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出来損ないの妹よ、オレについて来い  作者: 河島アドミ


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第三十五話:待ち続ける妹

窓の外、店の入口に小さな少女が座っている。

壁時計に視線を向けると、既に日付を(また)いでいた。


「……」


天笠花(あまがさばな)は、怖い。

それでも琴葉(ことは)は立ち上がると階段を降りていった。





「ユキちゃーん。寒いよー。お部屋戻ろうよ」


順番待ち用の椅子に座るユキは動かない。

しょうがないので、琴葉も隣に腰掛ける。


「リンさん、友達と飲みに行ったんじゃないかな?」

「……」


そっとユキの手を繋ぐが、もう身体は冷え切っていた。


「湯冷めするよ。戻ろう?」

「お風呂入ってない」

「入ろうよ……」


都市伝説の存在だと思っていた、風呂スキップ民らしい。

さてここからどうしよう、と琴葉が考えると、ユキは申し訳なさそうに笑顔を作った。


「ごめんね琴葉さん。もうちょっと、ここに居たいな」

「……」


心配になる気持ちはわかる。

あの全てに機械的な田中リンが、深夜を過ぎて帰ってこないのはあまり考えにくい。


何かの事件や事故に巻き込まれたと思うのは当然だろう。



「もーーー。わかったよ。私もここで待ってるね」

「琴葉さん……」


ドテラを脱ぐと、ユキにくっついて二人で羽織るように上から掛けた。


「ほら、二人ならあったかいよね」

「……」


むう……と、ユキは難しい顔をして見せた。


「迷惑かけるから、琴葉さんは戻ってほしい……」

「大丈夫だよ。私、明日は一日オフだから」

「え、単位は?」

「…………」


むにっ、とユキのほっぺをつねった。



「いひゃくない」

「あ、でもすごいね。お星さまがキレイだね」


これは田舎の特権であり、満点の星空が広がる。

中央にはキレイな満月が燦々と輝いている。



地球は球体である。

それは、空のグラデーションを見れば確かにと納得ができるほど、美しい夜空だった。


そんな楽しげに微笑みを作る琴葉を、ユキも少し穏やかに眺めた。


「琴葉さんは良い人だよね。頭悪いみたいだけど」

「ユキちゃーーーん。お兄ちゃんから悪い影響受けてるぞー」


リンは嫌いみたいだが、稲村(いなむら)琴葉は少し抜けているお茶目な良い人。

でもそれが、普通の20歳前後の年齢なんだろう。


(リンは――間違いなく年配だ)


70歳か80歳か、どんなに若くても50歳は越えているだろう。

だからこその知識量とバイタリティ。


本人は浅学非才とよく口にするが、そもそもそんな言葉を使う若者はいない。


リンは言っていた。

カタリへの復讐と同じような境遇だと。



この島に、カタリはいない。

ただしリンの方はわからない。



リンはこの身体の持ち主がいるなら、返すことこそ道徳だと言っていた。

つまり、ユキと同じく前世とは違う入れ物(身体)だ。



結論として――身バレしていない以上、敵に奇襲をかけられた可能性は著しく低い。

雨は降ってないので土砂崩れもないし、救急車のサイレンも聞こえないので事故もないだろう。



それでいて急に飲みに行くとか、女のケツを追っかけたりとか、そういうタイプの人間じゃない。

明日の仕事に影響を及ぼすのを、リンは何よりも嫌う。



徹底した仕事振りを犠牲にしてまで今を優先する刹那的な考えは真逆。

導き出される結論は一つだけ。


(会ったんだ――3人目と)



「ん? あれ、何か光ってるね。ホタルかな?」

琴葉がそう言うと、茂みの中から薄っすらと放つ異彩の光を視認した。


消えそうなほど小さい赤色は、ぼんやりとコチラを眺めていた。


ユキは近づいて確認する。

客が多い駐車場、その杭の中に隠すようにソレはあった。


「カメラだね」

「ああ、リンさんですね」



琴葉が刺されて以降――言葉にはしなかったが、リンは店内、店外に加えて一本道のセンサーライトなど、防犯対策も強化した。


店内8箇所、店外12個所の計20のカメラは、店主やユキの携帯でも確認が出来るようになった。


「便利な世の中だよねー」


以前はあれだけネットに繋ぐなと厳しく指摘していたリンだったが、結局身内の安全面には優しいのかとユキは解釈した。


だけど冷静に考えれば、それは少し違った。

結局本命となる山道のカメラだけは別個に用意する徹底ぶりを理解すると、リンらしいなあとしみじみ思う。



「私あんまり、機械わからなくて……ユキちゃん、わかる?」

「うん。これで見えるよ」


携帯を取り出すと、画面いっぱいに区分されたカメラが表示された。


「お釣り誤魔化すお客さん居ても、これでわかるね」

「つまみ食いもバレちゃうね」


あはは、と笑うと今度は外観用に切り替える。



センサー感知でライトが発光する仕掛けは、心理的に防犯対策にも効果的だとかなんだとか。


長々喋っていたが、なんとなくわかるので聞き流していた。



「――ん?」


携帯を操作する。

先程の店内のカメラが一斉に表示され、その後店外のカメラも確認する。

一つずつ開き、拡大して細部を見るが……。


「――ッ!?」

悪寒が走った。


「ユキちゃん……?」


青ざめるユキに対し心配する琴葉だったが、それどころじゃない。

ユキは再び監視カメラを確認する。



「…………」

ユキは、理解した。


「琴葉さん、もう休もうか」

「え、うん……でもユキちゃんも」

「うん。ワタシも明日はお仕事だから、もう寝るね」

「うん……わかった」


ありがとう、と折れてくれたユキに対して、微笑みを向ける琴葉。

釣られて笑顔を返すが、ユキの胸中穏やかではない。



(そうか……!)


三人目。

天笠花ほどではないにせよ、そういう悪魔の類だと勝手に決めつけていた。


世界を白銀に染め上げる、だったか、そういうフレーズでてっきり勘違いしていた。


もし今、ここに兄が居たら妹に対してやれやれと頭を抱えていただろう。


"三人目も――リンと同タイプだとしたら?"


ユキは琴葉にくっつきながら、一緒に家に帰った。

背景に"スマホに繋がっていないカメラに"監視されながら。

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