西海岸へ
一行が辿り着いたウェストランド・タイ・ポウティニ国立公園は、ニュージーランド南島の西海岸中央に位置し、4つの国立公園から成る世界遺産【テ・ワヒポウナム】の一つである。ウェストランド・タイ・ポウティニ国立公園は、海岸線からわずか10kmの距離にあるにもかかわらず、2000m級の急峻な山々が聳え立つユニークな地形で、複数の氷河もあり、温帯多雨林が生い茂る所まで氷河の先端が延びている珍しい国立公園である。
マオリ神話で、山から滑落した男性の恋人の涙が凍ってできたと伝えられているフランツ・ジョセフ氷河と、その近くにあり大きさもほぼ同じことから【双子の氷河】として知られているフォックス氷河が有名で、二つの氷河は他の氷河と比べて10倍もの早い速度で流動しており日速1~2mにも達し、何百万年もの時間をかけて後退や拡大を繰り返し垂直に切り立つダイナミックな景観を生み出している。両方とも近くには各々の名を持つ村があり、そこからのアクセスが可能で様々なガイド付きハイクツアーが催行されている。
野鳥天国でもあるウェストランド・タイ・ポウティニ国立公園では、鳥たちの美しい囀りに癒されながら周辺の湖や川、ラグーンでカヤックを楽しむことができる。またフォックス氷河村では徒歩ですぐの所にツチボタルが生息する洞窟もあり、足を延ばせば晴れた日にマウント・クックの姿を水面に映す美しいマセソン湖もある。
モアナは約束したように壮星達をフランツジョセフ氷河近くの観光客が辿り着けない場所に一旦停止した。アリの計らいでアイゼンを靴に装着すると初めての氷河の感触や味わいに皆感激する。深い青色に輝く氷河で形成された壁やトンネルは自然の持つ偉大な力をカイ達に感じさせた。
その後、海からウェストコースト沿いを北へとのぼると、ホキティカに到着する。
タスマン海とサザンアルプスの山々に挟まれたウェストコーストは、幅50kmに満たない細長い地形をしており、また偏西風と赤道からの暖かい空気によってニュージーランドでは最も雨量の多い地域である。南北600kmの各地には多くの見どころがあり、ニュージーランドの象徴であるシルバーファーン(シダ)の銀色の葉に雨水が輝く幻想的な姿を至る所で見ることができる。
カイ達が到着した南島西岸の都市ホキティカは、マオリ語で【Hoki/ホキ 帰る tika/直ちに】を意味する。昔、ホキティカの地で採取できるポウナム(グリーンストーン)を狙って他所からやって来た部族が、ホキティカの地に住む種族を襲おうとするが、他部族のチーフがホキティカ川で溺れてしまう。チーフを失った種族は慌ててその地を去り、自分の住む村へ帰ったと伝えられているからである。
この伝説の通り、ホキティカは、ポウナムの伝統的な産地でポウナムのジュエリーやアート作品を専門に扱う店が多い。
ホキティカ南部のマヒナプア・リザーブでは湖沿いを歩いたり、クルーズ船も運行しており、中でも樹上アドベンチャーが人気である。地上47メートルに設置されたタワーの頂上から白化粧のサザンアルプス、タスマン海とマヒナプア湖の青さを360度のパノラマティックな景色でお腹いっぱいにした後には、時速65kmの速さで太古樹リムの頂から温帯雨林の木々の間を鳥のように滑空するジップラインがあり、2本平行に走るこのジップラインではお互いの速さを競ったり、仲良く滑り下ったりができる。また地上20m、全長450mの歩道橋もあり、ここからも緑の向こう側にマヒナプア湖を眺め、風を感じながら森林の青い香りと木々で暮らす鳥の会話が楽しめる。
「今までと景色が全然ちがーう」
「すごーい、温帯雨林だよぉ」
「すげぇよな~」
ウルタプは自身の家をリム群生林の樹冠上に置くと、カイ達は窓から見える絶景に息をのんだ。
「ホキティカと言えばワイルドフードフェスティバルで来たよね」
カイはそう告げるとアリとレイノルドに視線をおくる。
「面白い体験したよね」
「だなぁ」
「フードって食いモンやろ。どこや、行くぞ」
会話をしていたカイとレイノルドの間に飛び込んだウルタプが目を輝かせながら舌なめずりをする。
「残念だけど今はやってないな」
「それに虫とか変わった料理ばかりだよ」
「虫っ! 食ってみたかったな」
レイノルドの肩を掴んだ壮星がポジティブな反応をしている後ろで女子チームは眉間にしわをよせる。
ホキティカの人口よりもはるか多くの来訪がある【ワイルドフードフェスティバル】毎年3月上旬に開催され町全体が賑やかになる。その名の通りワイルドな食品、芋虫のソテーやバッタのフライ、雑草のスープに羊牛の睾丸焼き、蜂の幼虫のアイスクリームなど普段では食べられないような珍味を食することができる。音楽やニュージーランドワインとビールに加えて地元の食材を使ったワイルドでない美食も堪能できる年に一度の人気イベントである。
ホキティカ周辺ではカイの持つポウナム(TIKI)が反応をしなかったため、モアナは自身のワカで海を移動、残りのメンバーはアリの車でウェストコースト沿いで最後の僕を探すことにした。




