をとり、体調を整え、二日前の最新の気象情報を精査し、エスケープルートを何パターンもシミュレーションした上での、純粋な趣味としての登山だった。
ザックのサイドポケットには、あの時壊れなかったスマートウォッチが、フル充電された状態で時を刻んでいる。
靴紐をきつく締め直し、聡はドアを開けるようにして、新緑の登山道へと一歩を踏み出した。
初夏の爽やかな風が、彼の頬を撫でた。
「よし、行こう」
彼の視線の先には、もう深い霧はない。
ただ、自分の力で一歩ずつ登り、そして無事に降りてくるべき、美しく切り立った稜線が、青空の下で静かに彼を待っていた。




