森の家
ワナカを堪能した一同は途中、食料等を買い込むとテカポに到着していた。
ニュージーランド南島の中央部に位置する小さな町テカポは、クライストチャーチから車で3時間半ほどの距離で定期バスも出ている。
「Teka(眠る)」 「Po(星・夜)」が語源のとおり世界一美しい星空で有名な町で、星空保護区に指定されており、テカポに住む人々も下向きの街灯やオレンジ色の電球を使用するなど、光害を最小限に抑える生活に尽力している。
「うわ~ テカポもかわいい」
「同じ湖なのに、それぞれ凄く個性があるよね」
「だよな、俺、ここも好きだ。ホッとする」
「あ、でもテカポって確か・・・」
何かを思い出した凛は手に持つガイドブックを広げる。
「これこれ、テカポってこの風景よね」
凛のガイドブックを覗き込んだ結月が、ガイドブックに映るテカポに納得すると、再度目前に広がる本物のテカポを見渡した。
「確かに、この景色、有名だよな・・ あれが、これじゃね」
壮星は、少し離れた場所にひっそりと建つ小さな建物を指差すと、再び視線をガイドブックに移動する。
「テカポの風景ってこれだよね」
「だな~」
3人の会話に気付いたカイとレイノルドは彼らに近づくと、少し残念そうな面持ちを向けた。
「11月に来れていたらルピナスって花が沢山咲いていて、この写真にある景色が見れたんだけどね・・・ごほっ、見れたでござる」
レイノルドは握り拳を口元に置き、小さく咳払いをしてから言い直すと、ウィンクをする。
「あ、ほらっ!」
先ほどから必死で何かを探していたカイが高ぶる声で遠くを指さすと、小走りで駆け出した。
「あっ」
ガイドブックを閉じた凛がカイの行く先に綺麗な色を見つけると慌ててカイの後を追ったため、結月達も彼女に続く。
「残念ながら沢山は残ってなかったけどさ、これなら、ほら、羊小屋を背景に写真が撮れるぞ」
「カイ君、本当だ、素敵」
目を輝かせて礼を述べた凛は早速、しゃがみ込むとスマホをセットする。
「ガイドブックに載ってたのと似てる、ありがとう」
「カイ、すげー、サンキュ」
結月と壮星も口々に感謝を告げると写真を撮り始めた。
「カイ、お手柄でござるな」
「レイ、お前まで」
星空で有名なテカポだが、11月~12月の時期にはピンクや紫色のルピナスの花が咲き乱れ、湖畔付近の石を集めて建てられた質素な中にも厳粛な雰囲気を醸しだしている『善き羊飼いの教会』とのショットが有名である。
「暗なってきたから、うちの家に行くで」
地面に張り付きながらスマートフォンで写真を撮る壮星達の頭上にウルタプが話掛ける。
「あ、ウルタプ様」
「何を必死で撮ってるんや? そのルピナスか?」
「そうそう、残念ながらこの子しか残ってないの」
「少しだけでも見れてラッキーだよ」
服に着いた枯草を払いながら三人は立ち上がると、ウルタプの前に並んだ。
「うちの家からルピナス見せたるから真っ暗になってまう前に早よ行くで」
予期せぬウルタプの提案に三人は顔を見合わせると満面の笑みを浮かべる。
観光地として人気のテカポは至る所に人が居たため、一同は人気のない場所に移動する。
「ほな行こか」
木々しかない場所でポツリと呟いたウルタプが両手を広げると彼女の両耳にぶら下がるポウナム石が強烈な光を放つ。一瞬視覚を失った一同だったが、徐々に薄れていく光に恐る恐る瞼を上げた途端、あんぐりと口を開けた。
鳥達が楽し気に飛び回る中、色取り取りの花々に綺麗に囲まれた中心に、丸太で丁寧に造られた立派なログハウスが現れたのだ。
「綺麗!」
「ウルタプ様のお屋敷ですか? 素晴らしい」
「ウルタプの家、いいじゃん」
「見て!」
背後から聞こえる水音にふと振り返った凛の眼にカラフルなルピナスが咲き乱れるテカポ湖があったのだ。
「キャ――っ!」
興奮から思わず奇声を上げてしまった結月が走り出すと凛も真似る。
「素晴らしいです。いや本当にすごい。ウルタプ様ありがとうございます」
壮星はウルタプに深々と頭を下げると足早で結月と凛に追いつくと、スマートフォンのボタンを何度も押した。
夕焼けでピンク色に染まった空と山々を背景に、色彩豊かなルピナスに囲まれたテカポ湖は地上の物とは思えないほどに幻想的で、アリとレイノルドも自然と足を湖へと進めてしまう。置いてけぼりになってしまったカイも皆の後に続こうと一歩前に踏み出したところで背後から声を掛けられた。
「うち等は中に入るで」
「え? あ、俺もちょっと外を・・・」
カイも結月達と同様にルピナスとテカポ湖のショットをスマホに残したかったが、ウルタプだけでなく、渋面を浮かべるモアナとフェヌアの態度に同意するしかなく、彼らに続いてウルタプの家に入った。
「うぉ~ すげぇな」
丸太の優しい香りが漂う屋内は、外観に劣れぬほどに色鮮やかな花々達の微笑みがカイを暖かく迎えてくれる。
家具などは勿論、家と同様に木々で造られており、その上に可愛いパッチワークされた布が掛けられていた。
「ウルタプ、態度とは違って随分と乙女な家だな」
「煩いわ。全部ツイツイの好みや。ま、でも麗しいうちに相応しい家やろ」
不適な笑みを浮かべたウルタプは、美しくカービングされたログチェアーを引くと腰を下ろす。
「はい、ウルタプ様」
ツイツイが、テーブルに紅茶のセットを置くと、ウルタプの前にカップを一つ差し出した。
「本当によくできた僕だな」
モアナは、働きモノのツイツイに熱い視線を送りながら、椅子に腰かける。
「右に同じでござる」
フェヌアも頭を縦に何度も振りながら、モアナの横の椅子を引いた。
「ツイツイは家来ちゃうで、うちの家族や」
ウルタプの言葉に感動したツイツイは、瞳を潤わせると羽を胸元で組んだ。
紅茶にタイムを混ぜたブレンドハーブティーの香りがカイを包み込むと、テーブルを囲むマウイ神の僕達の会話を聞きながら頬を緩ませた。




