太陽の女神
マウイ神の僕達から共有されていない情報を得るため、カイはレイノルド達とは一旦別れフェヌアの屋敷に到着していた。理解し難い僕達の会話を聞き洩らさないように注意深く聞き耳を立てていたカイだったが、突如屋外で発生した異様な音と光の出現に意識が奪われた時、玄関の扉が開いた。
「フアの風キラーイ、髪がぐしゃぐしゃ。もうっ!」
「あらタマ、早かったわね」
「女神を猫みたいに呼ぶな」
手を使わずに開いた扉の傍らに仁王立ちする女性は、黄金色に輝く髪を綺麗に束ねたポニテが崩れていないかを確認しながら不満を口にする。
「相変わらず、はしたない装いでござるな」
フェヌアは汚らわしいモノを見るような目つきを女神に向ける。
「超暑いじゃん、家だったらこんなものも着てないない」
「相変わらずやな」
フェヌアが顔をしかめるように、現れた女神は黄金色のビキニ姿に裸足で、小麦色に焼けた素肌を露出していたのだ。
「おお、おおおお、もしかして」
終始不機嫌な表情だった女神だったが突如頬を染め、玄関から姿を消すと、深く腰掛けるカイの背後に現れ、彼の首回りに両手を回し豊かな胸を押し付けたのだ。
「むもぉ~ タマ、育ち盛りの青年には刺激が強すぎるわ」
当の本人カイは、何が起こっているのか状況が掴めずただ固まってしまう。
「この子が今回の器、きゃーわーいい」
よだれを垂らしながらカイに回した手の力を強めると背後からカイの頬にキスをしようとする。すると、カイの首にかかるTIKIが突如厳しい光を放った。
「んっもぉ! マウイの奴、ムカつく」
口をパンパンに膨らませご立腹の様子でカイを開放したタマは、ふわりと浮かぶとテーブル近くにあるロッキングチェアに腰を下ろし前後にユラユラと揺れた。
「で、君達が知りたいのってヒナのことぉ? ハックシュン」
チェアを前後に揺らしながらポニテの髪に手櫛を通していると、くしゃみを一つ落とした女神は寒さを感じたのか、指をパチンとならした。すると、黄金色のロングスリーブとパンツの胸元が開いたタイとなボディスーツ姿に変わる。
「太陽じゃないから、そんな恰好じゃ寒いわよ。それにしても女神って派手よね」
フアは呆れ顔でド派手なタマに小言を言いながら手にしたカップとともに台所から出るとダイニングチェアに腰を下ろした。
「ヒナ様の身に何があったんや」
「海族もおかしいぞ」
自分の髪から手を放し両腕を頭下で組んだタマは、ロッキングチェアの背もたれに体重をかけ水平に倒すと、揺れる度にギシギシと小さく響いていた音が止まる。
「ヒナ、ヤバイよ。超ヤバイよ。あははは」
女神の発言に一同立ち上がるとロッキングチェアを囲んだ。
「怖い顔しちゃって。言っておくけど、ボクのせいじゃないからね」
「説明を求めるでござる」
「はよ、言え」
「笑いごとではないぞ」
「はぁ- 皆ヒナのことばっかり」
タマは大きく息を吐いた後、身体を起こすと重みから解放されたロッキングチェアの背もたれが元の位置に戻り椅子の型を取りもどす。
「月族が慌ててボクの所に来てさ、人間が月にやって来て捕まったって言ってた」
「何やてっ!」
「ヒナ様が人間に捕獲されたと申すのか」
「まさか」
「嘘でしょ」
タマからの衝撃的な報告に僕はタマに掴みかかりそうになったため、タマは姿を消し僕達の頭上に浮かぶ。
「君達、ボクのせいじゃないって言ってるじゃん」
「すまない、つい」
フェヌアは冷静さを取り戻すと頭上に浮かぶ女神に軽く頭を下げた。フェヌアの態度にタマも応じると少しずつ地上に降り立ち、食卓を囲む空いた席に腰を下ろすと隣に座るカイにウィンクをする。
「月の女神が人間にさらわれたのか?」
終始冷静さを保っていたカイがタマに尋ねると、顎肘をついたタマはコクリと頷いてみせる。
「ヒナって派手じゃん。見つかって、パンってやられた」
そう告げ右手でピストルをつくると、親指を曲げ「パンっ」と擬音を発する。
「打たれたのかっ」
これまで静かに会話を聞いていたカイだったがピストルの登場に思わず声のトーンを上げてしまう。
「カイちゃん、ヒナ様だけでないアタシ達もだけど、人間の道具で死んだりしない」
「フアの言う通りや、ただ・・」
「異物で化石化されたのでござるか・・」
「月族は何をしているんだ。役立たずが」
モアナは拳を強く握ると苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「人間が月のダークサイドまで来るなんてさ、誰も予想していないじゃん。結界も間に合わなかったって言ってた」
「ヒナ様を探すためにカイのTIKIが必要なんか?」
「それそれ。あと、このままだと、日食なんて無理じゃん。逆にボクが月を食べるか。クスクス」
カイから終始視線を外さないタマは、彼に魅惑的な眼差しを投げかけながら微笑する。しかし、厳しい表情を浮かべる僕達を逆撫でするような発言をしたため、カイにも固い表情をさせてしまう。
「おいコラ、何を言うてんねん」
「太陽の女神でも許さんぞ」
「左様」
「このままじゃ、アンタだって昼夜問わず働くことになるわよ」
ヒナを慕う僕達の攻撃的な口調にも動じずにタマはカイの顔を除き込んだ。
「マウイ神が復活できないなら、君だって生き残れるじゃん。でしょ」
思いもしなかった言葉を太陽の女神から投げかけられたカイは一瞬息をするのも忘れるとタマを凝視した。




