第7章:無事なる下山
2週間延びたとはいえ、マージンの薄い開発スケジュールであることに変わりはなかった。
ここからの遅延は一秒たりとも許されない。
聡は復帰翌日から、誰よりも冷徹にタスクを管理した。
「木村、お前が担当しているその処理方式だと、結合テストの段階でデータ不整合の手戻りが発生するリスクがある。設計をよりシンプルなクラス構成に切り替えて、バグの入り込む余地を最初から潰しておこう」
「山下さん、その便利機能は今回のフェーズ1には不要です。工数が膨らむ原因になります。今は動作保証に必要な、最小限の機能だけに絞ってリリース日を目指しましょう」
聡の指示は具体的で、誰もが納得できるものだった。
山でのサバイバルを経て、彼には「限られたリソースの中で、破綻せずに結果を出すための優先順位」が、完全にクリアに見えていた。
木村も、最初は事故を起こした聡に対して冷ややかだったが、聡が率先して泥臭いコードの整理を引き受け、かつクライアントからの無理な要求に対して自分が盾となって動き続ける姿を見て、次第に信頼を寄せるようになっていった。
「志賀さん、ここの例外処理、よりシンプルな構造に書き直しました。これでどうですか」
「完璧だ、木村。これなら本番でフリーズすることはない」
――12月25日。フェーズ1、本番リリース当日。
「全サーバー、移行完了。バグ、ゼロ。決済システム、正常稼働中」
開発ルームのログ監視ツールが、綺麗なグリーンのラインを描き続けた。
その瞬間、静まり返っていた部屋に、わっと歓声が上がった。 翌年の1月末、フェーズ2の最終リリースも完全に無風で終わり、炎上していたプロジェクトは、最終的に「障害発生率、過去最低」という実績を残して完全に着地した。




