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金鉱で栄えた町

 久方ぶりにアリの車で移動することになったカイ達は、南島の西海岸沿いを潮風を感じながら車を走らせていた。全開の車窓から涼しい風が入り込むと、真夏であってもエアコンの登場を必要とせず、心地良さと大海原の雄大さに、自然と車内が静かになってしまう。

 久しぶりに訪れた懐かしい景色は父との思い出を想起させ、カイの胸を時折締め付けるが、使命感を重んじる彼は胸元にあるTIKIに変化がないかを確認することで悲しみを紛らせた。

 カイの隣に座るウルタプは相変わらず両手いっぱいに食べ物を持ち満足気ではあるが、カイの表情を伺う度に無言で目線を下に落とした。


「どこに居るのか見当もつかないのか?」

 静かな空気を打ち破ったのはカイの言葉だった。

 カイの口調にどことなく固さを感じたウルタプであったが、動じないように装うと大きく広げた口にマフィンを放り込み一気に飲み込んだ。

「分からん」

 咀嚼しながらの返答にカイは隣のウルタプを一瞥するが、再び視線を車道へと移す。

「そっか・・毎回、僕の居る場所が違うってことか」

「そうや・・いや、ちゃう」

 自分の言葉を自分で即否定したウルタプは、足元に置いてあった買い物袋からポテトチップスを取り出す。

〈ボンっ〉

 ポテトチップスの袋から空気が解放されると同時に香ばしい香りが車内に漂う。

「どっちだよ」

 カイは苦笑いを浮かべながら、ウルタプが開けたポテトチップスの袋から数枚チップスを手に取ると、ウルタプからの厳しい視線を浴びながら口へと放り込んだ。

「このケトルポテトチップス、俺の好物なんだよな、サンキュ」

「それ美味しいよね」

 背後から賛同する声を聞いたカイは、ウルタプの足元にあるショッピングバックを掴むと後部席に渡す。

「おい、こら、それはウチのやっ!」

 ウルタプは口先では抗議しつつも、バックを奪い返そうとせずに自分の手にあるポテトチップスを数枚口に含むと指に付いた塩を舐める。

「とにかく、ウチ等の場所はマウイ様の意向で決まるんや。毎回どこか分からん」

「そうなんだ。じゃあ探すの難しいな」

「いや、カイは感じるはずや。ポウナムばっかり気にせんと自分のマナを感じたらええ」

「マナ・・・って言われても。俺、霊能力とかないし」

 自分の身体に異変を感じる時間が長くなったカイは、ウルタプの言葉を理解しながらも自身でコントロールしているわけではなく戸惑ってしまう。

 再び静かになった車内にポテトチップスをかじる音が響くうちに次の目的地であるグレイマウス近くに辿り着いていた。


 クライストチャーチからトランツ・アルパイン鉄道で結ばれているグレイマウスは、街の中止部からマウントクックの優美を拝むことができるウェストコーストで最も栄えている町である。グレイ川の入り口にあるため、以前はマオリ語で【マフェラ】(大きく開いた河口) と呼ばれておりマオリ族の集落があった。かつては金鉱山であったため博物館や街中でその歴史を学んだり、古都を囲むように建てられた川沿いの長大な洪水提沿いの遊歩道の所々に金鉱発掘で栄えていた古き時代を感じられたりする。また地域の65%が保護地区に指定されているため多くの長短距離自然歩道がある。中でもポイントエリザベスウォークウェイは、金鉱発掘作業のために整備された歩道で、亜熱帯森林の香りと鳥達の囀りに包まれ発掘跡を観察しながらタスマン海の崖上まで行けるハイキングコースである。その他、グレイマウスにはニュージーランドで人気のビールメーカー【モンティース】の工場があり、色々なビールが味わえる試飲付きの工場見学も人気である。海釣りや海水浴に加え、川ではフライフィッシング、ラフティングなどのアクティビティが親しまれ、また周辺にはマス釣りで有名なブラナー湖もある。


「ここにも居ないようだな」

 胸元のTIKIを手で包むカイは、グレイマウスで有名な光景、タスマン海に沈む夕日を眺めながら告げた。

「そうかぁ。ほな日が沈む前に家に帰るで」

「うん」

 赤く染まったビーチの砂をいじりながらカイ達を待つ壮星達の元に、足早で辿り着いたカイは、日が地平線に隠れるギリギリまでその雄大な景色を皆で拝んだ。

 大海原は異様に静まりかえっており、潮の香が重く感じたカイは、シャツの下に収めたTIKIを服の上から握りしめた。


「はぁ~お腹いっぱい」

「ニュージーランドのサーモン、ヤバイほど旨いよな」

「グリーンリップドマッセルも美味しいよね」

「ニュージーランドも島国だから魚介類は豊富だよ」

 食卓を囲んだ一同は膨らんだ胃袋辺りをさすりながらダイニングチェアの背もたれに身体を預けた。

「カイ、あのね、私達そろそろ日本に連れ戻されるかも」

 真剣な面持ちでカイを見つめた結月は、肩を落としながらそう告げる。

「あぁ―、もうちょっと一緒に旅行したかったのになぁ」

「そうよねぇ。でも一応留学だし」

 結月の言葉をきっかけに壮星と凛も満足した食欲とは裏腹に複雑な表情をすると、3人同時にテーブルで湯気を上げるティーカップに手を延ばした。

「え、どういう意味だよ」

 予想外の発言にカイは、口に入れたパブロバが舌の上で溶けると直ぐに結月達に回答を求めた。

「母ちゃんがニュージーランドに来るみたいでさ」

「連れて帰られるんじゃないかなって」

 口に含んだミルクティーを喉に通した結月と壮星がカイに返答する。

「えっ、みっちゃんが?」

「そうなんだよな。仕事で来たみたいだな」

 みっちゃんとは、カイの叔母美月のことでカイの父義海の妹である。

「仕事で海外まわってたもんな。ニュージーランドに来ても変じゃないよな」

「それは残念だね」

 カイの隣に座るレイノルドも残念そうな面持ちを浮かべると結月、壮星、凛と目を合わせる。

「4人目の僕さんが見つかるまで居れるといいなぁ」

「だよなぁ」

 結月は持っていたティーカップをテーブルに置くと再び真顔をカイに向ける。

「ねぇ、カイ、4人の僕さん達を見つけたらカイも一緒に帰れるの?」

「そうだよ、カイはお役御免になるんじゃないのか?」

 壮星達は素朴な疑問をカイにぶつけたつもりだが、カイ本人は返事に困ってしまい脳内細胞を必死に活動させた。


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