抵抗
マウイ神から数々の信じ難い話を聞かされた一同は、とても現実とは思えず言葉を失ってしまうが、目の前に立つ僕達の元来の姿が瞳に映ると、夢ではないと受け入れるしかなかった。失意の中、用意された食事にも手がつけられず、カイ達は外の空気を吸うためファレヌイから出ると赤く染まった陽の光を浴びる。
「もうこんな時間なんだね」
あっという間に終わろうとする一日に、全員は肩に重みを感じるとその場に座り込んだ。
緑と海に囲まれた美しい景色が目に映ると楽しかった旅が恋しく思え自然と目頭が熱くなる。
「明日の朝、空港へ送る。旅は終わりだ。支度をしておくように」
ただ茫然と沈んでいく夕日を眺めていたカイ達の背にマウイ神の声が届く。
「明日? あ、うん」
背後に立つマウイ神に振り返ったカイが力ない言葉で返答する。
「お前以外だぞ」
カイは、小さく頷いた後、結月達の反応を確認するため首を横に向けると、母を思う結月達の鼓膜にマウイ神の言葉は届いているようで、異論のある顔もしていたが、無言でただ赤く染まった海を眺めていた。
翌日の早朝に一行は、自分たちのスーツケースを取りに行くため、マウイ神の驚異的な力でアリの家に一瞬で到着していた。
「色々あってアリお爺さんの家に来たのが、昨日だったのか随分前だったのか、時間の感覚がないなぁ」
結月は、アリの家に入るや小声で呟くが、天井の高い玄関ホールでは彼女の声が木霊する。
「カイが襲われたりさ、あの時から始まってたんだな」
美しい青い海の景色が壮星の記憶を蘇らせたように言葉を零す。
「カイは残るんだよね」
「ああ、レイは家に帰るよな?」
結月達の準備を待つカイとレイノルドは、玄関ホールに備え付けてあるソファーに腰を下すと言葉を交わす。
「あのさ、僕って悪者なの?」
マウイ神の僕達の厳しい監視を常に感じていたレイノルドは苦笑いをつくると膝上で両手を組んだ。
「レイは悪くない」
「でもさ、僕がカイを変な洞窟に連れて行ったんだ・・」
「違うっ! それは違う・・・ 日食と兄貴と居た女のせいだ」
兄に拒絶された傷が癒えないカイには、結月達の帰国に寂しさが増しており、レイノルドまで失いたくなかったため、背後で控えるウルタプ達に険しい顔を向ける。
「あのさ、俺達、結月達の荷造りを手伝ってくるけど、ついてくるなよ」
「それは無理や」
「皆帰ってしまうんだ。暫く会えなくなるんだ。俺達だけで話をする時間くらいくれよ」
眉間にシワを寄せ強く訴えるカイに対して反論しようとしたウルタプの肩に手を置いて、マウイ神が僕達を制した。
「俺様が行こう」
そう告げるとスッと、カイと同化する。
「ちっ、俺達だけにはしてくれないんだな・・マウイ、大人しくしていろよ」
「おい、言葉遣いに気ぃつけや」
怒りマックスの僕達の視線を痛く感じたカイだったが、動じずに彼等に背を向けると、結月達の居る家の奥へと入って行く。
「そうだ、俺、結月達に土産を用意してたんだ」
「僕もあった」
そう告げたカイが、結月達が使っている部屋を通り越し、自分の部屋に向かうとレイノルドも同行する。
「あった。レイは土産何にしたんだ?」
カイは、スーパーマーケットのエコバックを手に取ると後ろに居るレイノルドに尋ねた。
「・・・・・カイ、逃げろ」
前かがみの姿勢で苦しそうなレイノルドがカイの瞳にうつる。
「カイ、行くなっ!」
「煩い」
マウイ神に行動を制されたカイだったが、レイノルドを憂慮する思いが勝ると、驚異的な力でマウイからのコントロールを跳ね除けた。
声を絞り上げカイに注意を促したレイノルドにカイが駆け寄った途端、レイノルドはカイのTIKIを震える手で奪い取った。
「レイっ!」
レイノルドの名を叫んだカイだが、腹部に痛みと生温さを感じると手で押さえながら後ずさりをする。
兄のランギに背中を刺された時と同様の感覚がカイを襲うと刺したレイノルドを見つめた。
「カ・・・イ、ご・・・めん・・ご・・ ちっ、なかなか強情な身体だな」
レイノルドは先ほどまでの彼らしい優しい表情から一転、冷ややかな目で自身の身体を何度も叩いてみせる。
「兄さん」
カイの口を通してマウイ神が告げると、レイノルドは不適な笑顔をつくり取り上げたTIKIを掲げる。
「お前はその器からは抜け出せない。力も使えない。お前はそいつの中で・・死ね」
レイノルドの姿を借りたマウイ神の兄キワがそう語りながら右手親指で自身の喉元を切る真似を見せた。
カイは腹部を押さえながら痛みで前に屈んでしまう。
「マウイ、レイノルドを助けて」
「残念ながら俺様は何も出来ぬ、巻き込んでスマナイ」
カイは、止血しようと血が滲む服を強く押すが、痛みが全身を駆け抜けると意識が遠くなってしまう。
「カイ、しっかりしろ」
「う・・ん、俺は立てないから、マウイだけでも逃げて」
カイは自分の中にあるマウイ神に強く訴えた。
「俺様はTIKIを介してお前の中を行き来している」
「え? どういうこと?」
カイは、先ほどまで胸元で光っていたTIKIが無いことに気付くと、レイノルドに奪われたことを思い出した。
「俺の中に閉じ込められたってこと?」
「そんな感じだな」
「来るぞ」
レイノルドの身体を操ったマウイ神の兄キワは、床に蹲るカイの肩に手を置くと強い力で引っ張り上げた。
「とどめだ」
そう告げたキワはナイフをカイの首に刺し込もうとする。
「い・・やだ」
レイノルドの意思が残る器はカイへの攻撃を拒み、強く抵抗するとナイフを手から外した。その時、主の異変を察知した僕達がカイの元に現れると、レイノルドの姿が一瞬にしてその場から消える。
結月達に用意した土産の入ったレイノルドのバックだけが床に転がっていた。




