双子の姉
カイに説明するのが先決だと考えたマウイ神であったが、異様なマナの接近に咄嗟にその場に居る全員を守る結界をつくった。
「え? お母さん?」
洞窟にできた不自然な割れ目から登場したのは結月と壮星の母美月であった。黒いマントを羽織、深くフードを被ったその下には、冷酷な笑みが隠れており、奇怪な姿に結月と壮星はそれ以上の言葉が出ずに唾を飲み込んだ。
「結月、壮星、会えてよかった」
右手でフードをとると、いつもの母の顔を見せた美月は胸元に手を置き安堵の表情を浮かべた。
「おかあ・・さん。お母さん」
結月と壮星は嬉しさから母に駆け寄ろうとしたため、マウイ神は結界を解除して結月達を通すが、カイだけはマウイ神はじめ僕達が取り囲んだ。
「俺の叔母だよ。大丈夫だよ」
結月の後に壮星と凛も続き、笑顔で美月を囲むなか、カイだけはマウイ神のせいで彼等に近づけないでいた。
「カイ、その人達はお知り合い? レイノルド君は? お土産を持ってきたよ」
満面の笑顔でいつものようにカイに語りかける美月は、手に持つエコバックを持ち上げてみせる。
「あ、うん」
マウイ神だけでなく僕達からも到底解放してもらえない雰囲気に苦笑いをつくると、カイは背後のレイノルドに視線を移す。
「あ、レイ」
先程まで横たわっていたはずのレイノルドが立ち上がっており、音もたてずに歩みを進めカイの隣を通り過ぎる。
「レイ?」
カイの呼びかけに聞こえているのか否か、レイノルドが無言のまま美月の方へと進んだ時、結月達に囲まれていたはずの美月が一瞬でレイノルドの前に移動した。
「ご苦労だったわね」
そう告げた美月は、レイノルドの首にかかるポウナムに手をかざすだけで、レイノルドから美月へと移動させると、美月の首元で不自然な黒い光を放つ。
「勝算はあるんだろうな」
「もちろんよ」
不敵な笑みを浮かべたレイノルドと美月が囁くように一言二言交わすと、レイノルドが彼本来に戻った。
「美月さん、無事に合流できてよかったね。ね、結月、壮星」
レイノルドは、態度が豹変したことや気を失っていたことが全て彼の中から削除されたように美月に挨拶をすると、秒速で移動した美月やカメレオンのように変わるレイノルドに驚きの表情を隠せない結月達にも声を掛ける。
「レイ」
レイノルドや皆の輪に入りたいカイの少しボリュームを上げて投げかけた声が洞窟内に響いた。
「もう、いいだろ」
カイを囲むように立ちはだかるマウイ神や僕達に強く訴えるが、それに対して返答はなく、それどころかマウイ神のマナがどんどんと強くなっていることに気付く。
「アロハ・・・ 全てお前の仕業か」
そう問いかけたマウイ神はアロハと呼ばれた美月の返事を待たずして、彼女の近くに居たレイノルド達を一瞬にしてカイの元に移動させる。
「マウイじゃない。とうとう復活したのね」
「母上をどうした」
不敵な笑みを浮かべる美月にマウイ神の太い声が降りそそる。
「人間どもに面白い事を教えてあげただけよ。奴らの方がよっぽど貪欲じゃない」
「人間・・・」
マウイ神の眉間に深いしわができると彼から湧き上がるマナの色が金緑色から赤へと変わる。
「これが手に入ったから、月は安泰よ。それじゃあね」
アロハ(美月)は愛おしそうに首元で光るポウナムを手に取ると、その場からスッと消えた。
「お母さんっ!」
結月と壮星にさえ何も告げず、目を合わせることなく去ってしまった母に、結月達は脳が理解を生み出せず、ただ母が居た場所を呆然と見つめるしかなかった。
「随分と勝手でござるな」
「そうね、あれが双子の姉なのね。初めて見たのに挨拶もないなんて」
結月達の気持ちを汲み取った僕達は彼等の傍に近づくと溜息をつく。
「どういう意味? 何か知っているのか?」
久しぶりに会えた母だったが、離れている間に彼女の身に何かあったのかもしれないと感じ取った壮星が僕達に詰め寄る。
「あれは、あんた等のオカンとちゃうで」
「ウルタプちゃん、どういうこと?」
目を赤くさせた結月がウルタプに尋ねた。
「あれはアロハ、月の女神でマウイ様の母様の姉上らしいわ」
「自分も今までその存在を知らなかったが」
「ぷっ、そんなわけないよ、もうっ、ウルタプちゃんたら」
「ウルタプ様、この状況でその冗談はきついです」
落ち込む結月達を励まそうとウルタプが冗談を言ったのだと理解した結月と壮星は、吹き出してしまう。
「残念だが嘘ではない」
ピクリとも笑わないモアナは壮星にいつになく優し気な表情で応える。
「何が起こってるの!」
ランギとの再会以来、できる限り冷静を装っていた凛が突如声を荒げると、その場にしゃがみ込み泣き出してしまう。
理解できない出来事の連続に心身とも疲弊していたカイ達の心の声を、凛が代弁しているように思え、皆、洞窟内に響く凛の泣き声に共鳴する。
「凛」
壮星も同様に座り込むと肩を震わせる凛の背を優しく摩った。
カイの兄ランギと同級生である凛は、ずっと彼に淡い恋心を抱いていた。それは壮星が凛に対する気持ちも同様であったため、ランギの失踪で喪失感に苛まれていた凛を支え続けた壮星の思いが凛に通じたのであった。だが、ランギの出現に彼女の心は揺さぶられてしまう。
「皆、俺達に分かるように説明してくれ」
カイは、マウイ神と僕達に真顔を向け強く主張すると拳を握った。




