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出来損ないの妹よ、オレについて来い  作者: 河島アドミ


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第二十七話:孤独に手を伸ばす化物

琴葉(ことは)さんは、変わった。

或いは、本来の形に戻った、と言う方が正しいかもしれない。



ワタシは天笠花(あまがさばな)



そんなことも忘れていた。


皆がワタシの顔色を伺う。

例外はない。


腫れ物に触るように愛想笑いを浮かべると、その笑みの奥に隠れた緊張が手に取るように伝わる。


そんな日常をどう思っていたのか?

永い間、生まれてからずっとワタシは天笠花だった。



今にして思えば、きっとこの妹という役を楽しんでいたのはワタシ自身だったのだろう。



優しく接してくれる近所のお姉さんが居る。

ピーマンを食べろとぶつぶつ文句を言う店長さんが居る。

融通(ゆうずう)が利かない兄が居る。



生存戦略のために始めたはずのきっかけが、

いつの間にか自分の中でくだらない家族ごっこになっていた。



そのくだらない家族ごっこを一番楽しんでいたのが自分だと言うのが、笑えない。



何もない、ただ時を浪費するだけの怠惰な日常。

こんなくだらない毎日を、かけがえのない時間だと伝えれば、きっとみんな、バカにするだろう。



――でも。


涙は出なかった。

ワタシは復讐者。悪魔を匿う天笠花。


それでも、この時は、

楽しかった。




琴葉さんの目が、忘れられない。

悪魔に媚びる、怯えた目。



(ワタシは助けたのに――!)

(助けてあげたのに――ッ!)

(ワタシが普通の人なら、琴葉さんのせいで殺されてたのに――!)



心の叫びは、胸から出ることはなかった。



――琴葉さんは悪くない。

悪魔は、コワイんだ。



ワタシは、天笠花。

復讐のためなら。

カタリを皆殺しにするなら、なんでもやる。



……それでも。


もし、

もしも。


もし、ワタシを。

天笠花を知った上で、ワタシと手を取ってくれるような、



……そんな、弱い妄想が過ぎるほどには、

ワタシは人の温もりに飢えていたのかもしれない。



だから、こんなくだらない家族ごっこを有難がって……!



天笠花を知れば、人は離れる。

ワタシは悪魔で、化物で、怪物で、神で――。


知られたら、もう終わりだ。

こんなワタシを知ったら、誰もが――……。





「次の質問だ。天笠花が操作できる時間は?」

「ずっと。多分百年ぐらいだと思う」

ふむ、と男は頷く。


「次の質問だ。先天的に四肢に欠陥を持って生まれてきた対象に種を植え付けた場合、その被検体の手足は生えるのか?」

「……わからない」


ふむふむ、と満足そうにその男は頷いた。

試す価値有り、と呟くと番号に◯を付けていく。



木々の間を風が通り抜け、葉が揺れる音だけが続いていた。

スマホは五十メートル先に置いてある。

この場所を凛太郎(りんたろう)が選ぶ理由は、もうわかっていた。



「次の質問だ。複数人同時に種を植え付けた場合、上限はあるか?」

「あの……リン?」


どうした? と不思議そうに首を傾げる。

どう考えてもお前おかしいだろと思うが、なんて切り出せばいいものか……。



「えっと……それ、答える意味あるの?」

当然だと言わんばかりに、兄と呼んでいた男は大きく頷いた。



「例えばカタリという個体が村に混じっていたとしよう。集会を開いて一箇所に集める」

「……うん」


誰がカタリかわからない状況でも、何かしら集めることはできるだろう。



「そこで催涙ガスを流し全員眠らせる」

「う、うん……」


まあ……想像は出来る。


「即死しないように一人ずつ刺しながら、天笠の種を植え付ける」

「…………」



「そしてカタリを名乗る者が現れるまで殺し合いをさせる。尤も、種が入った状態であれば回復するのが前提だ。仮に首を折ればダメだとか制約があれば、そこだけプロテクターで防御すれば問題ない」

「…………」



琴葉さんは、間違ってない。

事実、天笠花である自分でさえ目の前の男になんとも言語化しづらい不快感を覚える。



「リン、道徳は?」

「今は効率の話だ」

「そっかー」


ワタシのお兄ちゃんはもうダメみたいだ。



「しかし操れるというのが良いな。死体解剖さえ避ければカメラや通信機器には我々の足跡が付かない。食べるという証拠隠滅もあるが、彼らの手で焼き払って貰えば処理も楽だ」


うんうんと頷く。


渇望(かつぼう)していた、天笠花を知って尚態度を変えない唯一の相手だが、なんか違うんだよな。


(うーん、うん。なんか違うな。こういうのじゃないんだよ)



「ねえ、リンって漢字はもしかして『倫理』のリンだったりする?」

「オレの情報をユキに喋るわけがないだろう」


一周回ってこの男は凄いなと思ってきた。



「次の質問だ。天笠の種というのは、食品に入れるだけで効果は出るのか? 具体的に、大手食品チェーンに勤め、そこで種を仕込むとする。全国民。なんなら全世界に天笠の種を飲ませ――」

「ねえリン……うーん……」



この男は、徹底した完璧主義だ。

それは彼の仕事振りからも伝わる。


やらないなら諦めろ。

逆にやるなら徹底的にやれ――それを体現してきたのは見て取れる。



「しかしユキ自身わからないことが多いのは面白いな。早速琴葉を被検体にしてみたいところだが、それは心が痛い」

「え、リンって心あるの?」

「……オレをなんだと思っている?」

やべーヤツだよ。



「世界で数千人死ぬニュースを見ても、我々はなんとも思わない。しかし同じ日本人なら少し悲しくなり、親族や友人、家族となれば悲しみが大きくなる」

白い煙を巻き上げ、タメを作ってから、


「これを『モラル・サークル』と言う」

どうせわからんだろう、と得意気な顔だが、それはその通り。

用語はわからないが、リンの言う感覚はある程度は伝わる。


「う、うん……で?」


やれやれ、とため息を吐いて見せる。



「理解が悪いな。顔見知りの琴葉が苦しめば心が痛むだろう。だから今まで接触のない被検体を探し、それで実験を行う。そうすればみんなハッピーだろう」

「えっと……被検体ってなに?」

「ん? 映画とかでよく、ネズミを使ったマウス実験とかあるだろう。ここではそれの人間バージョンを指す」

「そっかー」


やったね。これでまた一つ賢くなったね。



「えっと……リン? その、被検体ってやつになる子は……全然ハッピーじゃないよね?」


質問に対し、この男はなるほどと答える。

そこから説明が必要かと、生まれた時から上から目線だったんだろう。



「日本における10代の自殺数は年間700人ほど。不慮の事故は年間300人ほど。病死が確か……100か、200か。それぐらいだったはずだ」

うん、と相槌をするのも面倒になってきた。


「ふむ。不運だなあ」

「…………」


天笠花を知って、尚且つ変わらない関係をずっと欲しがっていたけど……ねえ。


これは……なんか、違うよなあ。

当たりかハズレで言えば、多分リンはハズレだと思う。というかこれが当たりだと絶対に認めたくない。



「フッ。言いたいことはわからんでもない。ただ、その不幸の選定を神が行うかオレが行うかの違いだ。些事だろう」

「サジってなに?」


「つまらない、ささいな事柄」

「そっかー」


うーん。なるほど。そうきたかー。

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