復活
兄ランギに愛されていなかったと知ったカイは、ショックから正気を失うと、マウイ神の器であるが故に、マナの力を暴走させてしまう。海族の女王であるマリエがランギと共に逃げると、更に気持ちを逆上させ、その場にいる結月達にまで危険が及びそうになるが、TIKIがカイを包む闇を吸収すると輝く光を放ち始める。
「マウイ様」
「親方様」
「マウイ様」
「主様」
カイの暴走であったが、マウイ神のマナも感じていた僕達は、カイを止めるために力を使うこともできず、ただ結月達を守るしかできなかった。そんな状況から一転、マウイ神が戻ってきたことに安堵すると跪いた。
「はぁ――っ! マリエめ。卑怯な手をつかいよって」
意識を失い固い地面に横たわるカイの傍らに立つ人影が、優しくカイを浮かび上がらせるとカイの下に草木でできたクッションを敷く。
「マウイ様、今度こそ蘇っていただけるのですか?」
「カイのマナと俺様のが融合してしまったようだ」
うっすらと浮かびあがる影はマウイ神であり、逞しい腕を組むと何度も溜息をつく。
誰かの話声に目を覚ましたカイは、崩れそうな洞窟の天井を見つめた。自分を拒絶するランギの言葉が何度も耳に木霊すると目頭から涙が零れる。
「カイ、起きたか?」
聞き覚えのある声の方に視線を移すとぼんやりと浮かぶ人影が自分に話しかけているのだと気づくが、涙で歪んで見えるのか確かめるために目元を拭った。
「マウイ神?」
カイはそう告げるのと同時に身体を起こす。
今まではカイの身体がマウイ神に乗っ取られていたため、徐々に濃くなっていく人影に再び目を擦った。
カイの瞳に飛び込んできたのは、筋骨隆々の体躯に美しいタ・モコ(タトゥー)が彫られ、黒い長髪で美しい緑の瞳を持つ男性だった。
「カイ。大丈夫か?」
「俺生きてる・・何で? 俺が生贄にならないと、蘇るには俺の身体が必要なんじゃないのか?」
「カイ、言葉使いに気をつけや」
跪いていたウルタプが目を細めると先生が生徒に叱りつけるようにカイを諭す。
「構わん。カイと俺様を同等にあつかえ。それから皆も楽にしてよい」
「は・・・い。招致しました」
ウルタプは不服な面持ちだったが反論もせずにマウイ神に従うと、他の僕達と共にゆっくりと立ち上がった。
「主様、器がなくとも、この地に留まれるのですか?」
フアは、カイの攻撃で乱れた衣装と髪を、風を扱いながら整えマウイ神に話かけるが、その答えを聞かないうちにマウイ神が忽然と姿を消す。
「マウイ様っ!」
焦った僕達の前で座っていたカイが立ち上がるとニヤリと笑う。
「カイ、何がおかしい・・・あっ」
「人をかえして蘇るのは初めてだが、問題ないようだ」
カイの口を通してマウイ神が応えると、再びカイの身体から抜ける。
「カイ、俺様が身体を乗っ取ったとき、痛みを感じるか?」
「痛くないよ。むしろ力がみなぎる感じだよ」
「そうか」
カイの隣に立つマウイ神は、先ほどよりも、はっきりと姿を現すと、ほっとした顔をする。
「あの、さっき言ってた蘇るのは初めてって、どういう意味?」
「それは・・だな。ごほん・・ 蘇りたくないからだ」
想定外の返答にカイは絶句すると次の言葉が出なくなる。
「マウイ様は、お前にしたように、いつも生贄を蘇せて器を乗っ取らないのだ」
水が滴る音だけが聞こえる洞窟内では、そう応えたモアナの太い声がよく通った。
「慈悲深い親方様のご人情でござる」
「それだけじゃないでしょ」
モアナ達とは異なる意見を発したフアは小さく溜息をつく。
「フア、余計なことをカイに教えんでええ」
ウルタプは大きな身体のフアに上目遣いで睨みをいれる。
「俺は知りたいけど・・・」
僕達が放つ空気が若干重くなる中で、興味津々なカイが尋ねる。
「人間を殺すのが嫌なのと、また殺されるのが嫌なだけだ。な、兄さん」
マウイ神は突如レイノルドの方へ視線を移すと問いかけた。カイは意味が分からずにレイノルドの反応を眺めていると彼の首元のポウナムが、やはり金緑の光ではなく、玩具のような人工的な光を放っていた。
「ふっあはははは。相変わらず不愉快な奴だ。今度こそ息の根を止めてやる」
人相も身体つきも変貌したレイノルドが、毒舌を吐く。カイは、背筋に冷たいものが走ると、豹変したレイノルドに声をかけることも、駆け寄ることもできず、ただ茫然と立ち尽くしてしまう。
「はぁ―っ、相変わらずですね」
「この時を待っていたのだ。覚悟しておれ」
恐ろしい顔付きのレイノルドが再び言葉を吐くのと同時に、マウイ神の僕達4人が血の滾った様相でレイノルドを囲んだ。
「おい、レイに何もするなっ!」
僕の行動にハッとしたカイは大声で叫びながら、レイノルドに駆け寄ると同時に、レイノルドがその場で崩れ落ちてしまう。
「レイっ!」
レイノルドを囲む僕達を押し退けたカイは倒れ込むレイノルドを支える。
「お前等何をしたんだっ!」
いつもの冷静さを失ったカイは、激しい権幕で僕達を怒鳴りつけると、気を失ったレイノルドの頬を触る。
「カイ、大丈夫だ」
知らぬ間にカイの傍に移動していたマウイ神が、レイノルドを眺めながら地面に座り込むとカイに真剣な面持ちを向ける。
「カイお前には色々と教える必要があるな」
マウイ神がそう告げ、どこかに移動しようとした時、洞窟の一部が割けるような音が響き渡る。
その時、別の場所では美しい女性がハッとすると、鉄格子越しに空を見上げ憂いな表情を浮かべた。




