プナカイキ
従姉弟である結月と壮星の母、美月が仕事でニュージーランドを訪れることになり、結月達3人は日本へ帰国させられることになった。帰国までに4人目の僕に会えるようにと祈る結月達だったが、4人目の僕が見つかった際、任務を果たしたカイも一緒に帰国できるのかとういう疑問が彼等の脳裏に浮かぶと、軽い気持ちでカイに問うてみる。
生贄になりマウイ神を復活させるなど微塵も語ることができないカイは、彼等と一緒に帰国できない口実を必死で考えた。
「俺は・・・一緒に帰れないよ。ほら、親父が死んじまったんだからさ、日本に帰っても一人だろ」
カイには家族が日本に残っていないことを失念していた結月達はハッとすると、心無い言葉でカイを傷つけたのではないかと口元を手で覆った。
「カイ、ごめん、俺、旅行してて肝心なことを忘れてしまっていた。本当にごめん」
「カイ君、私もごめんなんさい。旅行が楽しかったからって、お父さんのこと・・」
「カイ、本当にごめん。おじさんがあんなことになって直ぐなのに、私ったら」
「頭なんて下げないでくれ。俺も旅行が楽しかったし、皆が居てくれて心強かったんだから、礼を言うよ。ありがとう」
3人同時に頭を下げられたカイは自分の胸前で両手を左右に振った後に、結月達に向かって頭を下げる。結月達の思いやりが逆に真実を告げていないカイの罪悪感を刺激すると頭を下げながら心で謝罪する。
「人間は頭下げるの好きやな」
「ウルタプは彼等の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいでござる」
「あっははは、まったくだ。ツイツイ、こんな恩知らずの主人を早く捨てろ」
真実を語らないカイを尊重した僕達は、頭を下げ合う人間たちの姿を滑稽だと、話をすり替えることでカイを補助した。
「何だよ。皆俺のことを心配してくれてるんだよ。ウルタプみたいに食べてばかりじゃないんだ」
「・・んやてっ!」
「あははは、まったくだ」
「正論でござる」
皆に馬鹿にされたと感じたウルタプは口を尖らせると腕を思い切り組んだ。隣に座るそんな彼女の顔を覗き込んだカイは、助け舟を出してくれた事に感謝の笑みを送る。
「ごめんごめん、ウルタプのお陰でニュージーランド観光が沢山できたよ。ありがとうな」
カイの優しい語りかけに頬を赤らめながらも不機嫌な顔を崩さないウルタプは更に口を尖らせた。
「モアナとフェヌアもありがとう」
カイはテーブル脇のソファに座る2人にも礼を述べると壮星達も口々に礼を述べる。
「それで、みっちゃんとはどこで落ち合うんだ?」
「まだよく分かんない。ニュージーランドに仕事で行くって言ってただけだから」
「そうなんだ」
ポケットから携帯を取り出した結月が母からのメッセージを確認していると、壮星が彼女の携帯を覗き込んだ。
「不思議なんだよな。俺達、母ちゃんにどこに居るか話していないのに、ウェストコーストに居るって知ってたんだよ」
「携帯のGPSかな?」
「お、凛、頭いい、そうかもな」
「じゃあ、このままま一緒に旅行してていいんだな」
カイは少しホッとした顔で尋ねる。
「おお、一緒に4人目の僕を見つけるぞ」
「おお」
「あははは」
そう告げた壮星が右の拳を高く上げると、カイ達もそれに続いた後に、笑いが零れる。
真実を告げずに済んだカイは胸をなでおろしながらも、少しだけ胸にチクリと痛みを感じた。
ウルタプの小屋で移動しながら夜を過ごしたカイ達は次の目的地であるプナカイキ近郊に辿り着いていた。
「おはよう」
朝食で集まった一同がテーブルに着くと同時に、ほんのりと湯気が上がる皿がツイツイの能力によってそれぞれの前に置かれる。
「パンケーキとベーコン、バナナ」
「私これ大好き」
「ツイツイ、最高だな」
「本当に、いつもありがとう」
礼を述べながら皆は、皿の左右に置かれたフォークとナイフに手を延ばした。
「カイ君、プナカイキに行くって言ったよね」
「ああ」
「そこって、これがある所だぁ」
いつものように付箋が沢山付いているガイドブックの1ページを凛が広げて見せる。
「凛、何があるの?」
使いこなせ始めたフォークとナイフで上手にパンケーキを切った結月は、メープルシロップをたっぷりと付けながら、凛のガイドブックを覗き込んだ。
「パンケーキロックって観光地よ」
『カチャ』
まるで凛のその言葉に応じるようにカイの身体全身に電気が走ると、思わずフォークを皿の上に落としてしまう。
「なんやカイ、そこに居るんか?」
カイの異変に反応した僕達の視線が一斉にカイに集中する。
「うん」
ウルタプからの問いにカイは自分が落としたフォークを凝視しながら、簡単に応えた。
「え、カイ、どういうこと?」
マウイ神の僕同様にカイの動向に注視するレイノルドは、食べていた手を止めると交互にカイと僕を見つめた。
「パンケーキロックで4人目の僕さんと会えるみたいだね」
「マジでぇ、今度もウルタプ様みたな美女かなぁ」
「パンケーキ?」
目尻を下げる壮星の横で結月は皿上の丸いパンケーキをフォークでつついてみる。
気軽な結月達とは対照的に、身体に走った衝撃に支配されているカイは、ナイフも手から放すと大きく息を吸い込んだ。
最後の僕が見つかれば旅行は終わり、同時にカイの命も尽きることになる。
自分の終末が目前に迫ったカイの視界が急激に暗くなると、死の恐怖が彼を覆った。




