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ニュージーランドのへそ

 月族の近況を手に入れた一同は、一旦解散していたレイノルド達と落ち合うと、次の目的地であるネルソン方面に向かっていた。

 日本に帰ることになった結月達も母美月と落ち合うまでは、カイ達と共に行動することにする。


 ニュージーランドのへそ(中心点)と呼ばれるネルソンは、南島の北東部に位置し、年中を通して気温に差がなく日照時間も長い穏やかな気候の土地であり、黄金のビーチとターコイズブルーの海、新緑の原生林が魅力なニュージーランドで最小の国立公園、エイベルタスマンの玄関口でもある。ネルソンの市街地から車で10分ほど行った場所にウォーキングウェイがあり、30分ほど徒歩で登るとニュージーランド中心点のモニュメントに辿り着く。


 マオリ神の僕よると、マオリ神を蘇らせる儀式の場所はその都度違うらしく、今回はネルソンからさらに北へ移動したフェアウェルスピッツと呼ばれる南島の北西に突き出た35kmにもおよぶ美しい砂州で鳥類保護区が選ばれたらしい。フェアウェルスピッツは大理石の山とも知られ、非常に険しく曲がりくねった道が続くタカカヒルとニュージーランド人にとって夏のリゾート地であるゴールデンベイを超えた独特な雰囲気を持つ地帯である。

 

 フェヌアの家で移動していた一同は、金色の砂浜が美しいゴールデンベイに到着していた。色鮮やかな水着姿の人々で賑わうゴールデンベイであったが、異次元にいるフェヌアの屋敷からは美しい海と浜辺だけが見え、時が静かに流れていた。ここで、レイノルド達とは解散しようと考えていたカイは、皆と共にビーチから青い海と空を眺めていた。


「カイ、そろそろ本当の事を教えてくれないかな」

 カイから、僕達とフェアウェルスピッツに行く旨を伝えられた皆は、理由が聞けない雰囲気に言葉が出なかった中、レイノルドだけは違っていたのだ。

「レイ、本当の事って・・・ 俺がマウイ神を蘇らせる役割があるだけだよ」

 真実を語れないカイは真っすぐ見つめてくるレイノルドの視線を時折外しながら応える。

「嘘だね」

「嘘だわ」

「カイって分かりやすいよな」

「私達もフェアウェルスピッツに行く」

 根が正直なカイが嘘をつくのが下手だと周知の上であった。

「はぁ-」

 大きな溜息をついたカイの背後に僕達の気配を感じ、なぜか胸騒ぎがしたため慌てて彼等をその場から追い払おうと立ち上がる。

「マウイ様を蘇らせるためにカイには生贄になってもらう」

「カイには悪いが、今回は非常事態でマウイ様の力が必要だ」

「皆、親方様の復活を望んでいる。カイ殿には感謝しかないでござる」

 レイノルド達には知って欲しくなかった事実をカイの心を知ってか知らずか、ズケズケと話す僕達に思わず険しい視線を送ったカイだが、彼らがマウイ神を慕う事も理解していたため、ただその場に蹲ってしまう。そんなカイとは相反して、衝撃的な真実を知ったレイノルド達は、一同にカイを抱き締めた。

「カイ、ダメだ。そんなのダメだ」

「カイ、嫌だよ~」

「生贄ってなんだよ。現代でありえないだろ。冗談だよな」

「カイ君まで居なくならないで」

 結月達の涙がカイのシャツに滲むと、カイの目頭まで熱くなった。

「カイ・・・ 義海だってそんなことを望んでいない」

 カイ達の傍らに静かに立っていたアリも声を荒げる。

「今回の器は愛されちゃってるのね」

 フアは手の平に集めた風と戯れながら呟くと、他の僕達の様子を伺う。少しであったが、カイと時を過ごした僕達の中にも今までとは違い、人間の感情でいう情が沸いてしまっていた。その事を察知していたフアは、小さく溜息をついてから皆に呼びかける。

「別れを悲しんでいるのは分かるけど、タマと月族から準備をしろって言ってきたわよ。急いだ方がいいんじゃない」

「わかった」

 フアの言葉を耳で捉えたのはカイだけであった。簡単に返答をしたカイを抱き締めるレイノルド達の腕の力が強くなるが、カイはそれらを優しく退け、立ち上がると、僕達に真顔を向ける。

「なぁ、マウイ神ってどんな神様なんだ?」

 この状況で突拍子な質問に僕達は一瞬腰を抜かしそうになると、お互いに顔を見合せた。

「そりゃあ、超がつくほど我儘や」

「手前どもの憂慮も顧みず無鉄砲でござる」

「いつも無茶苦茶だな」

「自分勝手なのよね」

 褒めたたえ崇めるだろうと考えていたカイは、マウイ神に対する不平不満を聞いて顎が外れそうになった。

「いつもうち等の事を気にかけてくれてるからや」

「左様、懐の深い御仁でござる」

「マウイ様以外に背中を預けられる方はいない」

「優しくて、とってもハンサムよ」

 カイの印象では、団結力に乏しい僕達だったが、マウイ神を語る彼等は一つになっており、主への信頼と尊敬の念が輝いて見えた。

「よかった」

 カイがポツリと呟く。

「何がだよ」

「カイ、良い事なんて何もないよ」

 カイの決意を覆すように壮星達は必至でカイに言葉を投げかける。

「嫌な神様だったら蘇らせて皆に迷惑になっても困ると思ったからさ」

「カイっ!」

 カイのすっきりとした表情がレイノルド達の心を更に抉る。

「俺さ、旅行中にマウイ神の友達に会ってたんだよね。皆、口々にマウイ神の復活を望んでてさ、彼の力を必要としてた。俺らには分からない恐ろしい事が起こっているみたいで、もし俺がマウイ神を復活させなくて、皆に何かあったら俺、後悔してしまうから」

「カイ・・・」

 カイの決意が固いことを感じたレイノルド達は次の言葉が出せず、目に貯めた涙を流すしかなかった。

「僕も付いて行く。最後まで付き合うよ」

 レイノルドが彼らしくない表情でカイの肩を掴むとカイに迫った。

「俺たちも付き合う」

「私も」

 カイは自分の死を見せる事になる可能性が高いため応えに戸惑ってしまった。

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