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パンケーキロック

 3000万年という長い年月をかけて自然がつくりあげた芸術品パンケーキロックは、かつては海の底にあった。有機物と砂が幾重にも重なり圧縮され形成された石灰岩と砂岩の層が無数につくられる。地殻変動によって海底が上昇し水面に現れた層は、雨風にさらされ柔らかい砂岩が先に浸食されたことで丸いパンケーキを重ねたような彫刻ができあがった。

 この岩壁の内部では雨によってつくられた縦穴と波による横穴がつながりトンネルが形成され満潮時に大きな波がこのトンネルに押し寄せると、噴水のようにリズミカルに海水の柱が噴き上がる。この場所はブローホールと呼ばれている。 


 パンケーキロックへの入口であるプナカイキは、人口70人の小さな集落だが、宿泊施設や飲食店にギャラリーもある。パンケーキロックへは原生林を歩くことになるが綺麗に整備された遊歩道があり往復でも20分ほどの距離である。プナカイキでは、パパロア国立公園へのインフォメーションも得ることができ、氷で覆われたアルパイン地区とは全く異なったジャングルのような広大な国立公園は、野鳥と原生林の楽園であり、ハイキングやマウンテンバイクは勿論、乗馬やカヤックなどのアクティビティも提供されている。


 4人目の僕がパンケーキロック周辺いると察知したカイに従い、全員でプナカイキの駐車場に辿り着いていた。

 小さな集落だが観光客が多数訪れており、ニュージーランドを旅行するうえでパンケーキロックは外せない一つだと言える。


「こんな沢山の人がいるのに大丈夫なのか? お前等の登場は派手だからな」

 駐車場に停車されている多くのバスや車を眺めながら、下車したカイが呟いた。

「あいつは変な奴やからな」

「いつも神出鬼没でござる」

「まったくだ」

 僕の口調から4人目の僕に対して不安を覚えたカイは、ゴクリと唾を飲み込むと意を決して、首にかかる紐を引っ張りTIKIを手のひらで包んだ。

 既にほんのりと光を放つTIKIだが、ウルタプ達と出会えたように導くような光を発しておらず、身体に感じた異変に対して疑念を抱いてしまう。

「もし間違いだったらごめんな」

 案ずるような眼差しでカイを見守るレイノルドにカイは小さく呟いた。

「神出鬼没って言われてるし、ここに居たけど移動しちゃったのかもね」

 そう告げるとレイノルドはウィンクをする。

「とりあえずドロマイトポイントまで行こか」

「そうだなウルタプ、せっかく来たんだしパンケーキロックは見なきゃな」

 僕達は周辺に意識を集中させながら、歩みを海の方へと進ませると、カイと皆も彼等に続いた。

 潮と新緑の香に加えて心地よい波音に誘われるようにカイ達は、パンケーキロックまでの遊歩道を静かに歩いた。観光客とすれ違う際、挨拶を交えると皆満足した微笑みをカイ達に送る。

「パンケーキ楽しみだね」

「姉ちゃん、カフェに行くんじゃないぞ」

「本当だ、壮星君面白い。アハハハ」

 足取り軽い結月達は辺りを警戒しながら歩くカイや僕達を追い越す勢いだったため、カイは彼等に道を譲ると僕達もカイに続いた。

「どうや、何か感じるか?」

「TIKIは少し光ってるけど、強い反応はないな」

「しかしながらこのままでは海に出てしまいますぞ」

「はぁーどいつもこいつも」

 4人目に対する不服を聞きながらカイは理由もなく鬱蒼と茂る森に意識が奪われてしまう。すると森林から突如突風が吹き荒れ、思わず目を閉じると腕で顔を覆った。

「え?」

 先ほどまで足元にあった遊歩道がなく、その変わりに原生林が広がっている。

「どういうことだ? 俺、浮いているのか? まさか」

 夢でも見ているような状況にカイは両目を右手の甲でこすると、意を決して目を見開く。

 目前には白い波を立てる大海原が広がっており夢ではないと確信する。暖かい光を放つTIKIが、カイの手の平から離れゆらゆらと宙に浮かんでいるのを見ると、不思議とカイは平常心を取り戻した。

「フア、近くに居るのか?」

 4番目の僕フアの仕業だと考えたカイは、自分が宙に浮いていることや、辺りにウルタプ達や仲間の姿がないにもかかわらず、フアに呼びかけた。

 すると、いつものようにカイの意識が遠のいていくと身体が入れ替わる感覚に陥る。

「主様、お久振りでございます」

 モアナに引けを取らないほどの長身だが、スラリとした体躯に金色の刺繍を施した真っ白なガウンで身を包んだ者が現れる。ストレートの長い髪は輝くような紫色をしており透き通る水色の瞳は宝石のようで薄っすらとカイの姿が映る。

「フア、久しいの。相変わらず自由を楽しんでおるようだな」

「とんでもござりません。主様の居ないこの世界は退屈で寂しい限りです。早く復活してください」

 空中ではあるが、そう告げたフアはウィンクをすると、そこに地があるように跪き首を垂れた。

「顔を上げろ。お前には似合わぬ。吹き出してしまうぞ」

「そんなこと言わないでください。アタシだって礼儀くらい心得ております」

 カイの左手を取ると甲にキスをした後に薄ら笑いを浮かべながら立ち上がった。

「今度の器は随分と可愛いですね」

「食うなよ」

「大丈夫ですよ。主様が蘇るまでに傷物になんてしませんから」

 フアは、右手甲を口元に添えるとクスリと笑った。

「皆が憂慮しておる。そろそろ戻してやれ」

「はぁ―い」

 フアは良い返事をすると投げキッスをカイに送った。


 耳元に人々の会話が聞こえてくるとカイは、自分が無意識に歩いていることにハっとする。

「気がついた? カイちゃん」

 頭上から声を掛けられたカイは見上げると、紫色で長かった髪が同色だがツンツン頭の短髪になっており、両耳だけでなく鼻と唇にピアスを光らせたパンク姿の男が並んで歩いていた。

「え、えええっ!」

 マウイ神に身体を乗っ取られることに慣れたカイは、フアの姿や彼等の会話をしっかりと覚えており、あまりの変わりように驚くと、その場で仰け反ってしまった。




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