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愛おしい人


 レイノルド達に真実を告げたカイの心は若干軽くなっていたが、彼等が最後まで同行することには戸惑ってしまう。それは僕達も同様だったが、結月達を託すつもりだったアリにまで拒否されたカイは、儀式のギリギリまでレイノルド達を連れていくことになってしまう。壮星達の安全を案じるカイだったが、本心はレイノルド達が付き添ってくれる事に心強さもあったため、断固として反対する僕達を最後には説得したのだった。


 フェアウェルスピットは、世界的に貴重な湿地帯で、90種類以上の野鳥やアザラシ等、野生動物の楽園として保護地区に指定されており、一般人が立ち入れるのは最初の4kmだけであり、それ以上はツアーに参加する必要がある。


 フェヌアの家で移動していた一同は、360度遮るものがない幻想的な砂丘をながめながら、目的地だと考えられる灯台に向かっていた。ここフェアウェルスピットでの光景は、現代と僕達の異次元の世界でもさほど変わらぬ姿を残していたが、砂洲の最終地点に灯台が建てられていたことを知る。灯台へ辿り着いたカイは異次元から現代の世界に移動すると、バスツアーや乗馬ツアーに参加した観光客の姿が見えた。

 ふと空を見上げたカイは頭上に輝く太陽の女神タマと目が合った気がすると、規格外な彼女が脳裏をよぎる。

 日食という幻想的な発生を大自然の中で観察しようと通常よりも多くの人が集まっており、今か今かと胸弾ませている様子にカイの立場との温度差を感じた。


「カイ、さっきさ僕のポウナムがちょっと光ったんだよね」

 レイノルドがクィーンズタウンで少女から貰ったポウナムをカイに見せる。

 レイノルドが言う通り彼の首元でポウナム石がわずかな光を放っていた。しかし、その光はカイや僕達のポウナム石が放つ金緑色の輝くような光ではなく、電球のような人工的な光であったためカイの心をざわめかせた。

「儀式と関係あるのかな? 手に取ってみて、何か感じるかも」

 そう問われたカイは、レイノルドの考察に一理あると考えレイノルドのポウナム石を手に取ってみる。

「痛っ」

 電気が走ったような感覚に痛みを感じたカイは咄嗟にレイノルドのポウナムを手放した。

「え?」

 カイは、一瞬自分の身に何が起きたのか分からず呆然としてしまう。

 レイノルドのポウナムに触れた瞬間、一瞬にして洞窟のような場所に転移していたのだ。

 ほぼ等間隔で雫が落ちる音が耳に響き、冷たい空気が頬をなでる。目を閉じたような暗闇ではなく深部にある小さな穴には陽の光が差し込んでおり、異次元ではないとカイは確信すると同時に、ウルタプ達、僕のマナを全く感じられず、周辺を慌てて探した。

「皆・・・」

 深い不安に襲われると胸元にかかるTIKIを強く握るが、一緒に移動させてしまったレイノルドも同様に怖い思いをしていると思い、彼に話しかけようとした時、洞窟の奥に人気を察知する。

「レイノルド、誰かいる」

 レイノルドに話掛けたカイだが、洞窟内ではカイの小さな呟きだけが響いた。

「久しぶりだな」

 予想だにしていなかった懐かしい人の声にカイの鼓動が急激に高鳴った。

「あ・に・き? 兄貴っ!」

 行方不明だったカイの兄、ランギがカイの前に現れたのだった。

 無事だったことに安堵したカイは久々に会えた兄に駆け寄ろうとするが、醸し出す雰囲気に冷たさを感じると踏み出した足を止めてしまう。

 すると、背後に強い光と風が現れると同時にマウイ神の僕と共に、結月達がカイの元に辿り着いた。

「カイっ!」

 突然姿を消したカイの身を案じていた一同は、大声で叫ぶと彼の元に急ごうとするが、見えない壁のようなものに拒まれる。

「時が満ちたようですね」

 美しい女性の声とともに、小穴に降り注いでいた太陽の光が徐々に失われていく。

 水がポトリと落ちる音が洞窟に響き渡るとカイの兄ランギの隣にスパークリングブルーのロングドレスに身を包み、透き通るような青く長い髪と瞳を持つ美しい輝きを放つ女性が現れる。

「マリエ様・・・」

 モアナからポツリと言葉が零れると現れた女性を絶句した面持ちで眺めた。

「マリエ様とは、あの海の女王であられるか?」

「まさか・・・」

「どういうこと」

 その場で驚きを隠せなかったのはマオリ神の僕達だけではなかった。そう、ランギの登場で壮星達をも驚愕させる。

「ラ・ン・ギ?」

 愛おしい人の名を呟いた凛は一歩前に出る。そんな彼女を苦しい面持ちで見つめた壮星は唇を噛む。

 皆、息をするのを忘れたかのように空気の流れが止まると同時に辺りが光を失なった。

『ぐさっ』

 日食と同時に何かを差すような鈍い音で誰もがハッとする。

 洞窟内に再び光が戻ると、うっすらとカイの背後に誰かが立っている姿が浮かびあがる。

「ごほっ」

 皆、何が起こっているのかわからず理解に脳が追いつかず呆然としていると、カイの背後に立つ人間がランギであり、その彼の手に光るモノが見えると、カイの口から血が噴き出した。

「兄貴?・・ごほっごほっ」

 カイは強烈な痛みを発する胸元にあてた自身の手が赤く染まっていることに気付くとその場で膝を折る。

「兄貴・・なんで。ごほっ」

 やっと会えた兄に理由もわからずに刺されたことを悟ったカイは、前方に立つ美しい女性のもとに戻ったランギに視線をおくる。

 僕達が力を合わせて結界を解きカイのもとに駆け付けようとした瞬間、強制的に跪いてしまうと、彼等が持つ全てのポウナムが強烈な光を放つ。その光がまるで吸収されるように、うずくまるカイのもとに集まったのだった。

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