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イーストコースト

 ニュージーランド北島の東海岸イーストコーストは、美しいビーチを持つコロマンデル半島や、肥沃な土壌と温暖な気候を活かしたワインの産地であるギズボーンとホークスベイ地区があるにもかかわらず、それほど観光化されておらず、ニュージーランドらしさを残す地域で、またマオリ文化が息づく聖地である。

 世界で最も早く日の出が見られる場所の一つであるイーストケープには、マウイ神が釣り上げた大地で、最初に海上に現れたとされるヒクランギ山があり、マウイ神の直系の子孫であると自負するナティ・ポロウ族にとっては神聖な場所である。

 マオリ族の中で2番目に大きい規模を持つ主要部族のナティ・ポロウ族によるマオリ神話に耳を傾けながら、マウイ神の彫刻を見学するハイキングや、四輪駆動車のツアーに、山頂で日の出を見るトラッキングツアーなどが催行されている。またナティ・ポロウの聖地で収穫されたマヌカハニーもブランド名として有名である。

 ワインで有名なギズボーンは、イーストコースト地区での中心都市であり、日付変更線に近いことから世界一早い朝を迎える街である。アールデコ調の建築物が密集している珍しい街ネイピアは、王子ホールディングスがパルプ事業を開始した街でもあり、それらの積荷港があったこの街の名が、ティッシュ『ネピア』の名の由来である。ホークスベイ地区にはサメと泳げる水族館や、世界最大のカツオドリのコロニーに加え、山中の温泉など、ひと味違う体験ができる場所が多く存在する。


 モアナのワカに備え付けてある椅子にアロハを座らせ、マウイ神が厳しい表情で奪い返したTIKIを彼女の目前に掲げると思考を読み取る。

 そんな主の様子を見守りながら、モアナはマナを集中させると警告なく、迅速にワカを出航させたため、海が怖いウルタプがモアナの尻に蹴りを入れた。その様子が緊張していたカイの頬を緩ませる。

「外国とは・・・くそっ」

「あははは、そう、救出なんて無理よ。あんたの力が発揮できない国で捕まってるからね」

 蔓で身体が拘束されているにも拘わらず、満足げに告げたアロハだったが、外洋に視線を移すと眉間にシワを寄せる。

「マリエか」

 アロハと向き合っていたマウイ神は背後に気配を感じると名を呼んだ。

「マウイ殿、この度は蘇ってくれたこと恩にき・・・ます」

「カイに謝れ」

 凄みをきかせた太い声でマリエの言葉を遮るとマウイ神は振り返り、彼女に厳しい視線をおくる。

 海族の女王マリエが再びカイの前に姿を現すが、カイの視界には彼女の隣に立つ兄ランギしか入っていなかった。カイに対する兄の本心を知ってしまったカイは、気安く声を掛けることができず無言で彼を見つめていると、熱くなったマウイ神のマナを感じハッとする。

「マウイ神?」

「そうであるな。わらわの我儘でカイを傷つけたかもしれん」

「しれんじゃないっ! こいつはマナを暴走させるほど動揺したんだ。俺様を蘇らせるために忌々しい」

 不快感を全身で表したマウイ神は肩から湯気がでるような勢いで更にマナに熱をこめる。

「非常事態とはいえ、すまなかった。許してくだされ」

 マリエはマオリ神の怒りに反論もせず素直に応じるとカイに深々と頭を下げるが、カイにはマウイ神の言葉もマリエの謝罪も鼓膜に響かず、ただ兄ランギに寂し気な眼差しをむける。

「マリエ様、よろしいでしょうか?」

「ランギ、もちろんです。お願いしますよ」

「はい」

 ランギはマリエの耳元で小さく囁き、彼女に軽く頭を下げる。その親し気な姿にカイは、刺された部位に抉られるような痛みを感じると、その場を離れようとする。

「カイ」

 心に響く優しい兄の声に思わず振り返ってしまったカイだが、ランギが自分に向かって歩みを進めてくることに、恐ろしい記憶がよみがえると後ずさりをしてしまう。

「カイ、怖がらないでくれ、話をしないか?」

「兄貴・・ 俺・・ 俺・・」

 兄への思いが次々と噴き出してくるが、喉の奥で詰まると言葉の変わりに涙があふれ出てしまう。

「マリエ、色々と説明しろ」

「はい」

 不機嫌な様子のマオリ神は、カイの隣をランギと交代するとマリエの前に仁王立ちする。

「カイ、お前を刺すなど・・ 痛かっただろ。本当にすまない。マリエ様からマオリ神は必ず生贄を蘇らせると聞いていたが、それでも、俺はお前にあんな恐ろしいことして、本当にごめんなさい」

 ランギは反省と後悔の念で押しつぶされそうになると息が上がってしまい、肩を上下させながらカイに深々と謝罪した。

「兄貴・・」

「それに、マウイ神を蘇らせる秘策だといえ、お前にひどい事を言って身体だけでなく心までも傷つけた。すまない」

 ランギは深々と頭を下げたまま苦しい呼吸で何度もカイに陳謝する。そんな兄の肩にカイは恐る恐る手を伸ばした。

「兄貴・・ 俺の方こそ、ごめんなさい。兄貴の気持ちを無視して甘えてばかりで・・」

 思いもよらない弟からの謝罪に、自分が放った言葉による攻撃の重みを身で感じ取ると、ランギは慌てて頭を上げる。

「カイ・・ あの時言ったことは嘘じゃない・・ お前に対して嫉妬することがあったのは事実だ・・」

 二度に渡って告げられた兄の自分に対する否定的な事実に意識が遠くなり、カイの視界が歪み始めると、その場でよろめいてしまうが、ランギが慌ててカイを支えた。

「弟に嫉妬するなんて最低な兄貴だよな。それでもお前は俺を尊敬してくれて、たっくさん愛してくれた。そんな弟が可愛くて仕方ないし、お前を誇らしく思うのも事実なんだ」

 優しく語りかけてくる兄の姿に、心の痛みが少し軽くなるとランギの腕を掴みながら目から涙が流れ出る。

「兄貴・・ 兄貴ぃ・・」

 再会して以来、ずっと押し殺していた感情が溢れ出し、しゃくりあげて泣き出したカイを、ランギが強く抱き締めた。

「傷付けてごめんな。ごめんな。カイが無事で良かった。本当に良かった」

「兄貴、会いたかったよぉ。親父がぁ・・」

「親父のことは聞いた。傍に居てやれなくてごめんな」

 乱れた呼吸を整えながらカイはランギの姿を瞳で捉えると、多くの疑問が脳裏を駆け巡る。

「話すことが沢山ある。大丈夫か?」

「うん」

 カイと向かい合い同時に座り込んだランギは優しく微笑んだ。

「俺も親父と同じで、月の女神がさらわれたことと、美月叔母さんが関係しているのを突き止めて、殺されかけた」

「そんなっ!」

「死にかけた俺を救ってくれたのが、海の女王マリエ様なんだ」

「そっか」

 マリエに対する感情が急激にポジティブに変わると、マウイ神と熱く話し込むマリエに感謝の表情をおくった。


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