秘湯
月の女神ヒナの救助と様々な異変を解決するために、ヒネから一旦解放されたマウイ神とカイは、レイノルドが連れ去られたと考えられるグレイトバリア島に到着していた。ヒネから能力を返してもらえたマウイ神は、カイと分離できたが、TIKIがないため人型にはなれずカイと僕以外は彼の姿を視力で捉えることはできなかった。結月達の安否を確認したいカイのために、マウイ神の能力で瞬時にハワイキからアリの別荘に到着する。
「皆が無事でよかった」
「カイも大丈夫でよかったよ」
お互いに無事を確認できたことに抱き合うと喜びを分かち合った。
「俺は、レイを助けに行ってくる。もう少し待っててくれ」
「うん・・・ あのね」
結月は何かを言いかけて俯いてしまう。
「あのさ、母ちゃんから連絡が来てさ、もう日本には帰らないらしい」
レイノルドやカイのように身体を乗っ取られたのではない結月達の母美月は、本来の自分であるアロハの魂を蘇らせたのだ。
「みっちゃんがっ・・ あの、みっちゃんがお前達を捨てるわけないだろ。レイと一緒に救い出す。待ってろ」
「う・・うん。ありがとう」
洞窟に現れた美月の恐ろしい姿が脳に焼き付いている結月と壮星は、大きな希望が持てず小さく頷く。
「カイは残れ」
「はぁ?」
想定外のマウイ神の言葉にカイは驚きの声が出てしまう。
「危険だ。俺様だけで問題ない」
「レイの身が心配なんだ。俺も行く。それにマウイの槍も必要だろ」
カイは強く主張すると自分の片目を指さした。
「そうだな・・槍は必要になるかもしれん。じゃ急ぐぞ」
そう告げたマウイ神がカイの肩を掴むと一瞬で結月達の前から消える。
TIKIとマウイ神の兄であるキワの気配を探索させていたツイツイやポウカイ達からの情報を元に、島の中心部にある温泉地に辿り着いたカイは、辺り一帯が異様な空気に包まれていることに胸の鼓動が早くなった。
グレイトバリア島の大自然に囲まれた天然の川に湧き出るカイトケ・ホットスプリングスは、平坦なウォーキングコースを30~40分歩いた先にあり、水着の着用が必須の無料の天然温泉である。シャワーや脱衣所の施設はなく、タオルも持参する必要があるが、肌や筋肉を癒す水と地元民から愛される秘湯では、川の上流と下流の温度差を楽しんだり、他ではできない体験が味わえる。
「レイっ!」
原生林の奥にレイノルドの姿を見つけたカイは大声で叫ぶと駆けつけようとするが、マウイ神に肩を掴まれる。
「ほぉっ・・ババ様に殺されなかったのか。それは残念」
「兄さん」
TIKIを完全に手中に収めたキワは、レイノルドの身体を乗っ取っており、レイノルドのマナを全く感じられないカイは、唇を強く噛むとマウイ神に肩を掴まれたままでも前へ進もうとする。
「レイっ! レイっ! そんな奴に乗っ取られるな」
「随分と威勢のいい器ですこと」
「みっちゃん」
結月達の母、美月の身体をもったアロハが、フェリーで襲ってきた黒い女と月狼を従えて現れた。
「アロハに加担していたのは、イヨ貴様だったか。母上を裏切るのか」
マウイ神は舌打ちをすると厳しい視線をアロハとキワに向ける。
「あの人・・ 俺をフェリーで襲ってきた」
その時、突風が吹き荒れその場にいるマウイ神以外の皆が腕で顔を覆った。
「主様、遅くなって申し訳ありません」
フアを始めマウイ神の僕4人がフアの風でマウイ神に追いつく。
「全て仕込まれていたようだな」
「あははははっ 今気づいたの」
アロハはキワ(レイノルド以下省略)の腕に自信の腕を絡ませると不気味な笑みを浮かべる。
「そうか、そういうことか・・・」
「相変わらずタマは使えないわね」
「全くでござる」
僕達は苦虫を嚙み潰したような顔をすると天を見上げる。
「どういうことだよ」
状況が掴めないカイはマウイ神と僕達を交互に見つめ説明を求めた。
「カイとうちを襲ったのはアロハ様とキワ様の仕業やっちゅうこった」
「そっか、TIKIが狙われたのも納得する」
カイは首にかかっていないTIKIがあるように胸元に手を置いた。
「目的は俺様の命だけではないようだな」
マウイ神は鋭い視線をアロハに向ける。
「協力者が多くてね」
そう告げると銃を構え軍服に身を包んだ十数人の部隊が現れ、じりじりとカイ達に詰め寄ってくる。
「人間まで巻き込んで、何を考えているの」
フアは右手の平を口元に添えると、フッと息を吹きかける。すると突風が軍人達を5メートルほど後ろに吹き飛ばし、川に水没させる。
「人間どもの望みよ。テ・イカを弱らせて支えている大地を沈めたいみたい。私なんかよりもよっぽど悪党よ」
アロハはずぶ濡れで川から這い上がってきた人間を冷たい視線で迎える。
「ちょっと待て、そんなことをしたら、日本が大変なことに・・・日本だけじゃない、太平洋に浮かぶ国々が沈んでしまうじゃないか」
カイは激高すると拳を握りながら声を荒げる。
「戦争するより楽なんだって」
「母上をさらったのも、そのためか」
カイとは違い重い口調でマウイ神が尋ねる。
「まぁ、私が月の女神になるためには邪魔だったしね。途中で計画がバレそうになって焦ったけど」
「どういうことだ」
「え? それは・・・」
アロハはニヤリと微笑むとカイと視線を合わる。
「お前まさか・・ 義海を」
「私が殺したんじゃないわよ」
アロハはそう告げると再び銃を構え整列した軍人達を横目で見つめた。
「どう・・いう・・こと。みっちゃん、親父をどうしたって言うんだ」
怒りで自身を見失ったカイは、アロハに詰め寄ろうとするが、再びマウイ神に止められる。
「放せっ!」
カイの身体から黒い影が浮かび上がると、一機に辺りを暗闇が包んだ。




