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傷心

 行方知らずだった兄ランギが現れたことを喜ぶ間もなく、ランギに襲われ致命傷をおったカイは、その場に蹲ってしまうと同時に、僕達のポウナム石が光を放つ。その光がカイのTIKIに吸収された途端、蹲っていたカイが立ち上がった。

 カイの髪がぐんぐんと腰に届くまで長くなり、逞しく鍛えられた筋肉を持つ体躯に変わると、彼の服が破け美しいタトゥーが浮かび上がる。

 カイの意識は途切れるが、聞きなれた声だけが彼の鼓膜に届く。

「カイ、すまない。すぐに戻す」

 声の主はそう告げると、TIKIが放つ金緑の光がカイを覆った。

 流れ出た血液が、どんどんとカイの身体に逆流し、傷口もすっかり癒されるとカイの心臓が再び動き出す。

「ごほっごほっ」

 長く息が止まっていたような感覚にカイは大きくせき込んだ。


「カイっ!」

 呆然と立ち尽くすカイに駆け寄ろうとした結月達だったが、一瞬見えない壁に拒まれてしまう。

「あれ? 何だこれ? カイっ大丈夫か?」

 だが、直ぐにその壁は消失し結月達はカイを囲んだ。

「カイっ! 大丈夫? 急にレイノルドと居なくなったから、心配したよ」

「そうだぞ・・・って、え? 凛? どうした?」

「ラ・ン・ギ?」

 カイの発見に喜びの声を上げる結月達の傍らで、凛は口元に手をあてランギの名を呟きながら驚きの表情をつくると一歩前へ出た。


 そんな凛の姿に壮星は不安で唇を噛むが、気を取り直して壮星もランギに歩み寄ろうとする。しかし、異様な雰囲気に壮星は最初の一歩を引っ込めてしまう。


『時間が戻ったのか? 俺は生きてる?』

 カイは心で呟いた。


「マウイ殿、今度ばかりは逃げないでいただきたい。貴殿がまた生贄を蘇らせるだろうと思い、わらわがこうして出向いたのですから」

 ランギの横に立つ女性が必死の形相でマウイ神に語りかける。

 カイは本来の姿に戻ってはいたが、まだマウイ神を近くに感じていた。

「ヒナ様が捕らわれ、テ・イカも弱っておりまする。どうかご尽力くだされ」

 そう告げると頭を下げる。

「兄貴っ!」

 女性の声で意識を前に向けたカイは、冷ややかな形相で立つランギを瞳にうつす。

「兄貴・・久しぶり。元気でよかった」

 カイはそう告げると軽く微笑んでみせた。

「相変わらずお人好しだな。お前、俺に刺されたんだぞ」

 ランギは鼻で笑うとカイに蔑むような視線をおくる。

 大好きな兄に刺されたのは、悪夢を見ていたんだと信じたかったカイは、ランギの言葉を受け入れられず両手で耳を塞いだ。

「俺はな、ずっと嫌いだったんだよ。お前のそういう所がな」

 カイの鼓膜に届いた胸を抉るような兄からの言葉に、優しい彼が変貌したのは隣に立つ女性のせいだと解釈したカイは、彼女に強い怒りと嫉妬を覚え拳を強く握った。

「何か理由があるんだよね」

 気持ちを落ち着かせるように一つ深呼吸をした後にカイは、ランギの隣に立つ女性に視線を移す。そうすることで、兄の苦境を理解していると合図をおくったつもりだったが、そんな弟の考えを吐き捨てるようにランギは更に強く鼻で笑った。

「彼女は海族の女王マリエ様で、俺の命の恩人だ。彼女の望みならなんでも聞くつもりだ。お前を殺すことなど容易いことだ」

 命の恩人だと知ったカイは心の中でマリエに感謝の気持ちを抱きながらも、大好きな兄が自分の命よりも彼女を尊ぶことにショックを受けると肩を落とした。そんな弟に更なる言葉の刃でランギは攻撃を続けた。

「俺はマウイ神の器として生まれてきたお前が疎ましかったんだよ。俺にまとわりついて、指導や助言を求めながらも人間離れした能力で、いつも俺よりも上手くなりやがる。そのくせ俺を崇めるような言葉をいつも吐くだろ。それが、うんざりだったんだ」

 兄からの身を切られるような言葉に刺された胸の痛みが脳裏に蘇ると、その場に崩れ落ちそうになる。

「兄貴・・ そんな」

 カイは目の前が真っ黒になると鼓動が猛スピードで高鳴り、それに反応するように胸元のTIKIが光を放つが、以前のように金緑の輝く光ではなく、黒い闇を吐き出すとカイを包み込んだ。

「うっ」

 突如、海族の女王マリエが胸元に手をあてると、巨大な重力が圧し掛かり身体がどんどんと下降し始める。

「マリエ様・・・ カイっ! お前の仕業か」

 ランギは慌ててマリエの身体を包むと彼女が苦しむ原因がカイにあると察知し、カイを怒鳴りつけた。

「そいつが、優しい兄貴にそんな言葉を吐かせるんだ。家族思いの兄貴を操って俺から奪うつもりなんだっ!」

 闇に包まれたカイは起立すると、黒く染まった瞳が真っすぐ敵であるマリエに向けられる。そして、周辺の岩や石が舞い上がるとマリエに向けて一斉に飛び掛かった。

「はっ」

 重力に押しつぶされそうになりながらも、マリエはバリアを張るとカイからの攻撃を阻止する。だが、カイの攻撃はそれだけでは終わらず、背後に控えていた僕達をも黒い影が包むと、彼等の鋭い視線がマリエに向かい、フェヌアがバリアを破壊しようと切りかかった。

「はっ」

 苦しみながらもマリエは更に強いバリアを張り巡らせるが、次にフアが強風を起こし、厚くなったバリアを破壊しようとする。

「仕方ありません、一旦引きますよ」

 マリエは荒い息でそう告げると、ランギ共々姿を消した。

 最愛の兄を奪われたカイの怒りはおさまらず、黒い影がどんどんと巨大化すると、周りにいる結月達もが重力の影響を受け始め、地面に押し付けられ、洞窟内の岩も次々に崩れ落ち、彼等の頭上に降り注いだ。


「はぁ-。あいつの狙いはこれか」

 薄っすらとした人影が天から降り立つように現れると、カイの身体が何かに抗うようにガタガタと震え始め、周辺の崩れがおさまり始める。

 黒い影が徐々にTIKIに吸収され、逆に従来の金緑の光が仄かに輝きはじめると、カイはその場に崩れ落ちた。



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